[PC19] ICT機器を用いたノートテイキングによる学習内容の理解の検討
NTメディア要因,日常的PC活用習慣要因,学習課題要因の観点に基づく比較
キーワード:ノートテイキング、ICT、符号化機能・外部記憶機能
研究の目的
テクノロジーの進歩は,育成すべき資質や能力の側面,また,教育方法の側面に影響を及ぼす(Fadel,2015)。日本の大学教育においても,ICT機器の発展にともなう教授学習活動の変容が見られる。本研究では,大学におけるICT機器の教育利用に関して,ノートPC(以下,PC)を利用したノートテイキング(以下,NT)活動に注目する。これまで,PCを用いたNTと学習効果に関して,多様な検討が行われてきた(安藤・植野,2011;長塚・山川,2012など)。しかしながら,現実的な教育場面におけるNTメディア間における学習効果の比較は行われてこなかった。伊東(2008)は,NTの機能として,符号化(学習内容の整理と精緻化・体制化)と外部記憶(学習内容の見直しと早期)を挙げている。本研究では,NTによる符号化機能に注目する。NTメディア(手書き・PC)において,どのように学習効果に違いが見られるのか。また,それは日常的にPCを用いてNTを行っている群とそうでない群(PC活用習慣要因:PC活用群・手書き群)において,どのように学習効果が異なるのか検討する。学習効果の比較に際して,学習課題要因(各8点満点:図形記憶,テキストベース(単語記憶),状況モデル(理由や背景の理解))の観点を設定する。この検討を通して,教育場面におけるICT機器(ノートPC)の活用に関する基礎的知見が得られることが期待される。
方 法
調査は,2019年1月に実施した。被験者は,公立A大学の学生52名であった。授業におけるPC活用状況を100%基準で回答させ,上位30%を「PC活用群(15名)」,下位30%を「手書き群(16名)」とした。実験では,ランダムにNTメディア要因(手書き・PC)を指定した。被験者に理解度テストの実施を教示し,約6分半の動画教材(伝統的な刺繍文化)提示と,3分半の見直しを行わせた。その後,被験者にNT資料をしまわせ,理解度テスト(紙媒体:15分)を実施した。理解度の比較は,三要因分散分析を実施した。被験者間要因はNTメディア要因と,PC活用習慣要因であり,被験者内要因は学習課題要因であった。
結果と考察
NTメディア要因における理解度比較:NTメディア要因において,理解度テスト成績に主効果および交互作用は認められなかった。NTメディア要因(手書き・PC)の理解度は同様と考えられる。
PC活用習慣要因における理解度比較:PC活用習慣要因と学習課題要因に交互作用が認められた(p<.05)。単純主効果検定より,PC活用群の図形記憶成績が,手書き群より高かった(p<.05)(Figure 1,2)。ここで,図形記憶課題に関するNT内容に注目すると,手書き条件の半数で図形模写が見られた一方,PC活用群では図形模写は見られなかった。PCを用いた図形模写は容易でないことから,PC活用群は図形の模写を諦め,その場で記憶に集中する方略を選択した可能性が考えられる。今後,NTメディア要因の比較に際して,外部記憶機能の側面に注目した遅延条件の検討が求められる。
結 論
本研究を通して,以下の知見が得られた。
・学習直後の理解度において,ノートPCと手書きでの理解度に差は見られなかった。
・今後,NTの外部記憶機能(保持と検索)に関して,より長期的な学習期間を対象とした遅延条件の検討が必要と考えられる。
テクノロジーの進歩は,育成すべき資質や能力の側面,また,教育方法の側面に影響を及ぼす(Fadel,2015)。日本の大学教育においても,ICT機器の発展にともなう教授学習活動の変容が見られる。本研究では,大学におけるICT機器の教育利用に関して,ノートPC(以下,PC)を利用したノートテイキング(以下,NT)活動に注目する。これまで,PCを用いたNTと学習効果に関して,多様な検討が行われてきた(安藤・植野,2011;長塚・山川,2012など)。しかしながら,現実的な教育場面におけるNTメディア間における学習効果の比較は行われてこなかった。伊東(2008)は,NTの機能として,符号化(学習内容の整理と精緻化・体制化)と外部記憶(学習内容の見直しと早期)を挙げている。本研究では,NTによる符号化機能に注目する。NTメディア(手書き・PC)において,どのように学習効果に違いが見られるのか。また,それは日常的にPCを用いてNTを行っている群とそうでない群(PC活用習慣要因:PC活用群・手書き群)において,どのように学習効果が異なるのか検討する。学習効果の比較に際して,学習課題要因(各8点満点:図形記憶,テキストベース(単語記憶),状況モデル(理由や背景の理解))の観点を設定する。この検討を通して,教育場面におけるICT機器(ノートPC)の活用に関する基礎的知見が得られることが期待される。
方 法
調査は,2019年1月に実施した。被験者は,公立A大学の学生52名であった。授業におけるPC活用状況を100%基準で回答させ,上位30%を「PC活用群(15名)」,下位30%を「手書き群(16名)」とした。実験では,ランダムにNTメディア要因(手書き・PC)を指定した。被験者に理解度テストの実施を教示し,約6分半の動画教材(伝統的な刺繍文化)提示と,3分半の見直しを行わせた。その後,被験者にNT資料をしまわせ,理解度テスト(紙媒体:15分)を実施した。理解度の比較は,三要因分散分析を実施した。被験者間要因はNTメディア要因と,PC活用習慣要因であり,被験者内要因は学習課題要因であった。
結果と考察
NTメディア要因における理解度比較:NTメディア要因において,理解度テスト成績に主効果および交互作用は認められなかった。NTメディア要因(手書き・PC)の理解度は同様と考えられる。
PC活用習慣要因における理解度比較:PC活用習慣要因と学習課題要因に交互作用が認められた(p<.05)。単純主効果検定より,PC活用群の図形記憶成績が,手書き群より高かった(p<.05)(Figure 1,2)。ここで,図形記憶課題に関するNT内容に注目すると,手書き条件の半数で図形模写が見られた一方,PC活用群では図形模写は見られなかった。PCを用いた図形模写は容易でないことから,PC活用群は図形の模写を諦め,その場で記憶に集中する方略を選択した可能性が考えられる。今後,NTメディア要因の比較に際して,外部記憶機能の側面に注目した遅延条件の検討が求められる。
結 論
本研究を通して,以下の知見が得られた。
・学習直後の理解度において,ノートPCと手書きでの理解度に差は見られなかった。
・今後,NTの外部記憶機能(保持と検索)に関して,より長期的な学習期間を対象とした遅延条件の検討が必要と考えられる。