日本地質学会第128年学術大会

講演情報

ポスター発表

R2[レギュラー]岩石・鉱物・鉱床学一般

[1poster12-17] R2[レギュラー]岩石・鉱物・鉱床学一般

2021年9月4日(土) 16:30 〜 19:00 ポスター会場 (ポスター会場)

16:30 〜 19:00

[R2-P-4] (エントリー)鳥取―岡山地域の八東層およびジュラ紀高圧型変成岩中の変斑れい岩のジルコンU-Pb年代,ジルコン微量元素組成および砂質片岩のジルコン年代組成

*木村 光佑1、稲葉 雄一郎2、原田 達也3、早坂 康隆4、柴田 知之4 (1. 呉工業高等専門学校、2. 北電技術コンサルタント株式会社、3. 応用地質株式会社、4. 広島大学大学院先進理工系科学研究科)

キーワード:八東層、ジルコンU-Pb年代、ジルコン微量元素組成、砕屑性ジルコン、西南日本内帯

SIMSやLA-ICP-MSを用いたジルコンのU-Pb局所年代測定は,数十年に渡る開拓と改良の結果,高い信頼性を勝ち得て,歴史科学としての地質学にとって欠かせないものとなっている.近年では珪長質岩だけでなく苦鉄質岩についても少しずつジルコンU-Pb法の適用例も増えており,再現性の良い正確な原岩形成年代が得られてきている.また,砕屑岩に含まれる砕屑性ジルコンのU-Pb局所年代法は,堆積年代および後背地を推定する上でも重要なツールとなっており,膨大なデータが蓄えられつつある.本研究では,鳥取県東部に分布するジュラ紀高圧型変成岩である八東層の変斑れい岩についてジルコンのU-Pb年代および微量元素組成の分析を行ない,同時に八東層および八東層以西に分布するジュラ紀高圧型結晶片岩の砕屑性ジルコン年代測定を行なった.
 鳥取県八頭郡若桜町茗荷谷から採取した八東層の変斑れい岩は,主にソーシュライト化した斜長石,アクチノ閃石,ホルンブレンドからなり,縞状組織を示す.単斜輝石は残されていない.約3 kgの試料から分離された40粒程のジルコン粒子は破片状の外形を示し,CL像では波動累帯構造を示す.ウラン濃度は大部分が100 ppm未満と低いため誤差は大きいが,ディスコーダンスが10%未満の6点から約273 ± 4 Maの重み付き平均年齢が得られた.またジルコンの微量元素組成は,Hf vs. U/Yb図およびY vs. U/Yb図 (Grimes et al., 2007)ではいずれもocean crust領域に,またSc, Nb, U, Ybを用いた判別図(Grimes et al., 2015)ではいずれもmid-ocean ridge領域からocean island領域にプロットされる.
 八東層の砂質片岩2試料の砕屑性ジルコンU-Pb年代組成は,いずれも185–200 Maと250–260 Maの2ヶ所に大きなピークを持ち,400–500 Maにも小さなピークがそれぞれ見られる.また1試料には960–2050 Maの年代が数点認められる.八東層以西に分布するジュラ紀高圧型変成岩も,主要な2つのピークと400–500 Maのピークで構成されることは共通しているが,先カンブリア代のジルコン年代にはバリエーションがあり,1800–2500 Maのピークが目立つものや800 Ma前後のピークが目立つものなどもある.
 今回八東層の変斑れい岩から得られた約273 Maは,そのTh/U比やジルコンの内部構造から火成年代と考えられる.茗荷谷の八東層の変斑れい岩からは西村・柴田(1989)によってジルコンU-Pb年齢よりも若い220 MaのK-Ar年代が報告されているが,これは冷却年代ないしジュラ紀の高圧型変成作用による若返りを反映していると考えられる.更に,丹波帯の緑色岩類からは約280–340 MaのSm-Nd年代が報告されており(佐野・田崎,1989),この中では若いものと近い年代を示す.また,丹波帯の緑色岩には海山起原のものや海台起原のものが報告されているが,ジルコンの微量元素組成が大江山オフィオライトの粗粒斑れい岩(Kimura and Hayasaka, 2019)や御荷鉾緑色岩の苦鉄質岩(Sawada et al., 2019)中のジルコンと類似することを考慮すると,八東層の変斑れい岩はMORB,海山,あるいは海台起原であることが示唆される.
 一方,今回得られた八東層およびジュラ紀高圧型変成岩の砕屑性ジルコン年代組成は,従来広く知られていた丹波-美濃-足尾帯の堆積年代付近と1800 Ma付近に大きなピークがあるという砕屑性ジルコン年代パターンとは異なるものが多い.しかしながら最近,岡山県南東部に分布するジュラ紀付加体から今回の八東層と類似した砕屑性ジルコン年代組成が報告されており(佐藤・脇田,2021),ジュラ紀付加体およびジュラ紀高圧型変成岩の後背地を解明するためにも,今後より広くこれらの砕屑性ジルコン年代組成を把握する必要がある.
参考文献: 西村・柴田(1989) 地質学論集, 33, 343–357. Grimes et al. (2007) Geology, 35, 643–646. Grimes et al. (2015) Contrib. Mineral. Petrol., 170, 46. Kimura and Hayasaka (2019) Lithos, 342–343, 345–360. Sawada et al. (2019) J. Asian Earth Sci., 169, 228–236. 佐野・田崎(1989) 地質学論集, 33, 53–67. 佐藤・脇田(2021) 地質雑, 127, 245–250.