11:00 〜 11:15
[T1-O-14] 四国三波川帯五良津東部岩体産エクロジャイト相大理石の炭素・酸素同位体組成再訪
【ハイライト講演】
世話人よりハイライトの紹介:炭素同位体や酸素同位体分析は,炭酸塩の起源や地球内部の流体活動を知るための有用な手がかりである.講演者らは,エクロジャイト相変成作用を経験した大理石の炭素-酸素同位体分析を行い,(1)大理石が海洋性炭酸塩を起源とすること,(2)大規模な流体活動を受けた可能性を指摘している.地球内部における流体活動の貴重な情報交換の場となることが期待される.※ハイライトとは
キーワード:三波川帯、五良津東部岩体、大理石、炭素同位体、酸素同位体
大理石(変成炭酸塩岩)は地球史を通して造山帯に普遍的に産出し、地殻におけるCO2(及び含CO2流体)の挙動を理解する上で最適な岩石である。特に、大理石を構成する炭酸塩鉱物は主要元素として含む炭素と酸素について同位体組成をトレーサーとして用いることができる。その同位体地球化学的研究は岩石の起源を推定できることに加えて、原岩の同位体組成が仮定できれば流体の起源や流体–岩石相互作用、CO2を放出するような変成反応である脱炭酸反応について定量的な議論を可能にする(Harada et al. 2021など)。本講演では四国三波川帯五良津東部岩体に産するエクロジャイト相変成作用を経験した大理石について、組織観察と微少量マイクロドリルサンプリングを併用した炭素 (C)–酸素(O)同位体組成分析結果を示し、三波川帯の大理石についての新知見を紹介する。
三波川帯に産する大理石のうち、五良津東部岩体のものについては古くから堆積性か火成起源かその成因の議論がなされてきた(例えば、坂野ほか, 1976; Wada et al., 1984; Terabayashi et al., 2005)。大理石を含む五良津東部岩体は地質学的あるいは地球化学的に海台あるいは海洋性島弧の断片という考えがあり(Terabayashi et al., 2005; Utsunomiya et al., 2011)、大理石は海洋性炭酸塩を起源にもつと考えられている。しかしながら、Wada et al. (1984)は著しく低い炭素同位体組成を見出し、一部の大理石が火成起源であることを指摘した。
五良津東部岩体の大理石は方解石を主とし、さまざまな量の石英、透輝石、Caざくろ石、チタン石を含む。我々は大理石中の方解石について組織観察しながら極微少量バルクの点分析を進めており、その予察的な炭素、酸素同位体組成(δ13C[‰ VPDB], δ18O[‰ VSMOW])の分析結果はそれぞれδ13C = +3.0 to +3.6‰(VPDB)、δ18O = +13.2 to +15.2‰(VSMOW)であった。高いδ13C値は海洋で堆積した炭酸塩のものとして整合的であり、海洋性炭酸塩説を指示する。一方、Wada et al. (1984)が報告した低いδ13C値を見出すことはできなかった。同産地の大理石中の変成チタン石は200–180 MaのU–Pb年代を示し(Yoshida et al., 2021)、その原岩はジュラ紀以前に海洋に堆積したものであると考えられる。また、Niki et al. (2022) は同大理石のCaざくろ石コアから得られたU–Pb年代97 ± 10 Ma をエクロジャイト相変成作用のタイミングと解釈した。
五良津東部岩体の大理石のδ18O値(+13.2 to +15.2‰)は海洋性炭酸塩としては低いが、汗見川−銅山川ルートの泥質片岩中のフェンジャイトのやや高いδ18O値(+11.0 to +16.2‰: 辻森ほか, 2021)に近い。こうした酸素同位体組成の特徴は、地質学的な関係と従来の四国三波川帯の研究を考慮すると、三波川帯を構成する(地殻浅所まで上昇した)かつてのスラブ深部物質が酸素同位体に関して比較的均一になるような流体流入を経験したことを意味するかもしれない。今後、四国中央部の三波川帯構成岩の広域的な安定同位体比の検討により、スラブ物質上昇時における流体活動について定量的に解析できる可能性がある。
引用文献
坂野昇平ほか, 1976. 地質学雑誌 82, 199–210. doi: 10.5575/geosoc.82.199
Harada, H. et al., 2021. Island Arc 30, e12389. doi: 10.1111/iar.12389
Niki, S. et al., 2022. J. Mineral. Petrol. Sci. 117, 210814. doi: 10.2465/jmps.210814
Terabayashi, M. et al., 2005. Int. Geol. Rev. 47, 1058–1073. doi: 10.2747/0020-6814.47.10.1058
辻森樹ほか, 2021. 日本地質学会第128年学術大会, R4-P-7.
