日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T7.[トピック]マグマソースからマグマ供給システムまで

[1oral401-07] T7.[トピック]マグマソースからマグマ供給システムまで

2022年9月4日(日) 09:00 〜 11:00 口頭第4会場 (14号館401教室)

座長:江島 圭祐(山口大学)、下岡 和也(愛媛大学)

10:45 〜 11:00

[T7-O-7] 斜長石中の元素拡散を用いた深成岩体形成過程の制約可能性評価 -三河地域に分布する深成岩体を例として-

*諸星 暁之1、山岡 健1、ウォリス サイモン1 (1. 東大理・地球惑星科学専攻)

キーワード:岩石学、斜長石、元素拡散

【背景】 深成岩体、及びそのもととなるマグマだまりの成長過程は現在も残る問題の一つである。最も古典的には数立方キロメートル程度の多量のマグマが浅部地殻にダイアピル状に貫入し、分別結晶化を起こしながら固結するモデルが提案された[1]。一方現在のマグマだまり像では、活火山の物理探査や火山岩斑晶中の元素拡散分析から、流動・沈降可能な高温のマグマ貯留は非常に短期的で、低温のマグママッシュ(メルト割合<~10%程度)としての貯留が主であるとの解釈が主流になりつつある[2]。これに伴ってマグマ供給モデルも見直す必要が出てきており、単一のマグマだまりが固結した深成岩体に由来するジルコンのU-Pb年代が数Myrの幅を持つ観測結果[3]などから、大規模な深成岩体の成長には数百万年以上の間欠的マグマ供給が必要と推定されている。同様に火山複合体でも数百万年の活動履歴が報告されており[4]、長期にわたる継続的マグマ供給が強く想定される。一方でモデルで示されるマグマ貫入様式について地質試料から直接制約する手法は限られ、特に成長をじかに記録しうる深成岩体の利用は進んでいない。
【手法・対象】 深成岩に最も一般的に含まれる鉱物の一つに斜長石がある。斜長石は顕著な組成塁帯構造を持つ。塁帯構造は元素拡散によってmodifyされるが、深成岩では塁帯構造を保つ場合が一般的にみられる。メルト割合が数十%に達する高温状態では十分に拡散が進行することから、塁帯構造の残存はマグマだまりが長く低溶融割合のマグママッシュとして維持されることを示唆している。また原理的には、斜長石中の元素拡散の強度を調べることによって、拡散の程度に適合する温度履歴を推定することが可能と考えられる。本研究ではこの考察のもと、深成岩に含まれる斜長石中の元素拡散を用いて、マグマだまりの内側からマグマだまりの温度履歴を推定することを研究目標とした。この手法は火山岩などにおいてdiffusion chronometryと呼ばれ、多くの研究例がある。Diffusion Chronometryは火山岩においてはマグマの存在時間推定などに顕著な功績がある一方、深成岩への適用可能性を検討した研究報告は行われていない。
本研究でははじめに、forward modellingを用いて、この手法の深成岩への適用可能性を評価した。計算では数種類の斜長石塁帯構造と温度履歴を人為的に作成し、各温度履歴における拡散量を見積もる。計算の目的には、 (1)斜長石に含まれる微量元素がマグマだまりで想定される温度履歴において適当な拡散を起こすことの検証、(2)拡散後プロファイルの観察からマグマの付加様式(ダイアピル状の多量の供給、ごく少量の間欠的な供給)を判別できることの検証、(3)拡散後プロファイルの観察から、活動履歴の長さや冷却速度など、熱史に関わる情報を取得できることの検証、の3点を設定した。
また手法の検証のため天然試料への適用を行った。適用先には愛知県の領家深成岩体から武節花崗岩と新城トーナル岩を選択した。両岩体は同時期に同深度で形成されたと推定されている[5]。一方で接触変成帯の幅に大きな差があることが知られており、新城岩体は幅3kmに及ぶ一方、武節岩体は数百mに留まる[6]ことから、両岩体が対照的な熱履歴を経た可能性が示唆される。当手法を適用し、温度履歴の検知が可能であるか調べることで手法の正当性を評価する。
【結果・展望】 計算の結果から、斜長石結晶中の複数の微量元素 (Sr, Pb, Ba, REE) の元素拡散がいずれも熱履歴観察に適した拡散速度になることが示された。またマグマの付加様式、マグマだまりの活動履歴に関しても、熱履歴における最高到達温度が独立した手法から推定されている場合、有用な情報を得られることが確かめられた。この結果は深成岩におけるDiffusion Chronometry活用の可能性を示すものである。 天然試料への適用については予察的な結果を得ている。分析結果からは、同じ最高到達温度を仮定すれば、武節花崗岩中の斜長石に比べて新城トーナル岩中の斜長石はより長い加熱歴を持つことが示唆された。
[1] Bowen (1928), OUP. [2] Sparks et al. (2019), Phil. Trans. R. Soc. A 377: 20180019. [3] Miller et al. (2007), J. Volcanol. Geotherm. Res., 167, 282-299. [4] Hayward et al. (2010), New Zealand J. Geol. Geophys., 44:2, 285-311. [5] Takatsuka et al. (2018), Lithos, 308, 428-445. [6] 宮崎など (2008), 5万分の1地質図「御油」