16:00 〜 18:30
[R21-P-3] (エントリー)千葉県印西市地域における下総層群木下層の古環境復元
キーワード:下総層群、貝形虫、千葉県、木下層、第四紀
〔はじめに〕千葉県北部には古東京湾(岡崎・増田,1992)と呼ばれる内湾で堆積した更新統下総層群が広く分布している.本層群の各層は海洋酸素同位体ステージ(MIS)に対比されており,木下層はMIS 5.5前後に相当すると考えられている(中里・佐藤,2001).MIS 5.5は現在よりも温暖であった直近の期間である事から,様々な手法を用いて古環境推定がなされてきた(岡崎・増田,1992など).しかし,具体的な水深や地域的な古環境変遷は不明な点が多い.そこで本研究では堆積相と貝形虫化石群集に基づき,木下層堆積時の古東京湾の古環境変遷を明らかにする事を目的とする.
〔地質概説および堆積相〕本研究地域は千葉県印西市南部である.ここには下位より,清川層,木下層,常総粘土,新期関東ローム層が分布する.清川層は調査地域東部にわずかに見られ,他の地層は全域に分布する.また,木下層は泥主体の木下層下部と砂主体の木下層上部に細分される.清川層と木下層は最大層厚約2 mの化石密集層が各1枚含まれる。 岩相の特徴に基づいて清川層と木下層を区分し,堆積相Ⅰ~Ⅴの計5つ が認識された.内湾性の貝化石が散在する泥主体の堆積相Ⅰは潟湖の湾央相,泥優勢の砂泥互層主体の堆積相Ⅱは三角州前置面下部相,大量の貝化石を含む化石密集層から構成される堆積相Ⅲは三角州前置面上部相,分級の良い中粒砂主体の堆積相Ⅳはデルタ頂置面相,無構造の泥からなる堆積相Ⅴは塩水湿地相とした.堆積相Ⅴは調査地域西部のみに見られる.清川層は下位より堆積相Ⅱ~Ⅳ,木下層は下位より堆積相Ⅰ~Ⅴに区分され,側方の変化より,三角州が東側(太平洋側)から西側(陸側)に前進する様子が確認された.
〔貝形虫化石群集〕調査地域内の10地点から合計48試料を採取し,31試料から38属91種の貝形虫化石が産出した.この中で,50個体以上産出した17試料を用いて,Q-modeクラスター解析を実施した.その結果,化石相 A,Bが認識され,さらに,亜化石相A-1, A-2とB-1, B-2の4相に細分された.Spinileberis furuyaensis等の汽水種から構成されるA-1は水深2 m程度の汽水環境, Spinileberis quadriaculeataが多産するA-2は汽水域の水深2~7 m程度の潟湖,Pontocythere subjaponicaなどの河口~沿岸砂底種が卓越するB-1はB-2と比較して藻場が少ない湾沿岸砂底,Sinoleberis tosaensis等の沿岸種が優勢であるB-2は藻場が周囲に存在する外洋に近い浅海域であると推定された.亜化石相B-1は清川層に,亜化石相A-1とA-2は木下層下部, 亜化石相B-2は木下層上部に見られた.
〔考察〕MIS7.3(温暖期)に堆積した清川層は産出貝形虫より,後述する木下層に比べ,周辺に藻場と岩礁地帯が少ない浅海砂底と推定される.貝化石がMizuhopecten tokyoensisなど木下層から産出する貝化石と比較して寒流系の種が多い点から,木下層堆積時よりも寒冷な気候であったと考えられる.その後, MIS6の海面低下に伴って清川層は陸化し,谷地形が形成され,MIS7からMIS6の海退期の堆積物がこの陸化の時に削剥された可能性が考えられる.MIS5では再び海が東部地域で形成されていた谷地形を埋めるように侵入し,谷埋め分布を示す木下層下部が堆積した.本層下部は堆積相Ⅰとなり,産出貝形虫から堆積環境は下位より汽水域の卓越する水深2 m 程度から水深2~7 m程度と上方へ古水深の増加があったと推定できる.木下層上部は清川層堆積時と同様に三角州が前進する様子が見られる.産出した貝形虫化石から潮流の影響を受ける藻場と岩礁地帯が近傍に存在する湾央砂底と推定された. 以上より,印西地域の木下層は潟湖から三角州と変化する点は岡崎・増田(1992)と一致する.これまで千葉県内の木下層下部の古水深は不明であったが,本研究によって初めて明らかとなった.