Utsunomiya, A. et al., 2011. Chem. Geol. 280, 97–114. doi: 10.1016/j.chemgeo.2010.11.001
Wada, H. et al., 1984. Geochem. J. 18, 61–73. doi: 10.2343/geochemj.18.61
Yoshida et al., 2021. Lithos 398-399, 106349. doi: 10.1016/j.lithos.2021.106349
三波川帯に産する大理石のうち、五良津東部岩体のものについては古くから堆積性か火成起源かその成因の議論がなされてきた(例えば、坂野ほか, 1976; Wada et al., 1984; Terabayashi et al., 2005)。大理石を含む五良津東部岩体は地質学的あるいは地球化学的に海台あるいは海洋性島弧の断片という考えがあり(Terabayashi et al., 2005; Utsunomiya et al., 2011)、大理石は海洋性炭酸塩を起源にもつと考えられている。しかしながら、Wada et al. (1984)は著しく低い炭素同位体組成を見出し、一部の大理石が火成起源であることを指摘した。
五良津東部岩体の大理石は方解石を主とし、さまざまな量の石英、透輝石、Caざくろ石、チタン石を含む。我々は大理石中の方解石について組織観察しながら極微少量バルクの点分析を進めており、その予察的な炭素、酸素同位体組成(δ13C[‰ VPDB], δ18O[‰ VSMOW])の分析結果はそれぞれδ13C = +3.0 to +3.6‰(VPDB)、δ18O = +13.2 to +15.2‰(VSMOW)であった。高いδ13C値は海洋で堆積した炭酸塩のものとして整合的であり、海洋性炭酸塩説を指示する。一方、Wada et al. (1984)が報告した低いδ13C値を見出すことはできなかった。同産地の大理石中の変成チタン石は200–180 MaのU–Pb年代を示し(Yoshida et al., 2021)、その原岩はジュラ紀以前に海洋に堆積したものであると考えられる。また、Niki et al. (2022) は同大理石のCaざくろ石コアから得られたU–Pb年代97 ± 10 Ma をエクロジャイト相変成作用のタイミングと解釈した。
五良津東部岩体の大理石のδ18O値(+13.2 to +15.2‰)は海洋性炭酸塩としては低いが、汗見川−銅山川ルートの泥質片岩中のフェンジャイトのやや高いδ18O値(+11.0 to +16.2‰: 辻森ほか, 2021)に近い。こうした酸素同位体組成の特徴は、地質学的な関係と従来の四国三波川帯の研究を考慮すると、三波川帯を構成する(地殻浅所まで上昇した)かつてのスラブ深部物質が酸素同位体に関して比較的均一になるような流体流入を経験したことを意味するかもしれない。今後、四国中央部の三波川帯構成岩の広域的な安定同位体比の検討により、スラブ物質上昇時における流体活動について定量的に解析できる可能性がある。
引用文献
坂野昇平ほか, 1976. 地質学雑誌 82, 199–210. doi: 10.5575/geosoc.82.199
Harada, H. et al., 2021. Island Arc 30, e12389. doi: 10.1111/iar.12389
Niki, S. et al., 2022. J. Mineral. Petrol. Sci. 117, 210814. doi: 10.2465/jmps.210814
Terabayashi, M. et al., 2005. Int. Geol. Rev. 47, 1058–1073. doi: 10.2747/0020-6814.47.10.1058
辻森樹ほか, 2021. 日本地質学会第128年学術大会, R4-P-7.
Utsunomiya, A. et al., 2011. Chem. Geol. 280, 97–114. doi: 10.1016/j.chemgeo.2010.11.001
Wada, H. et al., 1984. Geochem. J. 18, 61–73. doi: 10.2343/geochemj.18.61
Yoshida et al., 2021. Lithos 398-399, 106349. doi: 10.1016/j.lithos.2021.106349