日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T4.[トピック]地球史

[1oral101-10] T4.[トピック]地球史

2022年9月4日(日) 09:00 〜 12:00 口頭第2会場 (14号館101教室)

座長:冨松 由希(九州大学)、佐藤 峰南(九州大学)、武藤 俊(産業技術総合研究所地質調査総合センター)

11:45 〜 12:00

[T4-O-10] 美濃帯犬山地域の三畳紀/ジュラ紀境界における放散虫-コノドント化石層序

*冨松 由希1、尾上 哲治1、Rigo Manuel2 (1. 九州大学、2. パドバ大学)

キーワード:層状チャート、放散虫、コノドント、三畳紀/ジュラ紀境界



三畳紀末大量絶滅(約2億140万年前)は,超大陸パンゲアの分裂に伴う火山活動(CAMP:Central Atlantic Magnetic Province)による急激な気候変動で生じたと考えられている.この絶滅イベントでは,陸域での四肢動物の絶滅や植物相の変化,海域に生息したコノドントの根絶を始め,アンモナイト,放散虫などの様々な海棲生物に影響を与えたことが知られている.美濃帯犬山地域の勝山セクション(UF)および来栖セクション(KU)の三畳紀/ジュラ紀(T/J)境界層において確認されているコノドントの絶滅と放散虫群集の急激な変動は,世界的に広く知られている(Hori, 1990; Carter and Hori, 2005).近年,勝山セクションにおけるコノドント生層序の再検討が行われ,当時パンサラサ海の遠洋域に生息していたコノドントが,三畳紀末大量絶滅をわずかに生き延びていた可能性が指摘されているが(Du et al., 2020),日本のT/J境界セクションにおける放散虫−コノドント生層序学的研究は2000年代以降研究例が少なく,三畳紀末におけるコノドントと三畳紀型放散虫群集の共存関係および絶滅層準については詳しく分かっていない.そこで本研究では,美濃帯犬山地域における未検討の後期三畳期ノーリアンから最前期ジュラ期ヘッタンギアンの層状チャートを研究対象とし,高解像度の放散虫-コノドント統合化石層序を確立し,T/J境界層準における放散虫・コノドントの絶滅のタイミングと群集変化について検討を行なった.
  研究対象は,令和2年7月の豪雨災害によって岐阜県坂祝町木曽川右岸に露出した,勝山セクションの側方延長にあたる層状チャート(便宜的に「勝山–Bセクション」と呼ぶ)である.野外調査では実測柱状図の作成と微化石処理用試料としてチャートのサンプリングを行い,フッ化水素酸を用いて微化石(放散虫・コノドント)を抽出した.
  勝山–Bセクションの層厚は約12.6 mで,主に赤色の層状チャートから構成されるが,セクションの基底から9.5〜11.3 m付近では,特徴的な紫色チャートが認められる.層状チャートからは豊富なコノドント・放散虫群集が産出し,Praemesosaturnalis pseudokahleri帯(TR8B)〜Bipedis horiae帯(JR0B)に特徴的な放散虫化石が得られた.さらに同セクションでは,Misikella hernsteini帯〜Misikella ultima帯に特徴的なコノドントが得られた.これらの放散虫­-コノドント化石層序から,セクション全体の年代は後期ノーリアン〜最前期ヘッタンギアンに対比された.さらに本研究では,コノドントMisikella posthernsteiniの初産出によって定義づけられるノーリアン/レーティアン境界と,ジュラ紀基底を特徴付ける放散虫Pantanellium tanuenseを含むジュラ紀型放散虫群集の初産出によりT/J境界を確認することができた.その結果,三畳紀末に絶滅すると認識されていたコノドントおよび三畳紀型放散虫群集が,ジュラ紀型放散虫群集と共存してT/J境界の約1.1 m上部まで産出しており,先行研究で報告されていた放散虫群集の急激な変動は見られないことが明らかとなった.さらに本研究では,T/J境界層を挟んだ約0.6 mの層序区間において,突発的にMesosaturnalis属の放散虫化石種が多産することが明らかになった.この群集は,T/J境界層を挟む非常に短い区間でのみ産出することから,Mesosaturnalis多産帯としてT/J境界の指標となる可能性がある.従来の勝山セクションにおいて確認されている紫色チャートは1層準で,その年代は最後期レーティアンに対比されているが,本研究で見つかった特徴的な Mesosaturnalis群集は報告されていない.さらに,検討セクションのMesosaturnalis多産帯では,三畳紀型とジュラ紀型の放散虫群集が共存して産出するが,勝山セクションでは,T/J 境界を挟んで放散虫群集が三畳紀型からジュラ紀型のものに急激に変化している.これらのことから,少なくとも本検討セクションでMesosaturnalis多産帯として認識されるT/J境界層を挟んだ層序区間は,勝山セクションでは欠損している可能性が考えられる.

引用文献
Carter and Hori, 2005, Can. J. Earth Sci. 42, 777–790.
Du et al., 2020, Earth-Sci. Rev. 203.
Hori, 1990, Palaeont. Soc. Japan, 159, 562–586.