13:30 〜 13:45
[T11-O-1] コア画像の解析に基づいた海底扇状地システムの発達に伴う生痕化石Phycosiphonの密度の長期変動
キーワード:畳み込みニューラルネットワーク、セマンティックセグメンテーション、生痕学、Nicobar Fan、IODP Exp. 362
本研究は,海底掘削コア画像から生痕化石を自動抽出するモデルを開発し,生痕化石の密度の長期間の変動を検討した.生痕化石Phycosiphonは様々な方向へ蛇行を繰り返す暗色の細粒砕屑物からなる管とそれを取り囲む明色の物質で構成される.本生痕属は,混濁流の流下などの海底の物理的撹乱の直後に入植する日和見主義者による移動摂食痕と解釈され,しばしば一時的な生態系の破壊とその後の回復を示す指標として扱われる(Wetzel and Uchman, 2001など).しかし,長期的な堆積環境の変化に対しての本生痕属の応答様式は明らかになっていない.
生痕化石は海底掘削コアの断面画像においても観察可能である.コアの場合,同一海域において連続した地層記録を観察できる利点がある.一方で,コア画像に基づいて長期的な生痕化石の産出記録を得るためには,たとえば厚さ1000 mオーダーのコア画像を同時に解析する必要がある.そこで本研究では,畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いたセマンティックセグメンテーション技術によって,コア画像から生痕化石の領域を自動抽出するモデルを開発した.そして,ベンガル湾南部のIODP Exp. 362 Site U1480で掘削されたコア画像にモデルを適用し,海底扇状地システムの時間発展に伴うPhycosiphonの密度の層位変化を検討した.
Site U1480では後期中新世から更新世にかけて発達したNicobar Fanの堆積物が採取されている.調査地域において,Nicobar Fan堆積物は堆積相と地震波探査断面の解釈から,下位から海底扇状地縁辺相,ローブ複合体及びチャネル―レビー相,チャネル―レビー相,に区分される(Pickering et al., 2020).この堆積環境の変化は海底扇状地システムの前進を反映すると解釈されている.
本研究では,ローブ複合体相の厚さ約4 m分のコア画像を,背景,コア断面,生痕,の各領域で人為的に着色した画像を作成し,コア画像との関係をCNNに学習させた.CNNの構造として,活性化関数前置型残差ブロックを用いたU-Netを採用した.そして,クラス間不均衡を補正した損失関数(Cui et al., 2019)を最小化する学習を300エポック行った.また,学習初期の10エポックでは線形に学習率を上昇させ,以降は余弦関数に従って減衰させることで,教師データへの過剰適合を軽減させた.学習したモデルを未知のコア画像に適用したところ,約83%のピクセルの分類が人為的に着色した正解画像と一致する推定画像が得られた.背景部分とコア断面部分は精度よく推定されたものの,生痕部分はPhycosiphonを除きほとんど再現されなかった.正解画像と推定画像を10 cm間隔の区間に分け,生痕の面積の割合を計算して同じ区間どうしで比較した結果,RMSEは0.004であった.したがって,本研究で作成したモデルはPhycosiphonの密度推定には充分な精度を持つといえる.
本研究のモデルをHole F(98–805 mbsf)とHole G(759–1431 mbsf)のコア画像に適用した.各コア画像で生痕の面積の割合を計算することで,約1.5 m間隔でPhycosiphonの密度を見積もった.その結果,堆積環境ごとに生痕密度の変動パターンに違いがあることが明らかになった.Phycosiphonの密度は海底扇状地の堆積開始直前に上昇し,海底扇状地縁辺相では比較的高い密度を示す.ローブ複合体相では,泥岩優勢部では密度は上昇するものの,砂岩優勢部では低下する変動パターンが見られた.また,チャネル―レビー相では比較的低い密度を示した.この変動パターンの違いは,海底扇状地システムの前進に伴って堆積場の物理的撹乱の頻度や規模が増大することで,しだいに生痕形成者が入植しにくくなったことを反映していると考えられる.今後,他地域のコア画像の解析も行うことで,海底扇状地システムの生痕密度の普遍的な層位変化パターンが明らかになるだろう.堆積環境ごとの層位変化パターンの普遍性が明らかになれば,限定的なコア情報からの堆積環境の推定や異なる時代間での比較が可能になると期待される.
