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[G1-O-6] 古地磁気学的手法による地震断層の熱イベントの認定:四国白亜系四万十帯横浪メランジュ
キーワード:地震断層、古地磁気、岩石磁気、四万十帯
●はじめに:断層は多様なすべり速度を持つ。地質学的にはシュードタキライトを伴う高速すべりを示す断層や、圧力溶解劈開や動的再結晶などの低速な塑性変形を示す断層が観察される。一方、地球物理学的には高速な巨大地震と低速なスロー地震が観測されている。地質学的に断層すべり挙動を制約することが可能になれば、地球物理学的観測を物質科学的に理解することにつながる。Hamada et al. (2015)は、紀伊半島沖のIODP掘削試料を用いたビトリナイト反射率の測定をもとに、断層帯からの距離に応じた熱拡散パターンを見出し、断層のすべり挙動を制約した。このように、熱イベントの痕跡はすべり挙動の制約に利用できる。古地磁気学的手法で熱イベントを認定することは可能であるが、地震断層に適用された例は少ない。そこで本研究では、古地磁気学的手法を用いて地震断層の熱イベントを認定することを目的とする。また、古地磁気学的手法では古地磁気方位を得ることができるため、熱イベント前後での地質帯の変動を得られるという他にない利点がある。
●地質概説:本研究では、白亜系四万十帯・横浪メランジュ・五色ノ浜断層を対象とする。横浪メランジュは主に泥質な基質部と砂岩のブロックで構成されている。五色ノ浜断層の断層帯の厚さは約2mで、断層帯には厚さ数~数十cmのカタクレーサイトが発達しており、長径約2mの砂岩ブロックを取り囲んでいる部分もある。メランジュの約50 m北方には整然層の須崎層群の地層が分布している。母岩の最高被熱温度はビトリナイト反射率から約250 ℃と報告されている(Sakaguchi, 1999)。これまでに、五色ノ浜断層の破砕帯中の石英の塑性変形に注目した研究で、母岩に対して優位に高い温度を記録していることが報告されている(川路・橋本, 2021)。
●手法:残留磁化を記録する強磁性鉱物は、地震発生時の断層の摩擦発熱によって熱残留磁化(TRM)を獲得する可能性がある。TRM獲得時の断層帯の被熱温度は、強磁性鉱物のブロッキング温度に反映されると考えられる。このことから、断層からの距離に応じてブロッキング温度の変化(熱拡散パターン)が見られる可能性がある。この熱拡散パターンをもとに、摩擦発熱時間を制約し、すべり挙動の推定を目指す。 試料には、断層帯から南北約20 mの範囲で、メランジュの砂岩ブロックおよび泥質な基質部から断層帯からの距離に応じてブロックサンプリングしたものを、古地磁気測定用の円柱状の1インチ試料にして使用した。試料のアンブロッキング温度を知るために段階熱消磁実験を行った。
●結果:全ての試料で250 ℃~400 ℃付近でアンブロックされる磁化成分が確認された。全ての試料は500 ℃付近の消磁中に酸化してしまったため、自然残留磁化(NRM)の約10~50 %までしか落としきることができなかった。
●議論:250 ℃のアンブロッキング温度は、母岩の最高被熱温度とほぼ一致している。しかし、250 ℃以上でアンブロックされる磁化成分は、仮にこの磁化成分がTRMだった場合、この地域のビトリナイト反射率の測定から推定された最高被熱温度と整合的でないことが示唆された。さらに、今回の結果は断層帯を中心に20 mほどの範囲で行っており、断層帯に局所化したイベントとはいえない。そのため、北部の整然層も含めたこの地域の古地磁気方位を詳細に調べる必要がある。また、ブロッキング温度は断層帯からの距離に応じて変化が見られなかったため、メートルスケールでは熱拡散パターンを確認できないことが示された。そのため、今後は断層帯周辺のより狭い範囲でサンプリングする必要がある。
引用文献 Hamada.Y, Sakaguchi.A, Tanikawa.W, Yamaguchi.A, Kameda.j, and Kimura.G, 2015, Earth, Planets and Space, 67(1), 1-12. 川路真子, 橋本善孝, 2021, 日本地質学会学術大会講演要旨第128学術大会 (2021 名古屋オンライン), 一般社団法人 日本地質学会, 2021, 187 Sakuguchi.A, 1999, Earth and Planetary Science Letters, 173(1-2), 61-74.
●地質概説:本研究では、白亜系四万十帯・横浪メランジュ・五色ノ浜断層を対象とする。横浪メランジュは主に泥質な基質部と砂岩のブロックで構成されている。五色ノ浜断層の断層帯の厚さは約2mで、断層帯には厚さ数~数十cmのカタクレーサイトが発達しており、長径約2mの砂岩ブロックを取り囲んでいる部分もある。メランジュの約50 m北方には整然層の須崎層群の地層が分布している。母岩の最高被熱温度はビトリナイト反射率から約250 ℃と報告されている(Sakaguchi, 1999)。これまでに、五色ノ浜断層の破砕帯中の石英の塑性変形に注目した研究で、母岩に対して優位に高い温度を記録していることが報告されている(川路・橋本, 2021)。
●手法:残留磁化を記録する強磁性鉱物は、地震発生時の断層の摩擦発熱によって熱残留磁化(TRM)を獲得する可能性がある。TRM獲得時の断層帯の被熱温度は、強磁性鉱物のブロッキング温度に反映されると考えられる。このことから、断層からの距離に応じてブロッキング温度の変化(熱拡散パターン)が見られる可能性がある。この熱拡散パターンをもとに、摩擦発熱時間を制約し、すべり挙動の推定を目指す。 試料には、断層帯から南北約20 mの範囲で、メランジュの砂岩ブロックおよび泥質な基質部から断層帯からの距離に応じてブロックサンプリングしたものを、古地磁気測定用の円柱状の1インチ試料にして使用した。試料のアンブロッキング温度を知るために段階熱消磁実験を行った。
●結果:全ての試料で250 ℃~400 ℃付近でアンブロックされる磁化成分が確認された。全ての試料は500 ℃付近の消磁中に酸化してしまったため、自然残留磁化(NRM)の約10~50 %までしか落としきることができなかった。
●議論:250 ℃のアンブロッキング温度は、母岩の最高被熱温度とほぼ一致している。しかし、250 ℃以上でアンブロックされる磁化成分は、仮にこの磁化成分がTRMだった場合、この地域のビトリナイト反射率の測定から推定された最高被熱温度と整合的でないことが示唆された。さらに、今回の結果は断層帯を中心に20 mほどの範囲で行っており、断層帯に局所化したイベントとはいえない。そのため、北部の整然層も含めたこの地域の古地磁気方位を詳細に調べる必要がある。また、ブロッキング温度は断層帯からの距離に応じて変化が見られなかったため、メートルスケールでは熱拡散パターンを確認できないことが示された。そのため、今後は断層帯周辺のより狭い範囲でサンプリングする必要がある。
引用文献 Hamada.Y, Sakaguchi.A, Tanikawa.W, Yamaguchi.A, Kameda.j, and Kimura.G, 2015, Earth, Planets and Space, 67(1), 1-12. 川路真子, 橋本善孝, 2021, 日本地質学会学術大会講演要旨第128学術大会 (2021 名古屋オンライン), 一般社団法人 日本地質学会, 2021, 187 Sakuguchi.A, 1999, Earth and Planetary Science Letters, 173(1-2), 61-74.