日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

G1-4.ジェネラル サブセッション地学教育

[1oral601-08] G1-4.ジェネラル サブセッション地学教育

2022年9月4日(日) 13:30 〜 15:30 口頭第6会場 (14号館403教室)

座長:浅野 俊雄(なし)、矢島 道子(東京都立大学)

14:00 〜 14:15

[G4-O-3] 地域地質を活かしたICT教材 − iPadを使った飯能河原の礫の調査 −

*加藤 潔1、阿部 葉子2、岡田 志織2、石橋 文人3、田口 凌太3 (1. 駒澤大学、2. 聖望学園、3. 春日部共栄)

キーワード:地域地質、飯能河原、礫、ICT、教材

[はじめに]埼玉県飯能市入間川上流の飯能河原は,飯能駅や聖望学園から近く,徒歩で簡単にアプローチできる場所である.聖望学園では,数年前から全教科でiPadを使った授業が行われている.聖望学園の格別なご協力を得て,生徒たちから有志を募ってiPadを使った飯能河原の礫を調査させる実習を何度か行おうとした(2021年7月〜11月).残念ながら,コロナ禍などで実現しなかったが,著者らは教員研修をかねてこの教材を使って飯能河原の礫の調査を行った.本稿では,地域地質を活かした教材として, iPadを使った作成例・実践例を紹介するとともに,調査結果を基に,礫の供給源について考察する.
[地形]飯能河原は,関東山地と関東平野のほぼ境界に位置する.東方では,関東山地から関東平野に向かって,高麗丘陵(飯能丘陵)と加治丘陵(阿須山丘陵)が半島状に突き出し,それらにはさまれて,台地と低地が形成されている.
[地質]飯能河原の西方(関東山地東部)には,主に,秩父累帯のジュラ紀―白亜紀前期の付加体が分布する(例えば,Hisada, 1983;指田,1992).また,その秩父累帯中軸付近には,周辺の付加体とは異なる黒瀬川岩石と考えられる地質体が点々と露出する(例えば,島村ほか,2003;加藤,2016;加藤,2017).飯能河原の露頭や河床には,秩父累帯のジュラ紀―白亜紀前期の付加体中の緑色岩,チャート,砂岩が露出する.
 飯能河原の東方の丘陵には,秩父累帯のジュラ紀―白亜紀前期の付加体の上に乗る前弧海盆堆積物である上総層群相当層の飯能(礫)層・仏子層・多摩ローム層が分布する(例えば,竹越ほか,1979;庄田ほか,2018).また,台地には更新世後期以降の海成層・陸成層・ローム層が分布する.低地には沖積層が分布する.
[作業手順]飯能地域の地形・地質,調査の心構え・日程・調査道具・作業手順・礫種の鑑定のコツ(写真付き),小レポートの書き方を生徒達にあらかじめ知らせるために, PDFファイルのテキストを作成した.また,生徒が書き込むための提出用「河原の石の調査レポート」ファイルも作成した.それらをクラウド上のMetaMoJi ClassRoom にインポートした.WiFiが使える場所で,iPadなどでファイルを一度開いておけば,学校だけでなく,自宅や調査地域でも,テキストを読むことができる.    
 飯能河原で,上記のファイルを使って地形・地質の説明を行った後,礫の調査を行なった(約2時間).1.位置確認.2.石の採取.縦横1m×1mの枠を設定.淘汰度の記録.枠内の約3cm以上の礫を採取.3.石の仲間わけ.4.鑑定(ファイル上の写真・文章を参考にする)とiPadで写真撮影.5.計測・観察など.礫種ごとに円摩度や個数の記録.6.データの共有. 7.礫種の構成比(%)の計算.
[礫種の調査結果]チャート,118個(約60%);砂岩,69個(約35%);珪質泥岩,1個(約0.5%);泥岩,1個(約0.5%);礫岩(飯能礫層),2個(約1%);緑色岩,5個(約2.5%);弱変成砂岩,2個(約1%);人工物,1個(0.5%).枠外の礫:弱変成チャート,石灰岩,ホルンフェルス,メタガブロ, 花崗岩類.
[実習に関する考察]地域地質を活かしたICT教材による教育によって,生徒と先生の作業が効率化するばかりではなく,生徒たちは総合的な理解を深めることができる.例えば,生徒たちに,撮った写真をiPad小レポート用紙に貼り付けさせたり,記載を書き込めさせたりすることができる.自主的にリンク先に飛んだり,ネット上で色々なことを調べることもできる.先生方は,生徒達の書き込み状況をチェックし,きめ細やかな指導ができる.また,紙媒体を使わずにレポートの添削・評価を行うこともできる. 今後の課題は,現地でのWiFiルーターなどの使用である.
[礫の供給源に関する考察]大部分の礫は,上流の秩父累帯の地質体に由来する可能性が高い.その内,メタガブロや弱変成岩類の礫は,黒瀬川帯(例えば,加藤,2017)からもたらされた可能性がある.花崗岩類の礫は飯能礫層にも含まれるが,元々,多摩川や入間川上流の黒瀬川岩石由来の可能性もあるので,今後,放射年代の研究が必要であろう.
[文献]Hisada, 1983, Sci. Rep. Inst. Geosci. Univ. Tsukuba,Sec. B. 4, 99-119. 加藤,2016,駒澤地理,52,81-93.加藤,2017, 駒澤地理,53, 73-85.指田,1992,地学雑,101,573-593.庄田浩司ほか,2018,地球科学,72,59-72.島村ほか,2003,地質雑,109,116-132.竹越 智ほか,1979,地質雑,85,557-569.