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[R21-P-5] (エントリー)台湾南西部大鵬湾における過去3000年間の貝形虫群集を用いた古環境
キーワード:第四紀、貝形虫、台湾、沖積層、コア研究
Ⅰ.はじめに:
完新世の気候は比較的安定で穏やかであると考えられてきたが,近年では4.2 kaイベントや小氷期などの数百年から数千年スケールでの急激な気候変動(RCC : Rapid Climate Change )が起きていたことが知られつつある(平林・横山,2020).台湾ではRCCを念頭においた研究が少なく,また貝形虫を用いた詳細な古環境復元がほとんど行われていない.台湾南部における完新世の古環境については,花粉記録を用いたバイオーム復元(Lee and Liew, 2010)がなされているが,過去2000年間のデータがまだ不十分である.そこで,本研究は台湾南部大鵬湾のボーリングコアを使い,貝形虫の群集変化から過去3000年間の台湾南部の古環境の復元を目的とした.
Ⅱ.研究地域の位置と試料:
大鵬湾は台湾南西部・屏東県に位置し,湾の東を流れる林辺川と西を流れる東港川の堆積物によって発達した砂州を持ち,台湾海峡と接続する閉鎖型ラグーンである.使用したコアは湾北部のDPW02とDPW05である.コアDPW02はコア長15 mで,下位からシルト,細粒砂,細粒砂と泥の互層,シルト,細粒砂と粘土から構成され,生物砕屑と炭質物を多く含む.炭質物の14C年代測定により,コア深度7.05 mで 535 cal. yr BP,コア深度14.70 mで 2,230 cal. yr BP の年代が得られた.コアDPW05はコア長約10 mで,下位から細粒砂,シルト,細粒砂とシルトから構成される.炭質物が多く見られ,14C年代測定により,コア深度9.36~9.40 m で 1,040 cal. yr BP,コア深度12.33 mで 1,875 cal. yr BPの年代が得られた.
Ⅲ.結果と考察:
DPW02から22試料,DPW05から23試料を使用して貝形虫群集解析を行った.DPW02の9試料とDPW05の19試料から12属17種の貝形虫が産出した.主に卓越する種はBicornucythere bisanensis, Hemicytheridea reticulata, Loxoconcha malayensis, Loxoconcha zhejiangensis, Sinocytheridea impressaとParacypria inujimensisである.B. bisanensisは中国と日本の沿岸地域の水深10 m前後の汽水環境(Hong et al., 2019)や内湾泥底(池谷・塩崎,1993)に生息している.H. reticulataはインド太平洋地域〜東シナ海の非常に浅い海域で生息している(Hong et al., 2019).S. impressaは本研究で最も多く産出した種である.この種は現在,インド沿岸〜東シナ海の水深20 m以浅の低塩分で栄養豊富の環境に生息している(Hong et al., 2019).L. malayensisはインド太平洋で知られる典型的な熱帯種である(Hong et al., 2019).L. zhejiangensisとP. inujimensisは潮間帯種である(Hong et al., 2019 ; Smith and Kamiya, 2003).DPW02ではコア深度730~731㎝でH. reticulata,コア深度1,281~1,282㎝でS. impressaが多産した.DPW05では,コア深度1,000~1,090㎝(約1,300~1,100年前)で,B. bisanensis, S. impressa, L. malayensisとL. zhejiangensisが多産し,温暖な内湾環境であったと考えられる.また,コア深度590~591㎝(約500年前)ではP. inujimensisが多産し,水草が繫茂する浅いラグーン環境であったと考えられる.このことから,大鵬湾は過去3000年間で温暖の内湾環境から浅いラグーン環境に変化したと考えられる.
引用文献:
平林頌子,横山祐典,2020.第四紀研究,59, 129-157.
池谷仙之,塩崎正道,1993.地質学論集,39,15-32.
Lee, C.Y., Liew, P.M., 2010. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 287, 58-66.
Hong, Y., Yasuhara, M., Iwatani, H., Mamo, B., 2019. Biogeosciences, 16, 585-604.
