[PH18] 「フィールド(畑)」を創る
地域連携のもとで大学生の研究力の成長を促す仕組みの構築
キーワード:地域連携, 社会ー技術的ネットワーク, 第5次元プロジェクト
問題意識
今日,多くの大学が地域連携に関心を持ち取り組んでいるが,研究活動と地域連携は担当部署が異なる場合が多く,関わる教職員の意識としても両者を別のものとして扱う傾向が強い。地域との安定した関係の構築と維持は,大学生(および研究者)にとっての研究フィールド(=畑)の確保にもつながる。自治体や,地域の企業,市民団体などの側からも大学との地域連携への関心がますます高まっている現状は大きなチャンスでもある。
しかし研究者や学生にとって,単発的・短期的な参加はさほど敷居が高くなくても,長期的・継続的に地域と関わることには多くの困難が伴う。
このような連携関係の安定を一つの社会的システムとした捉えた場合に,それがどのように可能になるかを考える研究は従来,ほとんど見られない。
目 的
筆者は関与しているいくつかのフィールドについて,個別の検討を加えてきたが(中村,2011など),本稿ではそれらを総合して考察する。フィールドの継続性という課題について先行する重要事例として第五次元プロジェクト(Cole,1996)が挙げられるが,これについてのフィールドワークの成果,および筆者の10数年の地域連携の中で得られたデータを素材とする。この検討によって学生にとっての学びと研究の場(フィールド=畑)として,地域との関係を維持するためのポイントを,社会-技術的ネットワークの観点(中村,2017)に基いて提案した。
方 法
筆者は2000年代半ばから学生の学び,とくに研究力の向上と関連付けた形での地域連携・市民参加型活動に取り組んできた。その内容は地域防災や地域のデジタルアーカイブ活動の支援,小学校・中学校の総合的な学習の時間のカリキュラムのデザインと実施,地域の子供達のメディア活動支援,地域の公的施設のウェブページ構築支援など多岐にわたる。単発の活動ではなく,担当した学生が継続的に地域と関わるものが多い。それぞれの活動に学生が継続的に参加する中で,単に行ってくるだけでなく,「フィールドノーツ」と呼ばれる参加記録を作成し,その都度,研究的観点からのリフレクションを行っている。毎年複数のフィールドについて合わせて300ページ以上に渡る記録がある。また第五次元プロジェクトについては,カリフォルニア大学サンディエゴ校における関連活動について教員,チューター,学生に対して行ったインタビューと関係するフィールド(サイト)の参与観察(2010年4-9月)に基づいている。
結果と考察
Coleらが1980年代に提案して後に世界各国に広がった第五次元プロジェクトでは,当初より「持続性(Cole,1996)」が課題として掲げられ,研究,教育,地域貢献の三つの要素を緊密に連関させている。単に社会組織の問題だけでなく,そのシステムのデザインには情報機器(コンピュータ)や場所の選定,多様な小道具(「ウィザード(魔法使い)」を含む)や学生の成果授業としての位置づけや,学生の日報の共有システムなどの非-人間的要素(Callon,1984)が不可欠な部分として組み込まれている。
筆者の取り組みにおいても,長期的な継続は単なる地域貢献ではなく,研究・教育を組み込んでいるからこそ可能になっている。例えば11年間継続した地域防災をテーマとする公立中学校の総合的な学習の実践では,基本的なコンセプトは維持しつつ,その時々の中学校教諭や大学生のアイデアを繰り入れながら実施することで,オリジナリティを持つ研究論文が複数生み出された。フィールドにおいて,このように実践の自由度を許す柔軟さを維持することが重要である。
一方で地域(学校や市民団体など)や大学がコントロールできない要因で協働が終了する場合もある。社会-技術的ネットワークの観点に立つことで,このような経過についてもより深く理解することができる。
引用文献
Callon, M. (1984). Some elements of a sociology of translation: domestication of the scallops and the fishermen of St Brieuc Bay. The Sociological Review, 32(S1), 196-233.
Cole,M. (1996). Cuttural psychology A once and future dicipline. Harverd University Press
中村雅子 (2017). 東日本大震災後の中学生の防災関連意識の変化および防災学習プログラムの継続を可能にする学習環境デザインへの知見 自然災害科学121, 36, 87-107.
