[PH51] 中高生の解離が問題行動(情緒・行動・多動/不注意・仲間関係の問題)に及ぼす影響
パネル調査による検討
Keywords:解離, 問題行動, 中高生
問題と目的
解離は自己の記憶や感覚や同一性がまとまりを欠くことによって特徴付けられる。この解離は病として解離性障害の名で知られているが,疾患と診断されていない一般人口中の子どもであっても体験されうるものであり,解離体験は大人よりも子どもに多いと言われている(Bernstein & Putnam, 1986; Van Ijzendoorn & Schuengel, 1996)。
解離性障害の子どもは,爆発的な怒りを見せたり,不注意であったり,強いうつ症状を呈したりするという報告がある(Shirar, 1996 ハリス淳子訳 2008)。一般の子どもの解離についても同様に,不安や抑うつ,攻撃行動や行為の問題といった諸問題が関連していることは明らかとなっている(Sayar, Kose, Grabe, & Topbas, 2005; Tolmunen et al. 2010)。
しかし,解離と問題行動のどちらが時間的に先行しているのかについて,これまであまり縦断的に証明されてこなかった。中高生の解離体験の頻繁さが1年半後の学校での孤立傾向の高さを予測するように(森, 2018),解離が諸問題に先立つのであれば,生徒の解離に気づくことで,その後の問題に備えることができるようになるだろう。
そこで,本研究では中高生を対象にパネル調査を実施することで,解離が様々な問題行動を予測するかについて検討を行った。
方 法
手続き 首都圏の私立中高一貫校2校に協力を依頼し,自記式質問紙によるパネル調査を行った(Time1:2016年9~11月,Time2:2017年2~3月)。分析は,中学1年生~高校2年生(12~17歳)のうち,性別の回答に欠損値の無かった1773名(男子995名,女子778名)を対象に行った。なお,本研究は所属大学において倫理審査を受け,承認されたものである。使用尺度 ①解離:The Adolescent Dissociative Experiences Scale (A-DES; Armstrong et al., 1997) の日本語版(田辺, 2004)30項目。回答方式は田辺の許可を得て英語版同様0‐10の回答方式で使用。 ②問題行動:「子どもの強さと困難さアンケート」 (Strength and Difficult Questionnaire: SDQ) 日本語版 (Goodman, 1997; Sugawara, Sugiura, Matsumoto, & Mink, 2006) の問題行動「情緒の問題」「行為の問題」「多動/不注意の問題」「仲間関係の問題」それぞれ5項目3件法。
結果と考察
解離の平均点はTime1:1.69(SD = 1.53),Time2:1.50(SD = 1.50),問題行動の平均点はTime1: 11.74(SD = 5.28),Time2:11.55(SD = 5.43)であった。解離と問題行動の間に有意な相関がみられたことから(Time1: r = .49, p < .001; Time2: r = .50, p < .001),解離体験頻度の高さと問題行動は同時に出現しやすいと考えられた。 学校と学年と性別を統制して交差遅延効果モデルによる検討を行ったところ,いずれも適合度はχ2(1) = 2.259, p = .133, CFI = 1.000, RMSEA = .027であり良好であった(Figure1)。Time1の解離低群と高群に分けた場合のt検定の結果はTable1に示した。
検討結果から,中高生の解離体験頻度の高さは後の問題行動を予測する指標の一つとして役立つと考えられた。また,弱いながら問題行動が後の解離体験頻度の高さを予測することが示された。更に,解離得点が高い子どもは低い子どもに比べて同時点およびその後の問題行動が高いことも確認された。解離を知ることで,多くの問題を抱える子どもの,より深い理解へつながると考えられる。
引用文献(尺度)
Armstrong, J. G., Putnam, F. W., Carlson, E. B., Libero, D. Z., & Smith,S. R. (1997). Development and validation of a measure of adolescent dissociation: The Adolescent Dissociative Experiences Scale. The Journal of nervous and mental disease, 185, 491-497.
Goodman, R. (1997). The Strengths and Difficulties Questionnaire: a research note. Journal of child psychology and psychiatry, 38, 581-586.
Sugawara, M., Sakai, A., Sugiura, T., Matsumoto, S., & Mink, I. T. (2006). SDQ: The Strengths and Difficulties Questionnaire. http://www.sdqinfo.com/
田辺肇 (2004). DES──尺度による病理的解離性の把握── 臨床精神医学, 33, 293-307.