引用文献
Cui, Y. et al., 2019, In Proceedings of the IEEE/CVF CVPR, 9268–9277.
Pickering, K. et al., 2020, Sedimentology, 67, 2248–2281.
Wetzel, A. and Uchman, A., 2001, Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 168, 171–186.
生痕化石は海底掘削コアの断面画像においても観察可能である.コアの場合,同一海域において連続した地層記録を観察できる利点がある.一方で,コア画像に基づいて長期的な生痕化石の産出記録を得るためには,たとえば厚さ1000 mオーダーのコア画像を同時に解析する必要がある.そこで本研究では,畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いたセマンティックセグメンテーション技術によって,コア画像から生痕化石の領域を自動抽出するモデルを開発した.そして,ベンガル湾南部のIODP Exp. 362 Site U1480で掘削されたコア画像にモデルを適用し,海底扇状地システムの時間発展に伴うPhycosiphonの密度の層位変化を検討した.
Site U1480では後期中新世から更新世にかけて発達したNicobar Fanの堆積物が採取されている.調査地域において,Nicobar Fan堆積物は堆積相と地震波探査断面の解釈から,下位から海底扇状地縁辺相,ローブ複合体及びチャネル―レビー相,チャネル―レビー相,に区分される(Pickering et al., 2020).この堆積環境の変化は海底扇状地システムの前進を反映すると解釈されている.
本研究では,ローブ複合体相の厚さ約4 m分のコア画像を,背景,コア断面,生痕,の各領域で人為的に着色した画像を作成し,コア画像との関係をCNNに学習させた.CNNの構造として,活性化関数前置型残差ブロックを用いたU-Netを採用した.そして,クラス間不均衡を補正した損失関数(Cui et al., 2019)を最小化する学習を300エポック行った.また,学習初期の10エポックでは線形に学習率を上昇させ,以降は余弦関数に従って減衰させることで,教師データへの過剰適合を軽減させた.学習したモデルを未知のコア画像に適用したところ,約83%のピクセルの分類が人為的に着色した正解画像と一致する推定画像が得られた.背景部分とコア断面部分は精度よく推定されたものの,生痕部分はPhycosiphonを除きほとんど再現されなかった.正解画像と推定画像を10 cm間隔の区間に分け,生痕の面積の割合を計算して同じ区間どうしで比較した結果,RMSEは0.004であった.したがって,本研究で作成したモデルはPhycosiphonの密度推定には充分な精度を持つといえる.
本研究のモデルをHole F(98–805 mbsf)とHole G(759–1431 mbsf)のコア画像に適用した.各コア画像で生痕の面積の割合を計算することで,約1.5 m間隔でPhycosiphonの密度を見積もった.その結果,堆積環境ごとに生痕密度の変動パターンに違いがあることが明らかになった.Phycosiphonの密度は海底扇状地の堆積開始直前に上昇し,海底扇状地縁辺相では比較的高い密度を示す.ローブ複合体相では,泥岩優勢部では密度は上昇するものの,砂岩優勢部では低下する変動パターンが見られた.また,チャネル―レビー相では比較的低い密度を示した.この変動パターンの違いは,海底扇状地システムの前進に伴って堆積場の物理的撹乱の頻度や規模が増大することで,しだいに生痕形成者が入植しにくくなったことを反映していると考えられる.今後,他地域のコア画像の解析も行うことで,海底扇状地システムの生痕密度の普遍的な層位変化パターンが明らかになるだろう.堆積環境ごとの層位変化パターンの普遍性が明らかになれば,限定的なコア情報からの堆積環境の推定や異なる時代間での比較が可能になると期待される.
引用文献
Cui, Y. et al., 2019, In Proceedings of the IEEE/CVF CVPR, 9268–9277.
Pickering, K. et al., 2020, Sedimentology, 67, 2248–2281.
Wetzel, A. and Uchman, A., 2001, Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 168, 171–186.