日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-67)

2019年9月14日(土) 13:00 〜 15:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB15] 教員志望学生の教えることに関する信念の検討(1)

尺度の作成および構造の検討

林龍平1, 崎濱秀行2, 藤田正3 (1.関西福祉科学大学, 2.阪南大学, 3.奈良教育大学)

キーワード:教員志望学生、教えること、信念

問題と目的
 本研究の目的は,現職教員および教員志望学生を対象として行った調査のうち,教員志望学生の回答結果を元に,教えることに関する信念の様相構造を検討することである。
 藤田ら(2015,2016,2017,2018),林ら(2015,2016,2017,2018),崎濱ら(2015,2016,2017,2018)はこれまで,現職教員および教員志望学生を対象に,児童・生徒観/学習指導観,(重視する)学習指導行動,授業観(よい授業とはどのような授業だと考えるか)の構造,および群による様相の違いについて検討を重ねてきた。その結果,児童・生徒観/学習指導観については,「学習指導性」「自律性」「自己統制性」の3側面を見出した。また,「学習指導性」について,児童・生徒中心的な考え方をするほど重視する学習指導行動も児童・生徒中心的であることが明らかになった。次に,授業観については,「児童生徒の積極的関与」「知識獲得」の2側面の存在が示された。これらに加え,大学生を対象にして,教育心理学に関する教職科目の履修前後で授業観に何らかの変化がみられるのかどうかを検討したところ「知識獲得」については受講後の評定値が低く,「児童生徒の積極的関与」については受講後の評定値が低くなる傾向が見られた。そして,これらの結果について,授業受講後は,学習指導を行う立場から授業を捉えるようになったため授業を厳しめに捉えるようになった可能性を指摘した。  
 ところで回答者は,学習指導等に関する信念を形成する場合,どのような場で,どのようにして形成することが望ましいと捉えているのであろうか。この点について先の一連の研究では明らかにされなかった。大学における教師教育の改善を図るためには,まず回答者自身が受講している教員養成プログラム等をどのように捉えているのかを明らかにする必要があろう。
 以上を踏まえ,本研究ではまず,教員志望学生を対象として,学習指導(教えること)に関する信念の構造を検討することにした。
方  法
参加者:大学生・大学院生544名
(男性251名,女性293名,平均年齢19.65歳)
材料:教えることの信念に関する質問紙。項目は7項目で,Joram & Gabriele(1998)における記述事項を元に,筆者3名が独自に作成した。そして,回答者に対し,各々の項目について,1(まったくあてはまらない)~4(非常によくあてはまる)の4件法で回答するよう求めた。
手続き 調査は,心理学関係の授業の一部を利用して集団で行われた。調査実施にあたっては,本調査に同意をした者だけが回答するよう求めた。
結果と考察
 得られたデータについて,SPSS Ver.25を用いて因子分析(主因子法 Promax回転)を行った。固有値1以上,因子負荷量0.35以上,固有値の減衰率を考慮し,最終的に2因子を抽出した。
 第1因子は,1「教えることは簡単なことなので,大学でわざわざ学ぶほどのことではないと思う」と2「これまでさんざん教わる経験をしてきているので,わざわざ大学で教え方について学ぶ必要はないと思う」の2項目が高い負荷量を示した。2項目とも大学で学ぶことに関する事項であることから,「大学での教授法学習の必要性」と命名した(α=0.83)。
 第2因子は,3「人にどう教えるかを考えるには,自分がこれまでに出会った教師の中から良いモデルを見つけて,その人の教え方をまねるとよいと思う」,4「教え方の授業を大学で受けるよりも,これまでの自分の教えられた経験を振り返る方が得るものが良いと思う」等の5項目が高い負荷量を示した。全体として「教え方の身につけ方」に関する項目で構成されていることから,第2因子を「大学で教え方を学ぶ手段とその内容」因子と命名した(α=0.55)。
 下位尺度間の関連を検討するためピアソンの積率相関係数を求めたところ,r=0.14となった。
 第2因子におけるα係数が低いものの,上記の結果を踏まえると,教えることの信念はおおむね「大学での教授法学習の必要性」,「教え方の身につけ方」の2側面で構成されるものと考えられた。第1因子を構成する項目について評定平均値を算出したところ,2項目とも1.40程度であったことから本研究での教員志望学生達が「教え方」について大学で学ぶことが必要だと考えていることがうかがわれる。またその際の学び方としては項目3のような「良いモデルをまねる」形での学びが有効だと捉えていることが考えられた。こうした傾向について,学年進行,あるいは教職科目受講前後で,何らかの変化がみられるのか否か等について今後更に検討することが必要であろう。