日本地質学会第128年学術大会

講演情報

口頭発表

R18[レギュラー]環境地質

[1ch501-06] R18[レギュラー]環境地質

2021年9月4日(土) 08:45 〜 10:15 第5 (第5)

座長:田村 嘉之

09:45 〜 10:00

[R18-O-5] 20年経過したCVOC地下水汚染サイトのモニタリング効果と単元調査法の重要性

*髙嶋 洋1、竹内 真司2、風岡 修3 (1. 第一工科大学、2. 日本大学、3. 千葉県地質環境研究室)

キーワード:地下水汚染、単元調査法、自然減衰能力、地下水モニタリング

千葉県N市では,昭和63年にトリクロロエチレン等有機塩素系化合物(CVOC)による地下水汚染が確認され,千葉県の協力の下,過去に7カ所で地質汚染機構解明調査及び対策が実施されてきた.これらはすべてオールコアボーリングにより汚染サイトの地質構造解析を行い,地質層序の単元ごとに汚染の存在を確認した上で,当該単元情報を基に構築された帯水層単元にあわせて観測井戸を設置し,地下水位や水質を観測する手法で行われた.また,地域の土地利用の変遷等の地暦や地形,周辺の地下水利用状況,周辺井戸の諸元等の調査も併せて実施され,総合的な解析が行われた.調査範囲は敷地境界に関わりなく,汚染が検出されなくなるまで追跡が行われ,科学的に汚染経路と汚染範囲を明確にした(例えば髙嶋他、2008).こうした地質単元を詳細に観察し,科学的に地下水流動を把握する調査手法は単元調査法と呼ばれている(楡井、2007).当該調査は,行政と研究者,汚染の存在が確認された企業,地下水利用者等がチームを構成し,地域自治会や周辺企業等の協力を得て実施された. 汚染機構解明調査の結果より,汚染原因や機構が明確になるため,調査後の汚染対策及びモニタリングは基本的に汚染原因者や汚染土地所有者等が主体となって実行され,行政はこの進捗を確認している.対策手法は概ね不飽和帯の地下空気汚染対策及び揚水ばっ気処理によるものである.対策手法やその規模は,対策主体の実情に合わせて取りうる範囲で実施される.こうした活動はすでに調査対策から15年~20年を経過し,浄化対策が進展した箇所も多いが,今なお継続されている.浄化規模や手法の違いもあるが,根本的に地下に浸透した汚染物質を取り除くことはきわめて難しい.また,この程度の時間経過では自然減衰しないことも明確となった.N市で行ったMNA(自然減衰能力)の検討(Takashima et.al, 2015)においても,汚染の減衰はほとんど期待できない結果であったが,これが確認された形である. 地下水汚染状況は,継続的なモニタリングによりサイトごとに経時的に確認されている.この結果,浄化が進むサイトでは周辺の地下水濃度の大幅な低下が認められる.また,モニタリング対応中心のサイトでは,現状の場を形成する地下水利用状況において、ほとんど汚染が移動せず,その場にとどまっていることが明かとなった(例えば井上・竹内、2020).単元調査法により汚染機構と汚染プリューム全体が,当初の調査の段階でほぼ完全に掌握されているため,調査対策から20年を経て,なお,汚染の状況を明確に説明可能となっている.これは,モニタリングが継続されているからであり,かつその基礎となった単元調査法が科学に忠実に実施されたからである.さらに,この取り組みは,曝露経路の明確化による地域住民の健康の確保と周辺の地下水利用の安全性の確保に大きく寄与している. 土壌汚染対策法が施行されて約20年が過ぎようとしているが、指定の解除後の除去対策の効果を確認するスキームは与えられていない.逆に、汚染対策を行ったにもかかわらず、観測井からの汚染検出が続き、指定解除できない事例など、問題も指摘されている.長い年月の間に汚染原因者は土地を売却し,地下水汚染との関わりを断つことが出来るかもしれないが,地域の住民や自治体はその土地を離れることは出来ない.その地域の地下水は依然としてその地域に存在し,自然の法則に従い流動し,そして活用されている.健全な水循環を確保し,持続可能な地下水汚染対応を真剣に考えた時,単元調査法に基づく汚染調査対策手法がかつて実施され,未だに効果を上げていることは注目に値すると考えられる.

井上雄太・竹内真司, 2020MS, 千葉県野田市における揮発性有機塩素化合物の汚染分布の現状と将来予測, 日本大学文理学部地球科学科, 47.
楡井久, 2007, 単元調査法と無単元調査法. 産業と環境, 7, 68-72.
髙嶋 洋・古野邦雄・楠田 隆, 2008, 1.1.1.トリクロロエタンによる地下水汚染機構と汚染分布特性, The Proceedings of the 18th Symposium on Geo-Environments and Geo-Tecnics, 57-62.
TAKASHIMA H, UTSUGI K, HOSHOTANI T, KAZAOKA O, SAKAI Y, KAGAWA A, 2015, The examination of Dehalococcoides sp. on VOCs groundwater pollution site in NODA City, The Fifth International Symposium on Man-Made Strata and Geo-Pollution, Urayasu Chiba JAPAN, 107-112.