中村雅子 (2011). 介入的研究の実践におけるmutual appropriationアプローチの検討 第53回日本教育心理学会総会 2011.7.24~7.26
今日,多くの大学が地域連携に関心を持ち取り組んでいるが,研究活動と地域連携は担当部署が異なる場合が多く,関わる教職員の意識としても両者を別のものとして扱う傾向が強い。地域との安定した関係の構築と維持は,大学生(および研究者)にとっての研究フィールド(=畑)の確保にもつながる。自治体や,地域の企業,市民団体などの側からも大学との地域連携への関心がますます高まっている現状は大きなチャンスでもある。
しかし研究者や学生にとって,単発的・短期的な参加はさほど敷居が高くなくても,長期的・継続的に地域と関わることには多くの困難が伴う。
このような連携関係の安定を一つの社会的システムとした捉えた場合に,それがどのように可能になるかを考える研究は従来,ほとんど見られない。
目 的
筆者は関与しているいくつかのフィールドについて,個別の検討を加えてきたが(中村,2011など),本稿ではそれらを総合して考察する。フィールドの継続性という課題について先行する重要事例として第五次元プロジェクト(Cole,1996)が挙げられるが,これについてのフィールドワークの成果,および筆者の10数年の地域連携の中で得られたデータを素材とする。この検討によって学生にとっての学びと研究の場(フィールド=畑)として,地域との関係を維持するためのポイントを,社会-技術的ネットワークの観点(中村,2017)に基いて提案した。
方 法
筆者は2000年代半ばから学生の学び,とくに研究力の向上と関連付けた形での地域連携・市民参加型活動に取り組んできた。その内容は地域防災や地域のデジタルアーカイブ活動の支援,小学校・中学校の総合的な学習の時間のカリキュラムのデザインと実施,地域の子供達のメディア活動支援,地域の公的施設のウェブページ構築支援など多岐にわたる。単発の活動ではなく,担当した学生が継続的に地域と関わるものが多い。それぞれの活動に学生が継続的に参加する中で,単に行ってくるだけでなく,「フィールドノーツ」と呼ばれる参加記録を作成し,その都度,研究的観点からのリフレクションを行っている。毎年複数のフィールドについて合わせて300ページ以上に渡る記録がある。また第五次元プロジェクトについては,カリフォルニア大学サンディエゴ校における関連活動について教員,チューター,学生に対して行ったインタビューと関係するフィールド(サイト)の参与観察(2010年4-9月)に基づいている。
結果と考察
Coleらが1980年代に提案して後に世界各国に広がった第五次元プロジェクトでは,当初より「持続性(Cole,1996)」が課題として掲げられ,研究,教育,地域貢献の三つの要素を緊密に連関させている。単に社会組織の問題だけでなく,そのシステムのデザインには情報機器(コンピュータ)や場所の選定,多様な小道具(「ウィザード(魔法使い)」を含む)や学生の成果授業としての位置づけや,学生の日報の共有システムなどの非-人間的要素(Callon,1984)が不可欠な部分として組み込まれている。
筆者の取り組みにおいても,長期的な継続は単なる地域貢献ではなく,研究・教育を組み込んでいるからこそ可能になっている。例えば11年間継続した地域防災をテーマとする公立中学校の総合的な学習の実践では,基本的なコンセプトは維持しつつ,その時々の中学校教諭や大学生のアイデアを繰り入れながら実施することで,オリジナリティを持つ研究論文が複数生み出された。フィールドにおいて,このように実践の自由度を許す柔軟さを維持することが重要である。
一方で地域(学校や市民団体など)や大学がコントロールできない要因で協働が終了する場合もある。社会-技術的ネットワークの観点に立つことで,このような経過についてもより深く理解することができる。
引用文献
Callon, M. (1984). Some elements of a sociology of translation: domestication of the scallops and the fishermen of St Brieuc Bay. The Sociological Review, 32(S1), 196-233.
Cole,M. (1996). Cuttural psychology A once and future dicipline. Harverd University Press
中村雅子 (2017). 東日本大震災後の中学生の防災関連意識の変化および防災学習プログラムの継続を可能にする学習環境デザインへの知見 自然災害科学121, 36, 87-107.
中村雅子 (2011). 介入的研究の実践におけるmutual appropriationアプローチの検討 第53回日本教育心理学会総会 2011.7.24~7.26