日本地質学会第128年学術大会

講演情報

ポスター発表

R5[レギュラー]地域地質・地域層序・年代層序

[1poster30-37] R5[レギュラー]地域地質・地域層序・年代層序

2021年9月4日(土) 16:30 〜 19:00 ポスター会場 (ポスター会場)

16:30 〜 19:00

[R5-P-8] ロシア沿海地方ケマ帯の下部白亜系

*大藤 茂1、長田 充弘2、青山 正嗣3、原田 拓也2、久保見 幸2、坂東 晃紀4、杉山 潤4、クディモフ アレクサンダー5、アルヒポフ ミハイル5、ディデンコ アレクセイ5 (1. 富山大学都市デザイン学系、2. 富山大学理工学教育部、3. (株)ジオ・コミュニケーションズ、4. 富山大学都市デザイン学部、5. ロシア科学アカデミー極東支部コスイギンテクトニクス・地球物理学研究所)

キーワード:極東ロシア、下部白亜系、ケマ帯、砕屑性ジルコン、ウランー鉛年代

1.はじめに ケマ帯は,極東ロシア沿海地方~ハバロフスク地方の日本海側に位置し,前期白亜紀バレミアン期からアルビアン期の陸源堆積岩層より構成される.これらバレミアン~アプチアン階は,北海道の礼文-樺戸帯を含む,モネロン-サマルガ島弧系の背弧海盆の堆積岩層と位置付けられている(Malinovsky et al., 2005, 2008).筆者らは,2019年7月に,沿海地方ケマ川沿いの本帯の模式ルートを概査する機会を得て,採取した砂岩試料の砕屑性ジルコン年代分析を開始した.本発表では,その調査及び分析の概要を報告する.
2.地質概説および試料 ケマ川沿いのケマ帯の地層は,概ね東西~北東走向で,大局的に南傾斜・南上位の構造をとる.調査した地層は,見かけ下位よりメアンドロフスカヤ層(Meandrovskaya Formation)とケムスカヤ層(Kemskaya Formation)に区分される(Malinovsky et al., 2005, 2008).岩相層序の詳細は,Malinovsky et al. (2005, 2008) に譲る.産出する二枚貝及びアンモナイト化石より,メアンドロフスカヤ層はバレミアン?~下部アプチアン階に,ケムスカヤ層は下部アプチアン~上部アルビアン階にそれぞれ対比される(Markevich et al., 2000 in Malinovsky et al., 2005, 2008).ケマ川沿いのメアンドロフスカヤ層から砂岩2試料(試料M1:45° 51' 56.5" N, 136° 49' 12.0" E;試料M2:45° 50' 55.8" N, 136° 48' 58.1" E),ケムスカヤ層下部層から砂岩1試料(試料K1:45° 47' 02.6" N, 136° 47' 29.2" E),およびケムスカヤ層上部層から砂岩1試料(試料K2:45° 40' 18.8" N, 136° 45' 46.7" E)をそれぞれ採取した.
3.手法 採取した砂岩試料よりジルコンを抽出し,名古屋大学大学院環境学研究科設置のレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置(LA-ICPMS)でジルコンのU–Pb同位体分析を行った.測定したジルコン年代より算出した(206Pb/238U age)/(207Pb/235U age)値が0.9~1.1に収まるものをコンコーダント粒子と判断した.
4.結果
試料M1
 ジルコン96粒子を分析し,内66粒子のデータをコンコーダントと判断した.320–176 Ma及び860–620 Maのジルコンが見られ,コンコーダント粒子の約75%が2600–1500 Maの年代となった.最若粒子の206Pb/238U年代(YSG)は176.1±5.1 Maであった.
試料M2 ジルコン94粒子を分析し,内75粒子のデータをコンコーダントと判断した.コンコーダント粒子の約25%が260–170 Ma,約60%が2350–1500 Maとなった.また,300–100 Maのジルコンも見られた.YSGは170.1±4.8 Maであった.
試料K1 ジルコン95粒子を分析し,内72粒子のデータをコンコーダントと判断した.コンコーダント粒子の約37%が280–116 Ma(150–100 Maはコンコーダント粒子の10%),約50%が2150–1500 Maとなった.また,1250–800 Ma,2300–2200 Ma,2500–2400 Maのジルコンも見られた.YSGは116.1±4.2 Maであった.
試料K2 ジルコン119粒子を分析し,内86粒子のデータをコンコーダントと判断した.コンコーダント粒子の約45%が320–105 Ma(150–100 Maはコンコーダント粒子の6%),約37%が2150–1500 Maとなった.また,1520–480 Ma,2350–2200 Ma,3350–2650 Maのジルコンも見られた.YSGは105.3±2.5 Maであった.
5.考察 今回の砕屑性ジルコン年代のYSGは,従来化石から推定されていた各層の時代に矛盾することはなく,ケマ川沿いの下部白亜系に付加体に見られるような逆転構造は今のところ検知されない.また,150–100 Maの砕屑性ジルコンの含有比率が10%以下だったことから,今のところ,礼文-樺戸帯を含むモネロン-サマルガ島弧系からの砕屑性ジルコンの供給は限定的だったと解釈している.
引用文献 Malinovsky et al., 2005: Lithology Mineral Resour., 40, 429–447/Malinovsky et al., 2008: Isl. Arc, 17, 285–304/Markevich et al., 2000: Early Cretaceous Deposits in the Sikhote-Alin Region. Dalnauka (in Russian).