日本地質学会第128年学術大会

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T7.[トピック]地球年代学が拓く高精度火山噴火史・発達史

[1poster10-11] T7.[トピック]地球年代学が拓く高精度火山噴火史・発達史

2021年9月4日(土) 16:30 〜 19:00 ポスター会場 (ポスター会場)

16:30 〜 19:00

[T7-P-1] (エントリー)富士五湖の湖底堆積物を用いた富士山の噴火履歴の高精度化

*山本 真也1、西澤 文勝2、吉本 充宏1、太田 耕輔3、宮入 陽介3、横山 祐典3,4、菅 寿美4、大河内 直彦4 (1. 山梨県富士山科学研究所、2. 神奈川県立生命の星・地球博物館、3. 東京大学大気海洋研究所、4. 海洋開発研究機構)

キーワード:放射性炭素年代法、湖底堆積物、富士山、富士五湖、噴火履歴

日本最大の活火山・富士山では、過去3200年間で100余りの火山噴出物が確認されているが、その噴出年代が確定しているものは約3割にも満たない。その要因として、富士山では0.1 km3 DRE以下の小規模噴火が約8割を占め、高頻度(約30年に1回)で噴火を繰り返すことから、噴出物直下に土壌が発達せず放射性炭素(14C)を用いた年代測定が困難であることが挙げられる。一方、富士山北麓に位置する富士五湖の湖底堆積物中には、富士山由来の降下スコリア層が連続的に保存されており、陸上に比べ時間分解能の高い噴火履歴情報が得られることが期待される。一般に、過去数万年程度の湖沼堆積物の年代推定には、植物遺骸の14C年代測定が用いられるが、これら湖では植物化石が降下スコリア層直下から産出しないこともあり、精度の高い年代モデルの構築が困難であった。そこで本研究では、富士五湖(河口湖・山中湖)の湖底堆積物を対象に放射性炭素年代測定法の再検討を行い、堆積物中に含まれる降下スコリア層の堆積年代の推定を行った。

<事例研究1:河口湖>
本研究ではまず、富士山北麓、河口湖の堆積物コア(KA-1)中の大室スコリア(Om)について、その上下層より産出した植物化石(木の葉)の14C年代測定を行い、噴出年代の推定を行った。これまでOmは、陸上露頭で得られた噴出物直下の炭化木の14C年代から約3200年前の噴出物であると考えられてきた(高田ほか, 2016)。一方、KA-1コア中の植物化石の14C年代に基づく年代モデルからは、2938 ± 29 cal BPの年代値が得られ、Omが従来に比べ約270年新しい噴火であったことが明らかとなった。更に、本研究では、KA-1コア中の植物プランクトンに由来するC16脂肪酸の化合物レベル14C年代測定を行い、Omの年代推定を試みた。その結果、リザーバー年代補正後のC16脂肪酸の14C年代から推定された噴出年代(2837 ± 78 cal BP)が、前述の植物化石から推定される年代(2988–2870 cal BP)とよい一致を示し、植物化石が産出しない場合でも、化合物レベル14C年代法を用いることで精度の高い噴火年代推定が可能であることが明らかとなった。

<事例研究2:山中湖>  
山中湖は、従来、鷹丸尾溶岩流の堰き止めにより成立したと考えられてきたが(田中, 1921)、ボーリングコア中の珪藻化石群集が湖沼化を示す降下スコリア層が約1890-1830年前の14C年代を示す(遠藤ほか, 1992)など、年代の不一致が指摘されてきた。そこで本研究では、山中湖湖心で採取した表層堆積物中の各種有機物の14C年代測定を行い、湖水中の溶存無機炭素(DIC)の年代と比較した。その結果、TOCの放射性炭素同位体比(Δ14C = −73 ± 2‰)が、秋の湖水中のDICと整合的な値(−66 ± 8‰; Ota et al., 投稿中)を示すことが明らかとなり、リザーバー年代を補正することで、TOCの14C年代から、より正確な堆積物の年代推定が可能であることが示された。そこで本研究では、Yamamoto et al. (2018)で植物化石の14C年代が報告された層準でTOCの14C年代測定を行い、過去のリザーバー年代の変遷を明らかにした。更に、TOCの14C年代を高解像度で測定し、リザーバー年代を補正した上で年代モデルの構築を行った。その結果、前述の降下スコリア層の年代が、646 ± 65 cal ADであることが明らかとなった。この年代は、鷹丸尾溶岩中の炭化木の14C年代から推定される年代(687 ± 60 cal AD; 田場ほか, 1999)や古地磁気の方位解析から推定されている鷹丸尾溶岩の年代(AD600-700年; 馬場ほか, 2017)とも整合的であり、現在の山中湖の成立が鷹丸尾溶岩流と同時期であったことが示唆された。

<引用文献(引用順)>
高田ほか(2016)富士火山地質図(第2版).
田中(1921)歴史地理37, 445–455.
遠藤ほか(1992)日本大学文理学部自然科学研究所「研究紀要」27, 33–36.
Ota et al. (投稿中) Elementa: Science of the Anthropocene.
Yamamoto et al. (2018) Organic Geochemistry 119, 50–58.
田場ほか (1999)日本大学文理学部自然科学研究所「研究紀要」34, 121–128.
馬場ほか (2017)地球電磁気・地球惑星圏学会講演会講演要旨.