11:15 〜 11:30
[T1-O-15] 放射光micro-XANES分光法による三波川変成帯エクロジャイト相岩体の温度圧力構造再評価
キーワード:三波川変成帯、エクロジャイト、ざくろ石-単斜輝石地質温度計、micro-XANES分光法
沈み込み帯深部から地表へ上昇した高圧変成岩の岩石学的解析から導かれる温度圧力条件は、プレート収束域の地殻下部-上部マントル深度における岩石のレオロジーや化学反応の諸性質の本質的理解に欠かすことができない。また、岩石記録から推定される沈み込み帯の温度圧力構造は、地球物理学的観測に基づいた沈み込み帯の熱モデリングに対する重要な検証材料となり得るが、そのためには正確に岩石の温度圧力条件を推定することが重要である。
代表的な高圧変成岩であるエクロジャイトは、ざくろ石と単斜輝石(オンファス輝石)の鉱物共生を特徴的に持ち、それらの間のMg-Fe2+交換反応が変成温度条件の推定に広く利用されている。温度計として実際に適用するには、両鉱物のFe2+の含有量(Fe3+/ΣFe比)を得る必要があるが、鉱物組成分析で広く使用されるEPMAではFe2+とFe3+を区別した定量は困難であるため、通常、化学両論的電荷均衡(チャージバランス)などの間接的推定法が採られる。しかし、Fe3+/ΣFe比の間接的推定法の精度は定量分析の誤差に大きく左右され、加えてエクロジャイト中の単斜輝石はFe含有量自体が少ない上に、Ca-Eskola成分(Ca0.5[vacancy]0.5AlSi2O6)の影響で化学両論を満たさない場合があるため[1]、得られたFe3+/ΣFe比の推定値には大きな不確実性が存在する。この不確実性に起因したざくろ石-単斜輝石温度計の推定誤差は少なくとも100℃に及ぶとされ[2]、正確な温度推定の大きな支障となっている。
西南日本外帯の三波川変成帯は白亜紀の低温高圧型広域変成帯であり、沈み込み帯深部の情報を直接記録している地質帯である。四国中央部の別子地域には周囲の一般的な片岩類より有意に深い場所でエクロジャイト相変成作用を被った高変成度岩体が分布し、その温度圧力構造には圧力約2.0-2.5 GPaに顕著な高温側への湾曲構造が存在するとされる[3]。この湾曲構造は沈み込むスラブと上盤マントルの対流との熱的結合を示唆すると同時に、van Kekenらのタイプの沈み込み帯熱モデル[4]を実際に表している可能性があるが、上述の単斜輝石のFe3+/ΣFe比の不確実性により、湾曲形状を支配する権現岩体の変成条件の推定誤差が特に大きく、改めて詳細かつ広域的な変成条件の再検討が必要である。本研究ではこの点に着目し、三波川変成帯に産するエクロジャイトを用いて後述の手法で沈み込み帯の正確な温度圧力構造の再評価を試みた。
本研究では、マイクロビームの放射光X線を使用した化学状態分析法であるX線吸収端微細構造分光法(micro-XANES分光法)によるエクロジャイト中の単斜輝石のFe3+/ΣFe比の非破壊・微小領域分析を行った。標準試料はaegirine、augite、hedenbergite単結晶の粉末試料を用い、湿式分析によりFe含有量を、メスバウアー分光法により正確なFe3+/ΣFe比を求めた。Micro-XANES分析は高エネルギー加速器研究機構Photon FactoryのBL-4Aで行った。本実験ステーションは、2.5 GeV、450 mAの電子蓄積リングから偏向電磁石により発せられる高輝度シンクロトロン放射光を出射位置固定型Si(111)二結晶分光器によりエネルギー可変の単色X線に加工し、Kirkpatrick-Baez型集光光学系により約5 μm角のマイクロビームを実現している。岩石薄片試料は入射X線に対して45度の角度で固定し、Si(Li)半導体検出器により試料から発生する蛍光X線を検出した。二結晶分光器のエネルギー分解能はΔE/E=~10-4であり、magnetite標準試料によりエネルギー校正を行った。得られたFe K-edge XANESスペクトルからpre-edgeピーク重心エネルギーを計算し、標準試料の検量線から未知試料のFe3+/ΣFe比を求めた。
本講演では、これまでに採取・分析した五良津岩体、権現岩体、瀬場岩体のエクロジャイト試料について、単斜輝石のFe3+/ΣFe比と温度圧力条件を再評価した成果を報告する。また、最高変成度の権現岩体の石英エクロジャイト中の単斜輝石から三波川変成帯としては新たにCa-Eskola成分を定量的に見出したことを報告する。
文献
[1] Proyer et al. (2004), Contrib. Min. Petrol., 147, 305-318.
