[PH35] ワークシートの導入による協同学習中の振り返り方法の開発
キーワード:振り返り, 協同学習, メタ認知
問題と目的
振り返りはメタ認知的活動であり,先行研究では,授業後にモニタリングの訓練を繰り返し行うこと,メタ認知的思考・知識を他者と交流することなどによって,学習者のメタ認知能力が育成され,学習成績が高まることが示されている(吉野・島貫,2012;中川・富田,2015など)。一方,吉野他(2012)は開発した振り返り方法の課題点として,授業の時間的な制限や,メタ認知的知識だけでなくメタ認知的活動を書かせるような工夫が必要であると言及している。また,振り返る対象になるのは学習内容の理解度が多く,学習活動の過程について振り返ることの効果は,本邦ではあまり検証されていない。そこで本研究では,より汎用性があり短時間で行える振り返りのワークシートを考案し,それらを使用した振り返りを行うことで学習成績に効果があるのかを検証する。また,振り返りの対象や方法によって学習成績への効果に違いがあるのかを合わせて検討する。
方 法
ワークシート(WS)作成 メタ認知的活動の「モニタリング」「メタ認知的知識の抽出」「コントロール」のサイクルに沿って質問項目を作成した。
実験計画 小学5年生の算数の授業を対象に準実験法による調査を行った。何について振り返るのかという対象要因(グループ活動の仕方について/学習内容や方略について)と,どのような方法で振り返るのかという方法要因(個人でWS記入/グループで話し合ってからWS記入)を独立変数とする2要因参加者間計画であり,条件に合わせた4種類のWSを作成した。さらに,WSを使用せずに授業の最後に教員が口頭でまとめを行う統制群を加え,全5条件を設定した。
調査対象者 公立小学校5校に通う5年生248名,全9学級(条件2のみ1学級,それ以外は2学級)。
調査手続き 5月下旬に当該単元のレディネステストを実施。6月初旬~7月中旬にかけて授業の最後に各条件のWSを使用した振り返りを行う(平均12.2回)。7月下旬に復習テストを実施。
結果と考察
本研究で作成したワークシートを使用した群と統制群で事後調査の復習テスト得点が異なるかを検討した。「レディネステスト得点」を共変量,「条件」を独立変数,「復習テスト得点」を従属変数とした共分散分析を行った。その結果,F(4,40)=6.68,p<.001,η二乗=.056で有意差が見られた。多重比較を行ったところ,統制群と条件1,3との間には有意差は見られず,条件2,4は統制群よりも有意もしくは有意傾向で低くなった。
すなわち,振り返りの学習成績への効果は対象要因よりも方法要因の影響が強く,本研究においては,個人で振り返りを行った群より,グループで話し合いながら振り返りを行った群の方が得点が低くなった。このことは言い換えるとグループで振り返りを行うことの難しさを表しているといえる。さらに,個人で振り返りを行う場合でもWSを使用せずに振り返りを行った統制群と同程度の効果であった。吉野他(2012)ではメタ認知的思考・知識を他者と交流することで学習成績が向上すると示唆されていることを考えると,本研究では交流が単に意見発表の時間で終わり,他者の良い意見を自身の学習に取り入れることができたかに疑問が残る。今後,グループ内での意見交流の方法を構造化するなどの改善を加え,より効果的なものにしていきたい。
振り返りはメタ認知的活動であり,先行研究では,授業後にモニタリングの訓練を繰り返し行うこと,メタ認知的思考・知識を他者と交流することなどによって,学習者のメタ認知能力が育成され,学習成績が高まることが示されている(吉野・島貫,2012;中川・富田,2015など)。一方,吉野他(2012)は開発した振り返り方法の課題点として,授業の時間的な制限や,メタ認知的知識だけでなくメタ認知的活動を書かせるような工夫が必要であると言及している。また,振り返る対象になるのは学習内容の理解度が多く,学習活動の過程について振り返ることの効果は,本邦ではあまり検証されていない。そこで本研究では,より汎用性があり短時間で行える振り返りのワークシートを考案し,それらを使用した振り返りを行うことで学習成績に効果があるのかを検証する。また,振り返りの対象や方法によって学習成績への効果に違いがあるのかを合わせて検討する。
方 法
ワークシート(WS)作成 メタ認知的活動の「モニタリング」「メタ認知的知識の抽出」「コントロール」のサイクルに沿って質問項目を作成した。
実験計画 小学5年生の算数の授業を対象に準実験法による調査を行った。何について振り返るのかという対象要因(グループ活動の仕方について/学習内容や方略について)と,どのような方法で振り返るのかという方法要因(個人でWS記入/グループで話し合ってからWS記入)を独立変数とする2要因参加者間計画であり,条件に合わせた4種類のWSを作成した。さらに,WSを使用せずに授業の最後に教員が口頭でまとめを行う統制群を加え,全5条件を設定した。
調査対象者 公立小学校5校に通う5年生248名,全9学級(条件2のみ1学級,それ以外は2学級)。
調査手続き 5月下旬に当該単元のレディネステストを実施。6月初旬~7月中旬にかけて授業の最後に各条件のWSを使用した振り返りを行う(平均12.2回)。7月下旬に復習テストを実施。
結果と考察
本研究で作成したワークシートを使用した群と統制群で事後調査の復習テスト得点が異なるかを検討した。「レディネステスト得点」を共変量,「条件」を独立変数,「復習テスト得点」を従属変数とした共分散分析を行った。その結果,F(4,40)=6.68,p<.001,η二乗=.056で有意差が見られた。多重比較を行ったところ,統制群と条件1,3との間には有意差は見られず,条件2,4は統制群よりも有意もしくは有意傾向で低くなった。
すなわち,振り返りの学習成績への効果は対象要因よりも方法要因の影響が強く,本研究においては,個人で振り返りを行った群より,グループで話し合いながら振り返りを行った群の方が得点が低くなった。このことは言い換えるとグループで振り返りを行うことの難しさを表しているといえる。さらに,個人で振り返りを行う場合でもWSを使用せずに振り返りを行った統制群と同程度の効果であった。吉野他(2012)ではメタ認知的思考・知識を他者と交流することで学習成績が向上すると示唆されていることを考えると,本研究では交流が単に意見発表の時間で終わり,他者の良い意見を自身の学習に取り入れることができたかに疑問が残る。今後,グループ内での意見交流の方法を構造化するなどの改善を加え,より効果的なものにしていきたい。