日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T10.[トピック]鉱物資源研究の最前線

[2oral111-23] T10.[トピック]鉱物資源研究の最前線

2022年9月5日(月) 13:30 〜 17:15 口頭第1会場 (14号館501教室)

座長:町田 嗣樹(千葉工業大学・次世代海洋資源研究センター)、浅見 慶志朗(早稲田大学)

17:00 〜 17:15

[T10-O-13] 横浪アンバーから復元した前期白亜紀の海水Os同位体組成

*藤永 公一郎1,2、矢野 萌生1,2、安川 和孝2、中村 謙太郎2,1、大田 隼一郎2,1、桑原 佑典2、中山 健3、加藤 泰浩2,1 (1. 千葉工業大学 次世代海洋資源研究センター、2. 東京大学 工学系研究科、3. 高知大学 海洋コア総合研究センター)

キーワード:アンバー、層状Fe-Mn鉱床、熱水性Fe-Mn堆積物、Os 同位体組成、前期白亜紀

Re-Os放射壊変系は187Reがβ-壊変によって187Osになることを利用した系列であり,Osに比べてReが液相に分配されやすいため,年代効果によりOs同位体比 (187Os/188Os) は広い変動幅を持つ.そのため,大陸地殻フラックス (187Os/188Os = ~ 1.4) とマントル起源・宇宙起源物質フラックス (187Os/188Os = ~ 0.126) は,一桁も違う極めて対照的なOs 同位体比組成を示す [1].海水のOs同位体比はこれらのフラックスの相対強度によって決定されるため,その経年変動から陸上岩石の化学風化やマントル活動の変動のほか,隕石衝突などの短期的なイベントを捉えることが可能である.また,海水中のOsの滞留時間は25 – 45 kyr [1] であり,海洋循環の時間スケール (~1 kyr) よりも十分に長いため,全海洋において海水のOs同位体比はほぼ均一な値 (現在の海水:187Os/188Os =1.06) を持つ.したがって,海水のOs同位体比はグローバルな地球表層環境の変遷を解読するための最適な地球化学的トレーサーのひとつである.
過去の海水のOs同位体比についてはこれまで,海洋底から得られたFe-Mnに富む熱水性堆積物や遠洋性粘土,遠洋性炭酸塩堆積物,Fe-Mnクラスト・ノジュールなどを用いて,80 Ma以降の連続したOs同位体比変動曲線が復元されている [2].しかし,海洋底はプレートの沈み込みにより常に更新されているため,現在の海洋底に存在する堆積物から古海水のOs同位体比変動曲線を復元するには限界がある.その一方で,沈み込み帯における付加作用によって付加体中に取り込まれた過去の海底堆積物が,より古い時代における古海水情報を読み解くための重要な記録媒体となっている [3-9]. 日本列島は主に付加体から構成される地質体であり,数多くの層状Fe-Mn鉱床やMn鉱床,別子型鉱床などの層準規制型鉱床が分布している [10, 11].このうち,層状Fe-Mn鉱床 (以後アンバー [umber] と呼称する) は,そのほとんどがMORB由来の玄武岩に伴われて産する重金属に富んだ泥質岩であり,一部はFeやMnの低品位資源として小規模に開発が行われていた.講演者らのこれまでの研究により,アンバーは過去の海嶺近傍で堆積した熱水性Fe-Mn堆積物であり,海水中からP,V,REY,そしてOsなどの様々な元素を吸着しながら堆積したことがわかっている [5, 6, 8, 12-14] .
そこで本研究では,高知県南部の横浪半島に分布する白亜紀のアンバーを研究対象とした.横浪アンバーは枕状玄武岩と層状赤色チャートの境界部に狭在される赤褐色~暗赤褐色の泥質岩で,その起源は直下の玄武岩火成活動に伴う熱水性堆積物であることが指摘されている [15].また,上位の層状赤色チャートの放散虫化石年代から,横浪アンバーの堆積年代は前期白亜紀のValanginian (137.7-132.6 Ma) と推定される [16] .本講演では,横浪アンバーおよびその周辺岩石の詳細な地球化学的特徴を報告し,横浪アンバーの起源と堆積場について検討を行う.そして,横浪アンバーから復元した前期白亜紀の海水のOs同位体組成について議論する.

[1] Peucker-Ehrenbrink and Ravizza, 2000 Terra Nova, [2] Peucker-Ehrenbrink and Ravizza, 2020 Geologic Time Scale 2020 (Chapter 8), [3] Ravizza et al., 1999 Geology, [4] Ravizza et al., 2001 Earth Planet. Sci. Lett., [5] Kato et al., 2005a Geochem. Geophys. Geosyst., [6] Kato et al., 2011 Gondwana Res., [7] Kuwahara et al., 2021 Goldschmidt2021, [8] Fujinaga et al., 2022 Ore Geol. Rev., [9] 矢野ほか, 2022 JpGU2022, [10] Nakamura, 1990 Pre-Jurassic evolution of Eastern Asia, [11] Sato and Kase, 1996 Island Arc, [12] 藤永ほか, 1999 地質学論集, [13] 藤永・加藤, 2001 資源地質, [14] Kato et al., 2005b Resour. Geol., [15] Matsumoto et al., 1988 Modern Geol., [16] 岡村・宇都, 1982 高知大学学術研究報告.