Smith, R. J. and Kamiya, T., 2003. Species Diversity, 8, 79-91.
完新世の気候は比較的安定で穏やかであると考えられてきたが,近年では4.2 kaイベントや小氷期などの数百年から数千年スケールでの急激な気候変動(RCC : Rapid Climate Change )が起きていたことが知られつつある(平林・横山,2020).台湾ではRCCを念頭においた研究が少なく,また貝形虫を用いた詳細な古環境復元がほとんど行われていない.台湾南部における完新世の古環境については,花粉記録を用いたバイオーム復元(Lee and Liew, 2010)がなされているが,過去2000年間のデータがまだ不十分である.そこで,本研究は台湾南部大鵬湾のボーリングコアを使い,貝形虫の群集変化から過去3000年間の台湾南部の古環境の復元を目的とした.
Ⅱ.研究地域の位置と試料:
大鵬湾は台湾南西部・屏東県に位置し,湾の東を流れる林辺川と西を流れる東港川の堆積物によって発達した砂州を持ち,台湾海峡と接続する閉鎖型ラグーンである.使用したコアは湾北部のDPW02とDPW05である.コアDPW02はコア長15 mで,下位からシルト,細粒砂,細粒砂と泥の互層,シルト,細粒砂と粘土から構成され,生物砕屑と炭質物を多く含む.炭質物の14C年代測定により,コア深度7.05 mで 535 cal. yr BP,コア深度14.70 mで 2,230 cal. yr BP の年代が得られた.コアDPW05はコア長約10 mで,下位から細粒砂,シルト,細粒砂とシルトから構成される.炭質物が多く見られ,14C年代測定により,コア深度9.36~9.40 m で 1,040 cal. yr BP,コア深度12.33 mで 1,875 cal. yr BPの年代が得られた.
Ⅲ.結果と考察:
DPW02から22試料,DPW05から23試料を使用して貝形虫群集解析を行った.DPW02の9試料とDPW05の19試料から12属17種の貝形虫が産出した.主に卓越する種はBicornucythere bisanensis, Hemicytheridea reticulata, Loxoconcha malayensis, Loxoconcha zhejiangensis, Sinocytheridea impressaとParacypria inujimensisである.B. bisanensisは中国と日本の沿岸地域の水深10 m前後の汽水環境(Hong et al., 2019)や内湾泥底(池谷・塩崎,1993)に生息している.H. reticulataはインド太平洋地域〜東シナ海の非常に浅い海域で生息している(Hong et al., 2019).S. impressaは本研究で最も多く産出した種である.この種は現在,インド沿岸〜東シナ海の水深20 m以浅の低塩分で栄養豊富の環境に生息している(Hong et al., 2019).L. malayensisはインド太平洋で知られる典型的な熱帯種である(Hong et al., 2019).L. zhejiangensisとP. inujimensisは潮間帯種である(Hong et al., 2019 ; Smith and Kamiya, 2003).DPW02ではコア深度730~731㎝でH. reticulata,コア深度1,281~1,282㎝でS. impressaが多産した.DPW05では,コア深度1,000~1,090㎝(約1,300~1,100年前)で,B. bisanensis, S. impressa, L. malayensisとL. zhejiangensisが多産し,温暖な内湾環境であったと考えられる.また,コア深度590~591㎝(約500年前)ではP. inujimensisが多産し,水草が繫茂する浅いラグーン環境であったと考えられる.このことから,大鵬湾は過去3000年間で温暖の内湾環境から浅いラグーン環境に変化したと考えられる.
引用文献:
平林頌子,横山祐典,2020.第四紀研究,59, 129-157.
池谷仙之,塩崎正道,1993.地質学論集,39,15-32.
Lee, C.Y., Liew, P.M., 2010. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 287, 58-66.
Hong, Y., Yasuhara, M., Iwatani, H., Mamo, B., 2019. Biogeosciences, 16, 585-604.
Smith, R. J. and Kamiya, T., 2003. Species Diversity, 8, 79-91.