日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T8.[トピック]文化地質学

[1oral512-18] T8.[トピック]文化地質学

2022年9月4日(日) 13:30 〜 15:30 口頭第5会場 (14号館402教室)

座長:大友 幸子、石橋 弘明(なし)

14:00 〜 14:15

[T8-O-2] 地質と城郭:足尾山地ジュラ紀付加体の例

*伊藤 剛1、市澤 泰峰2 (1. 産業技術総合研究所・地質調査総合センター、2. 豊田市郷土資料館)

キーワード:足尾山地、城郭、チャート、付加体、地形

はじめに
日本の歴史上では,多くの城が築かれた.築城にあたっては,地質や地形が考慮されたと考えられるが,広範囲においてその関係を論じた研究は少ない.筆頭演者の伊藤は,足尾山地南西部において5万分の1地質図幅「桐生及足利」を刊行した(伊藤ほか,2022).その調査の過程で,同地域やその周辺の城郭と地質の関係を検討した(Ito and Ichizawa, 2022;伊藤・市澤,2022).本講演では,この検討により明らかになった地質と城郭の関係について示す.

地質概説
足尾山地は関東平野北部に位置する.足尾山地南西部「桐生及足利」地域には,ジュラ系付加体(足尾帯)・上部白亜系深成岩類(足利岩体)・古第三系及び新第三系・更新統赤城火山噴出物・第四系が分布する.足尾山地のジュラ系付加体(足尾帯)は,黒保根–桐生コンプレックス,大間々コンプレックス,葛生コンプレックス,行道山コンプレックスの4コンプレックスからなる(伊藤,2021).足利岩体は,黒保根–桐生コンプレックスに貫入する(伊藤・中村,2021).

城郭と地質
「桐生及足利」地域の地質図(伊藤ほか,2022)上に,日本城郭大系(平井ほか,1979)の地図や記述に基づいて城郭の位置をプロットした.加えて,同書で縄張り(城内の配置を示した図)を示しているものについては,縄張り内での岩相分布の検討を試みた.
「桐生及足利」地域内の29城(山城及び平山城)をプロットしたところ,24城がジュラ系付加体の分布域に位置し,チャートの分布域上の城郭は13城であった(図1).足利城や小俣城,小野城が代表的な例である.また,桐生城や高津戸城は地質図上ではチャートの分布域には当たらないが,本丸周辺などにはチャートが露出していた. チャートは一般的に緻密で硬く,険峻な地形をつくる.このチャートの特徴を利用して,築城が行われたと推定される.
足尾山地では,「桐生及足利」地域外においても,唐沢山城などでチャートの上の城郭がみられる.全国的には岐阜城や小牧山城もチャート上の城郭として有名である.

文献
平井ほか,1979,日本城郭大系 第4巻 茨城・栃木・群馬,新人物往来社.
伊藤,2021,地質調査研究報告,72(4),201–285.
Ito and Ichizawa, 2022, Geoheritage, 14(1), Article number:17.
伊藤・市澤,2022,GSJ地質ニュース,11(5), 119‒126.
伊藤・中村,2021,地質調査研究報告,72(4),383–396.
伊藤ほか,2022,桐生及足利地域の地質.地域地質研究報告(5 万分の 1 地質図幅),産総研地質調査総合センター.