日本地質学会第128年学術大会

講演情報

口頭発表

R22[レギュラー]地球史

[3ch201-10] R22[レギュラー]地球史

2021年9月6日(月) 08:00 〜 11:30 第2 (第2)

座長:元村 健人、冨松 由希、佐久間 杏樹

08:15 〜 08:30

[R22-O-2] 美濃帯における三畳紀/ジュラ紀境界層の再検討

*曽田 勝仁1、冨松 由希2、山下 大輔3、尾上 哲治2、池原 実1 (1. 高知大学 教育研究部自然科学系理工学部門 海洋コア総合研究センター、2. 九州大学 理学研究院 地球惑星科学部門、3. 鹿児島県薩摩川内市甑ミュージアム)

三畳紀/ジュラ紀(T/J)境界は顕生累代における五大大量絶滅の1つで,ジュラ紀型のアンモナイトや放散虫の出現などによって特徴付けられ,パンサラッサ海遠洋深海域で堆積した美濃帯の層状チャートでも認められる.美濃帯勝山セクションではT/J境界層の年代値を基にしたミランコビッチサイクル層序が構築されるなど(Ikeda and Tada, 2014),その層序学的枠組みはほとんど確立されていると認識されてきた.しかし,勝山セクションの微化石−古地磁気層序の結果はサイクル層序の年代値とは合致せず,例えばT/J境界層付近において構造変形による数十万年以上の層序の欠損が近年指摘されている(Yamashita et al., 2018).サイクル層序は数万年オーダーの高い解像度を持つが,堆積層の連続性や計算上の仮定に依存するため低い年代決定精度を示す場合がある(Ogg et al., 2014).そのためサイクル層序の年代決定精度を向上させるには,美濃帯のT/J境界層における連続層序の確立が不可欠である.そこで本研究では,これまでに検討されていないセクションを調査対象にすることで,パンサラッサ海遠洋深海域でのT/J境界層の層序を再検討し,より正確な時間軸と環境変動の復元を目的とした.
 研究対象は愛知県から岐阜県にかけて分布する美濃帯上麻生ユニットである.本研究では未検討である栗栖鉱山セクションと令和2年7月の豪雨災害で出現した坂祝町取組のセクションについて野外調査を行った.調査では単層ごとに実測柱状図を作成し,チャートと頁岩試料を採取した.年代決定のためにフッ酸処理による放散虫・コノドント化石の抽出を行った.主要元素に関しては加圧ペレットを作成し,蛍光X線分析装置を用いて測定を行なった.微量元素に関しては誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて分析を行った.
 研究の結果,採取した試料からは三畳紀末期を示すコノドント化石のほか,ジュラ系基底を特徴付ける放散虫Pantanellium tanuenseが産出し,その他にPantanellium browni, Praehexasaturnalis tetraradiatus, Amuria impensaなども確認できた.規格化したMnの存在度に関しては先行研究(Fujisaki et al., 2020)とは異なり,最上部三畳系では1桁程度低いため,三畳紀末期のパンサラッサ海遠洋域において還元的な海洋環境が発達していたことが分かった.Mgに関しては先行研究(Ikeda et al., 2015)のように下部ジュラ系で高くなることから,CAMPのような苦鉄質な物質の供給が想定される.ただしFeに関しては明瞭な差異は認められず,先行研究で指摘されているような海洋酸性化(Abrajevitch et al., 2013; Ikeda et al., 2015)の影響については現時点では不明である.Crに関しては先行研究(Fujisaki et al., 2020)では見られない200−500 ppm含む層準が複数検出されたが,強還元環境に特徴的な元素(MoやUなど)の濃集を伴わないことから,濃集メカニズムとして例えば巨大火成岩岩石区や隕石衝突クレーターの形成と関連づけることができる可能性がある.今後は上記イベントに関して本格的な議論を行うため,より詳細で高解像度な微化石層序に加えて,白金族元素などの同位体地球化学分析などを行っていく予定である.
引用文献
Abrajevitch et al., 2013, Geology, 5, 375–383.
Fujisaki et al., 2020, ESR, 204, 103173.
Ikeda and Tada, 2014, EPSL, 399, 30–43.
Ikeda et al., 2015, Palaeo3, 440, 725–733.
Ogg et al., 2014, Albertiana, 41, 3–30.
Yamashita et al., 2018, Paleontl. Res., 22, 167–197.