日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-73)

2018年9月17日(月) 13:00 〜 15:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PH45] Gritが大学生の学業成績に及ぼす影響

秋山史子 (学習院大学)

キーワード:Grit, 平常点, 学年末テスト得点

問題と目的
 近年,社会的成功者たちに共通する特性の1つとしてGritが注目されている。Gritとは長期目標の追求に関する個人の傾向であり,「粘り強さ(長期目標達成のために努力し続ける傾向)」と,「興味の一貫性(時間が経過しても同種あるいは類似の行動を追求する傾向)」の2つの構成要素から成る概念である(Duckworth et al., 2007)。教育心理学分野においては,Gritと成績の関連を示す研究もみられるが,一貫した結果は得られていない(Mueks et al., 2017)。加えて,Gritが長期目標の達成に関する傾向であることを考えると,一時点のテスト結果だけでなく,年間を通じた授業への積極的な取り組みといった,より長期にわたった行動や成果へも影響している可能性も考えられる。大学生の積極的な授業への取り組みを表したものとしては,授業への出席状況,質問・感想などのコメント提出状況,小テストの結果や課題提出といった平常点に含まれるものが挙げられよう。
 よって本研究は,Gritが平常点と学年末テストの得点に及ぼす影響を検討することを目的とする。

方  法
調査時期と手続き 2017年12月に心理学の授業において,担当教員の同意の上で質問紙の一斉配布により調査を行った。平常点と学年末のテスト得点の情報は,後日担当教員より入手した。
参加者 大学生78人が調査に回答した。うち回答に欠損のあった3人を除き75人を分析の対象とした(女性62人,男性13人;2年生61人,3年生6人,4年生8人)。75人のうち成績情報が入手できたのは71人であった。
質問紙構成 1.フェイスシート(性別,学年),2.Grit尺度:Duckworth&Quinn(2009)のGrit-Sを筆者が邦訳の上,大学生が回答しやすいように一部の表現を修正し用いた。「粘り強さ」4項目(例:項目2「私は始めたことは何でも終わらせる」),「興味の一貫性」4項目(例:項目1「私はある勉強や課題に短期間夢中になっていても,すぐに興味を失ってしまう」)計8項目から成る。回答は「1=全くあてはまらない」から「5=大変あてはまる」までの5段階評定であった。
平常点 授業時に実施した小テスト・課題を採点したものと(本研究以外の)研究への参加経験を得点化し,両者を合計し平常点とした(60点満点)。
学年末テスト得点 学年末に実施した試験の得点を用いた(60点満点)。

結果と考察
 まず,Duckworth&Quinn(2009)の因子構造に基づきGrit尺度の確認的因子分析を行ったところ,「粘り強さ」に対する項目4(「私は挫折しても落胆しない」)の負荷(標準化係数= -.02)が低かった為これを除外し,計7項目を対象に分析を行った。その結果,まずまずの適合度(χ2=26.97,df=20,p=.14, GFI=.92, AGFI=.86,CFI=.95,RMSEA=.07)が得られたため,「粘り強さ」3項目(α=.75)と「興味の一貫性」4項目(α=.65)を採用し,以降の分析では逆転項目を処理した上で各因子の平均値を用いた。Gritと平常点,テスト得点の平均値,標準偏差,相関係数をTable 1に示す。
 Table 1の相関係数の結果から「粘り強さ」は平常点,テスト得点共に有意な正の相関がみられたが,「興味の一貫性」はテスト得点とのみ有意な正の相関がみられた。
 最後に,Gritが学業成績に与える影響を検討する為,「粘り強さ」と「興味の一貫性」を独立変数,平常点と学年末テスト得点を従属変数とした重回帰分析を行った。その結果,学年末テストに対して「粘り強さ」が有意な正の影響を及ぼし(β=.291,p<.05),さらに,有意傾向ではあるものの平常点にも正の影響がみられた(β=.286,p=.05)。一方「興味の一貫性」は平常点には影響がみられず(β=-.004,p=.98),テスト得点にも有意な影響はみられなかった(β=.210,p=.13)。
 以上の結果から,「粘り強さ」は一時点の結果である学年末テスト得点へ影響しただけでなく,長期にわたる成果である平常点との関連も示唆された。一方「興味の一貫性」はテスト得点との関連は窺えるが,平常点との関連はみられなかった。これには,今回用いた平常点の中に,厳密には授業への積極的取り組みを反映していない得点も含まれている影響も考えられ,今後は平常点の内容をより精査した上で,さらなる検討を加えたい。