日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-73)

2018年9月17日(月) 13:00 〜 15:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PH61] 教師からの賞賛・叱責経験が自尊感情に与える影響

本来感と自己価値の随伴性を用いて

西川友貴1, 大西彩子2, 大澤香織3 (1.甲南大学大学院, 2.甲南大学, 3.甲南大学)

キーワード:教師, 本来感, 自己価値の随伴性

問題と目的
 近年,学校現場を中心に,子どもたちの自尊感情の低下が危惧されている(古市・柴田,2013)。学校現場において,子どもは重要他者である教師から,学業成績や運動能力等に関する評価として,「ほめられる」あるいは「叱られる」ことが多い。ほめられることは子どもの自尊感情を高めるが,叱られることが自尊感情を低くするわけではない (井上,2015)。また,ほめられることが自尊感情に与える影響には性差があり,女子の方が男子よりも促進効果が高いことが示されている(古市・柴田,2013)。
 しかし,自尊感情は「本来感」と「自己価値の随伴性」に区別されることが指摘されており(伊藤・小玉,2006),他者による評価懸念が自己価値の随伴性に与える影響性は男子の方が女子よりも高いことが明らかになっている(赤川・下田・石津,2016)。このように,自尊感情には下位概念が存在し,その規定要因には性差がある可能性が高い。そこで本研究では,本来感と自己価値の随伴性を用いて教師からほめられた経験・叱られた経験が自尊感情に与える影響およびその性差について検討する。

方  法
調査協力者・調査時期 近畿地方の私立大学1校に在籍する学部生220名を対象とし2016年11月に調査を行った。記入ミスのなかった194名(女性132名,男性62名)を分析の対象とした。
調査項目 本来感尺度(伊藤・小玉,2005)7項目,自己価値の随伴性尺度(伊藤・小玉,2006)15項目を使用し,各項目について5件法で評定を求めた。教師からほめられた経験・叱られた経験の頻度は4件法で評定を求めた。

結果と考察
 本来感尺度,自己価値の随伴性尺度について因子分析(最尤法・プロマックス回転)を行った。固有値の減衰状況と解釈可能性に基づき,本来感尺度は1因子(3項目)が妥当であると判断され,α=.87と,内的整合性が確認された。同様に,自己価値の随伴性尺度は3因子(外見的評価3項目,非他者評価3項目,被受容的評価2項目)が妥当であると判断され,α=.73~α=.75と,内的整合性が認められた。教師からほめられた経験・叱られた経験が本来感と自己価値の随伴性に与える影響を男女で比較検討するため,多母集団同時分析を行った。その結果,男女ともに教師からほめられた経験・叱られた経験は本来感に影響を及ぼさないことが明らかになった(Figure1)。本来感は,外的な基準に依存せず,自分自身に感じる自分の中核的な本当らしさの程度とされており(伊藤・小玉,2005,2006),この定義から本研究の結果は妥当なものと考えられる。
 また,女性は叱られた経験が多いほど,その人の外見的な魅力が自尊感情の外的基準となって随伴していることが示された(Figure1)。つまり,女性は叱られた経験を自分の外見的な魅力に自分の価値を見出すことで乗り越えてきた可能性が考えられる。この背景には,男性に比べて女性の方が外見的な価値を重視するという日本の文化的要因が関連していると推測される。