[PH48] 対人感受性や疎外感が学習に及ぼす影響
キーワード:対人感受性, 疎外感, 学習
問 題
仮想的有能感の高い個人は,低い自尊心を補償するために他者を軽視したり,自らの能力を露呈することを恐れたりするため,学習にさまざまな弊害をもつ(援助要請が回避的,動機づけが他律的,努力忌避しがちなど)1。これらは,他者との関係性構築にもつながり,いじめ被害・加害経験,対人関係における怒りや抑鬱,敵意などの不快感情との関連も示されている2。
本研究では,仮想的有能感と対人感受性,疎外感に着目し,学習における援助要請にどのような影響を及ぼすのかを検討する。近年主体的な援助要請,調べ学習などの深い学習が重要視されることからも,この点を明らかにする意義は大きい。
まず仮想的有能感の高い個人は援助要請を控える傾向が強いだろう(予測①)。しかし拒絶感受性の高い個人にとって誰かとかかわりをもつことは他者との社会的な結びつきのために不可欠である3。拒絶感受性が高く疎外を感じると,他者への要請は高まることから援助要請は促進されるだろう(予測②)。
方 法
調査協力者:株式会社ジャストシステム社の調査サービスFastaskに登録しているモニタのうち130名の全日制の高校に通う高校生(平均17.2歳; 女性97名)の協力を得た。
質問項目:①仮想的有能感11項目(速水・木野・高木,2004; α=.88)②対人感受性27項目(江田・日高,2007; α=.95) ③対人疎外感21項目(杉浦,2000;α=.69)④援助要請11項目(瀬尾,2007; α=.84)
結 果
援助要請に対し対人感受性,疎外感,仮想的有能感,およびそれぞれの交互作用項を説明変数とした重回帰分析を実施した。その結果,仮想的有能感の主効果(β=.29,p<.05)と3要因の交互作用(β=.51,p<.01)が認められた。仮想的有能感が高いほど援助要請が高かった。予測①とは逆の結果が得られた。交互作用について下位検定の結果,仮想的有能感高群・疎外感高群において対人感受性の主効果が有意であった(β=.29,p<.05)。つまり仮想的有能感が高い個人でも,対人関係で疎外を感じ,拒絶に対し敏感な個人は援助要請を行いやすいといえる(予測②支持傾向)。
考 察
本調査から予測①は支持されず,仮想的有能感の高さは援助要請を控えるのではなくむしろ高める傾向が認められた。先行研究においても弱い相関にとどまるため慎重な解釈が必要である。
予測②は支持傾向だった。仮想的有能感が高い個人でも拒絶への敏感さと疎外感をもつ個人は援助要請の得点が高かった。他者を軽視することで学習に対し回避的になったり,学習を「誰かにやされている」と感じたり努力を回避したりという特徴をもつ彼らにおいても,他者との結びつきを求めると考えれば,少なからず誰かに援助を要請する可能性はある。仮想的有能感をもつ個人が,他者を低く評価することで関係性を構築できず,学習を進めることが難しい状況においても,対人関係への敏感さをもち拒絶や疎外を感じることで,援助要請を行うことが示された。今後他者軽視と対人感受性や疎外感の関連を検討する必要がある。
引用文献
1小平他(2008). 心研, 79, 257-262. 速水他(2006).パー心, 14, 171-180.
2小平他(2007). パー心, 15, 217-227. 松本他(2009).教心, 57, 432-441. 3 Aguilar, L., et al.(2016).Journal of Personality, 84, 165-177.
仮想的有能感の高い個人は,低い自尊心を補償するために他者を軽視したり,自らの能力を露呈することを恐れたりするため,学習にさまざまな弊害をもつ(援助要請が回避的,動機づけが他律的,努力忌避しがちなど)1。これらは,他者との関係性構築にもつながり,いじめ被害・加害経験,対人関係における怒りや抑鬱,敵意などの不快感情との関連も示されている2。
本研究では,仮想的有能感と対人感受性,疎外感に着目し,学習における援助要請にどのような影響を及ぼすのかを検討する。近年主体的な援助要請,調べ学習などの深い学習が重要視されることからも,この点を明らかにする意義は大きい。
まず仮想的有能感の高い個人は援助要請を控える傾向が強いだろう(予測①)。しかし拒絶感受性の高い個人にとって誰かとかかわりをもつことは他者との社会的な結びつきのために不可欠である3。拒絶感受性が高く疎外を感じると,他者への要請は高まることから援助要請は促進されるだろう(予測②)。
方 法
調査協力者:株式会社ジャストシステム社の調査サービスFastaskに登録しているモニタのうち130名の全日制の高校に通う高校生(平均17.2歳; 女性97名)の協力を得た。
質問項目:①仮想的有能感11項目(速水・木野・高木,2004; α=.88)②対人感受性27項目(江田・日高,2007; α=.95) ③対人疎外感21項目(杉浦,2000;α=.69)④援助要請11項目(瀬尾,2007; α=.84)
結 果
援助要請に対し対人感受性,疎外感,仮想的有能感,およびそれぞれの交互作用項を説明変数とした重回帰分析を実施した。その結果,仮想的有能感の主効果(β=.29,p<.05)と3要因の交互作用(β=.51,p<.01)が認められた。仮想的有能感が高いほど援助要請が高かった。予測①とは逆の結果が得られた。交互作用について下位検定の結果,仮想的有能感高群・疎外感高群において対人感受性の主効果が有意であった(β=.29,p<.05)。つまり仮想的有能感が高い個人でも,対人関係で疎外を感じ,拒絶に対し敏感な個人は援助要請を行いやすいといえる(予測②支持傾向)。
考 察
本調査から予測①は支持されず,仮想的有能感の高さは援助要請を控えるのではなくむしろ高める傾向が認められた。先行研究においても弱い相関にとどまるため慎重な解釈が必要である。
予測②は支持傾向だった。仮想的有能感が高い個人でも拒絶への敏感さと疎外感をもつ個人は援助要請の得点が高かった。他者を軽視することで学習に対し回避的になったり,学習を「誰かにやされている」と感じたり努力を回避したりという特徴をもつ彼らにおいても,他者との結びつきを求めると考えれば,少なからず誰かに援助を要請する可能性はある。仮想的有能感をもつ個人が,他者を低く評価することで関係性を構築できず,学習を進めることが難しい状況においても,対人関係への敏感さをもち拒絶や疎外を感じることで,援助要請を行うことが示された。今後他者軽視と対人感受性や疎外感の関連を検討する必要がある。
引用文献
1小平他(2008). 心研, 79, 257-262. 速水他(2006).パー心, 14, 171-180.
2小平他(2007). パー心, 15, 217-227. 松本他(2009).教心, 57, 432-441. 3 Aguilar, L., et al.(2016).Journal of Personality, 84, 165-177.