解離は自己の記憶や感覚や同一性がまとまりを欠くことによって特徴付けられる。この解離は病として解離性障害の名で知られているが,疾患と診断されていない一般人口中の子どもであっても体験されうるものであり,解離体験は大人よりも子どもに多いと言われている(Bernstein & Putnam, 1986; Van Ijzendoorn & Schuengel, 1996)。
解離性障害の子どもは,爆発的な怒りを見せたり,不注意であったり,強いうつ症状を呈したりするという報告がある(Shirar, 1996 ハリス淳子訳 2008)。一般の子どもの解離についても同様に,不安や抑うつ,攻撃行動や行為の問題といった諸問題が関連していることは明らかとなっている(Sayar, Kose, Grabe, & Topbas, 2005; Tolmunen et al. 2010)。
しかし,解離と問題行動のどちらが時間的に先行しているのかについて,これまであまり縦断的に証明されてこなかった。中高生の解離体験の頻繁さが1年半後の学校での孤立傾向の高さを予測するように(森, 2018),解離が諸問題に先立つのであれば,生徒の解離に気づくことで,その後の問題に備えることができるようになるだろう。
そこで,本研究では中高生を対象にパネル調査を実施することで,解離が様々な問題行動を予測するかについて検討を行った。
方 法
手続き 首都圏の私立中高一貫校2校に協力を依頼し,自記式質問紙によるパネル調査を行った(Time1:2016年9~11月,Time2:2017年2~3月)。分析は,中学1年生~高校2年生(12~17歳)のうち,性別の回答に欠損値の無かった1773名(男子995名,女子778名)を対象に行った。なお,本研究は所属大学において倫理審査を受け,承認されたものである。使用尺度 ①解離:The Adolescent Dissociative Experiences Scale (A-DES; Armstrong et al., 1997) の日本語版(田辺, 2004)30項目。回答方式は田辺の許可を得て英語版同様0‐10の回答方式で使用。 ②問題行動:「子どもの強さと困難さアンケート」 (Strength and Difficult Questionnaire: SDQ) 日本語版 (Goodman, 1997; Sugawara, Sugiura, Matsumoto, & Mink, 2006) の問題行動「情緒の問題」「行為の問題」「多動/不注意の問題」「仲間関係の問題」それぞれ5項目3件法。
結果と考察
解離の平均点はTime1:1.69(SD = 1.53),Time2:1.50(SD = 1.50),問題行動の平均点はTime1: 11.74(SD = 5.28),Time2:11.55(SD = 5.43)であった。解離と問題行動の間に有意な相関がみられたことから(Time1: r = .49, p < .001; Time2: r = .50, p < .001),解離体験頻度の高さと問題行動は同時に出現しやすいと考えられた。 学校と学年と性別を統制して交差遅延効果モデルによる検討を行ったところ,いずれも適合度はχ2(1) = 2.259, p = .133, CFI = 1.000, RMSEA = .027であり良好であった(Figure1)。Time1の解離低群と高群に分けた場合のt検定の結果はTable1に示した。
検討結果から,中高生の解離体験頻度の高さは後の問題行動を予測する指標の一つとして役立つと考えられた。また,弱いながら問題行動が後の解離体験頻度の高さを予測することが示された。更に,解離得点が高い子どもは低い子どもに比べて同時点およびその後の問題行動が高いことも確認された。解離を知ることで,多くの問題を抱える子どもの,より深い理解へつながると考えられる。
引用文献(尺度)
Armstrong, J. G., Putnam, F. W., Carlson, E. B., Libero, D. Z., & Smith,S. R. (1997). Development and validation of a measure of adolescent dissociation: The Adolescent Dissociative Experiences Scale. The Journal of nervous and mental disease, 185, 491-497.
Goodman, R. (1997). The Strengths and Difficulties Questionnaire: a research note. Journal of child psychology and psychiatry, 38, 581-586.
Sugawara, M., Sakai, A., Sugiura, T., Matsumoto, S., & Mink, I. T. (2006). SDQ: The Strengths and Difficulties Questionnaire. http://www.sdqinfo.com/
田辺肇 (2004). DES──尺度による病理的解離性の把握── 臨床精神医学, 33, 293-307.