[2] Carswell and Zhang (1999), Int. Geol. Rev., 41, 781-798.
[3] Aoya et al. (2009), Terra Nova, 21, 67-73.
[4] van Keken et al. (2003), Geochem. Geophys. Geosyst., 3(10), 1056.
代表的な高圧変成岩であるエクロジャイトは、ざくろ石と単斜輝石(オンファス輝石)の鉱物共生を特徴的に持ち、それらの間のMg-Fe2+交換反応が変成温度条件の推定に広く利用されている。温度計として実際に適用するには、両鉱物のFe2+の含有量(Fe3+/ΣFe比)を得る必要があるが、鉱物組成分析で広く使用されるEPMAではFe2+とFe3+を区別した定量は困難であるため、通常、化学両論的電荷均衡(チャージバランス)などの間接的推定法が採られる。しかし、Fe3+/ΣFe比の間接的推定法の精度は定量分析の誤差に大きく左右され、加えてエクロジャイト中の単斜輝石はFe含有量自体が少ない上に、Ca-Eskola成分(Ca0.5[vacancy]0.5AlSi2O6)の影響で化学両論を満たさない場合があるため[1]、得られたFe3+/ΣFe比の推定値には大きな不確実性が存在する。この不確実性に起因したざくろ石-単斜輝石温度計の推定誤差は少なくとも100℃に及ぶとされ[2]、正確な温度推定の大きな支障となっている。
西南日本外帯の三波川変成帯は白亜紀の低温高圧型広域変成帯であり、沈み込み帯深部の情報を直接記録している地質帯である。四国中央部の別子地域には周囲の一般的な片岩類より有意に深い場所でエクロジャイト相変成作用を被った高変成度岩体が分布し、その温度圧力構造には圧力約2.0-2.5 GPaに顕著な高温側への湾曲構造が存在するとされる[3]。この湾曲構造は沈み込むスラブと上盤マントルの対流との熱的結合を示唆すると同時に、van Kekenらのタイプの沈み込み帯熱モデル[4]を実際に表している可能性があるが、上述の単斜輝石のFe3+/ΣFe比の不確実性により、湾曲形状を支配する権現岩体の変成条件の推定誤差が特に大きく、改めて詳細かつ広域的な変成条件の再検討が必要である。本研究ではこの点に着目し、三波川変成帯に産するエクロジャイトを用いて後述の手法で沈み込み帯の正確な温度圧力構造の再評価を試みた。
本研究では、マイクロビームの放射光X線を使用した化学状態分析法であるX線吸収端微細構造分光法(micro-XANES分光法)によるエクロジャイト中の単斜輝石のFe3+/ΣFe比の非破壊・微小領域分析を行った。標準試料はaegirine、augite、hedenbergite単結晶の粉末試料を用い、湿式分析によりFe含有量を、メスバウアー分光法により正確なFe3+/ΣFe比を求めた。Micro-XANES分析は高エネルギー加速器研究機構Photon FactoryのBL-4Aで行った。本実験ステーションは、2.5 GeV、450 mAの電子蓄積リングから偏向電磁石により発せられる高輝度シンクロトロン放射光を出射位置固定型Si(111)二結晶分光器によりエネルギー可変の単色X線に加工し、Kirkpatrick-Baez型集光光学系により約5 μm角のマイクロビームを実現している。岩石薄片試料は入射X線に対して45度の角度で固定し、Si(Li)半導体検出器により試料から発生する蛍光X線を検出した。二結晶分光器のエネルギー分解能はΔE/E=~10-4であり、magnetite標準試料によりエネルギー校正を行った。得られたFe K-edge XANESスペクトルからpre-edgeピーク重心エネルギーを計算し、標準試料の検量線から未知試料のFe3+/ΣFe比を求めた。
本講演では、これまでに採取・分析した五良津岩体、権現岩体、瀬場岩体のエクロジャイト試料について、単斜輝石のFe3+/ΣFe比と温度圧力条件を再評価した成果を報告する。また、最高変成度の権現岩体の石英エクロジャイト中の単斜輝石から三波川変成帯としては新たにCa-Eskola成分を定量的に見出したことを報告する。
文献
[1] Proyer et al. (2004), Contrib. Min. Petrol., 147, 305-318.
[2] Carswell and Zhang (1999), Int. Geol. Rev., 41, 781-798.
[3] Aoya et al. (2009), Terra Nova, 21, 67-73.
[4] van Keken et al. (2003), Geochem. Geophys. Geosyst., 3(10), 1056.