〔引用文献〕中里裕臣・佐藤弘幸(2001)第四紀研究,40,251–257.岡崎浩子・増田富士雄(1992)地質学雑誌,98,235–258.
〔地質概説および堆積相〕本研究地域は千葉県印西市南部である.ここには下位より,清川層,木下層,常総粘土,新期関東ローム層が分布する.清川層は調査地域東部にわずかに見られ,他の地層は全域に分布する.また,木下層は泥主体の木下層下部と砂主体の木下層上部に細分される.清川層と木下層は最大層厚約2 mの化石密集層が各1枚含まれる。 岩相の特徴に基づいて清川層と木下層を区分し,堆積相Ⅰ~Ⅴの計5つ が認識された.内湾性の貝化石が散在する泥主体の堆積相Ⅰは潟湖の湾央相,泥優勢の砂泥互層主体の堆積相Ⅱは三角州前置面下部相,大量の貝化石を含む化石密集層から構成される堆積相Ⅲは三角州前置面上部相,分級の良い中粒砂主体の堆積相Ⅳはデルタ頂置面相,無構造の泥からなる堆積相Ⅴは塩水湿地相とした.堆積相Ⅴは調査地域西部のみに見られる.清川層は下位より堆積相Ⅱ~Ⅳ,木下層は下位より堆積相Ⅰ~Ⅴに区分され,側方の変化より,三角州が東側(太平洋側)から西側(陸側)に前進する様子が確認された.
〔貝形虫化石群集〕調査地域内の10地点から合計48試料を採取し,31試料から38属91種の貝形虫化石が産出した.この中で,50個体以上産出した17試料を用いて,Q-modeクラスター解析を実施した.その結果,化石相 A,Bが認識され,さらに,亜化石相A-1, A-2とB-1, B-2の4相に細分された.Spinileberis furuyaensis等の汽水種から構成されるA-1は水深2 m程度の汽水環境, Spinileberis quadriaculeataが多産するA-2は汽水域の水深2~7 m程度の潟湖,Pontocythere subjaponicaなどの河口~沿岸砂底種が卓越するB-1はB-2と比較して藻場が少ない湾沿岸砂底,Sinoleberis tosaensis等の沿岸種が優勢であるB-2は藻場が周囲に存在する外洋に近い浅海域であると推定された.亜化石相B-1は清川層に,亜化石相A-1とA-2は木下層下部, 亜化石相B-2は木下層上部に見られた.
〔考察〕MIS7.3(温暖期)に堆積した清川層は産出貝形虫より,後述する木下層に比べ,周辺に藻場と岩礁地帯が少ない浅海砂底と推定される.貝化石がMizuhopecten tokyoensisなど木下層から産出する貝化石と比較して寒流系の種が多い点から,木下層堆積時よりも寒冷な気候であったと考えられる.その後, MIS6の海面低下に伴って清川層は陸化し,谷地形が形成され,MIS7からMIS6の海退期の堆積物がこの陸化の時に削剥された可能性が考えられる.MIS5では再び海が東部地域で形成されていた谷地形を埋めるように侵入し,谷埋め分布を示す木下層下部が堆積した.本層下部は堆積相Ⅰとなり,産出貝形虫から堆積環境は下位より汽水域の卓越する水深2 m 程度から水深2~7 m程度と上方へ古水深の増加があったと推定できる.木下層上部は清川層堆積時と同様に三角州が前進する様子が見られる.産出した貝形虫化石から潮流の影響を受ける藻場と岩礁地帯が近傍に存在する湾央砂底と推定された. 以上より,印西地域の木下層は潟湖から三角州と変化する点は岡崎・増田(1992)と一致する.これまで千葉県内の木下層下部の古水深は不明であったが,本研究によって初めて明らかとなった.
〔引用文献〕中里裕臣・佐藤弘幸(2001)第四紀研究,40,251–257.岡崎浩子・増田富士雄(1992)地質学雑誌,98,235–258.