日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T4.[トピック]地球史

[1oral101-10] T4.[トピック]地球史

2022年9月4日(日) 09:00 〜 12:00 口頭第2会場 (14号館101教室)

座長:冨松 由希(九州大学)、佐藤 峰南(九州大学)、武藤 俊(産業技術総合研究所地質調査総合センター)

10:45 〜 11:00

[T4-O-6] 九州~四国に分布する三宝山帯上部三畳系玄武岩の地球化学的特徴とWrangellia LIPとの関連

*神田橋 知成1、山下 勝行2、川上 高平1、尾上 哲治1 (1. 九州大学、2. 岡山大学)

キーワード:玄武岩、三宝山帯、カーニアン

西南日本ジュラ紀付加体の三宝山帯から産出する玄武岩は,後期三畳紀カーニアンにパンサラッサ海遠洋域で起こったWrangellia巨大火成岩岩石区 (LIP) の大規模火成活動に関連して形成されたとする仮説が提唱されている (Tomimatsu et al., 2021).Wrangellia LIPは現代型生物の出現と深くかかわるカーニアン多雨事象の引き金と考えられており (例えば,Dal Corso et al., 2020),Wrangellia LIPに関する知見が蓄積することで,地球生物史を考えるうえでも非常に重要な示唆を与えると考えられる.しかし,Wrangellia LIPに起源を持つと考えられる三宝山帯玄武岩の地球化学的検討は進んでおらず,そもそもこの火成岩岩石区で形成されたとする仮説についても検討の余地があると考えられる.そこで本研究では三宝山帯玄武岩の地球化学的研究を行い,噴出起源の検討及びWrangellia LIPとの因果関係を明らかにすることを目的とした.
本研究では九州~四国にかけて分布する三宝山帯の上部三畳系玄武岩を対象とした.8地域20地点から74の玄武岩試料を採取し,そのうち53試料については九州大学理学部においてXRFを用いた主要・微量元素分析を行った.さらに,24試料を岡山大学のTIMSを用いてSr・Nd同位体比分析を行い,さらにICP-MSを用いて微量元素濃度と希土類元素 (REE)の分析も行った.
分析した全岩化学組成に基づく各種地球化学的判別図を用いた検討から,三宝山帯玄武岩はアルカリ玄武岩に分類されることが分かった.また,高いZr/Y値やNb/Y値を示し,典型的なプレート内玄武岩に分類されることが明らかになった.さらに本研究では,コンドライトの値で規格化したREEパターンから,三宝山帯玄武岩を,LREEに富んだOIBに類似したパターンを持つType1玄武岩 (15試料)と,相対的にLREEに枯渇したType2玄武岩 (9試料)に分類した.始原マントルで規格化した微量元素パターンからは,Type1玄武岩はOIBに類似したパターンを持つことが確認された.それに対し,Type2玄武岩のうち,熊本県球磨地域の試料はRb,Ba,K,Nb,Tiに正の異常を持つ特徴的なパターンを示したほか,高知県高の瀬峡地域の試料についてもOIBとE-MORBの中間的な特徴的パターンを示した.さらにType1玄武岩に比べてType2玄武岩がよりSiO2に富んでいることが確認された.部分溶融過程の検討では,Type1玄武岩はマントルの比較的深部における約1~5 %の部分溶融で形成されるメルトに類似した組成を示すのに対し,Type2玄武岩は約5~10 %の部分溶融で形成されたメルトに近い組成であることが分かった.また,Type2玄武岩の非常に高いTi/Yb値は,典型的なプレート内玄武岩とは異なるテクトニクス場との相互作用などの形成過程を経験したことを示唆している.以上の主要・微量元素組成の特徴は,典型的な海洋洪水玄武岩の特徴を示すWrangellia洪水玄武岩と顕著な違いがみられ,異なる噴出過程を経て形成された可能性が示唆された.
同位体比の測定結果,三宝山帯玄武岩は0.703~0.707のSr同位体比初生値(230 Ma)の値を示すことが明らかになった.また,87Sr/86Sr-Sr/Ca図のプロットにより,続成過程で形成された海水由来の炭酸塩鉱物に由来するSr同位体比の影響は見られないことが示された.Nd同位体比測定値から算出したεNdは4~8の値範囲をとり,全データの約90 %が4~7の範囲に収まった.87Sr/86Sr -εNd図からは,三宝山帯のType1玄武岩およびType2玄武岩と,Wrangellia洪水玄武岩の同位体比組成が類似していることから,同一のマントルプルームを起源とする可能性が示された.
以上の結果から,三宝山帯の上部三畳系玄武岩の起源に関しては,1)Wrangellia 洪水玄武岩形成と同時に、同一スーパープルームのプルームヘッド縁辺部において形成された海山群に起源を持つとするモデルと,2)Wrangellia洪水玄武岩を形成したスーパープルームのプルームテールによる火成活動で形成された海山列を起源とするモデルが想定される.今後はPb同位体比の分析を行い,より多角的に三宝山帯玄武岩の起源の検討を進める.

参考文献
Dal Corso et al., 2020. Sci. Adv. 6, eaba0099.
Tomimatsu et al., 2021. Glob. Planet. Change 197, 103387.