日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T1.[トピック]変成岩とテクトニクス

[2oral301-13] T1.[トピック]変成岩とテクトニクス

2022年9月5日(月) 08:45 〜 12:00 口頭第3会場 (14号館102教室)

座長:遠藤 俊祐(島根大学)、平内 健一(静岡大学)

11:30 〜 11:45

[T1-O-16] チェコ共和国・ボヘミア地塊に産する珪長質グラニュライトの最高変成圧力

【ハイライト講演】

*内藤 美桜1、山根 健輔1、中村 大輔1、平島 崇男2、マルチン スフォイッカ3 (1. 岡山大学、2. 京都大学、3. チェコ科学アカデミー)

世話人よりハイライトの紹介:ヨーロッパ・ボヘミア地塊の高圧~超高圧変成帯に産する珪長質グラニュライトの温度圧力履歴に関する岩石学的研究である.超高圧変成帯には広域的に珪長質変成岩が分布し,超高圧条件を示すエクロジャイトの岩塊を含んで産出する.大陸地殻に由来すると考えられる珪長質変成岩が,どこまで沈み込み,上昇してきたかを明らかにした本研究は,地殻物質の挙動を考えるうえで重要なデータとなると考えられる.※ハイライトとは

キーワード:ボヘミア地塊、グラニュライト、ザクロ石、黒雲母、温度圧力履歴

ヨーロッパのヴァリスカン造山帯の東端に位置するボヘミア地塊には高圧から超高圧変成作用を受けた変成岩類が産出する。地塊の中核部を占めるモルダヌビア帯の構造的最上位には、主に珪長質グラニュライトからなるGföhlユニットがあり、その中にザクロ石橄欖岩やエクロジャイトの岩塊が含まれ、それらの岩塊には超高圧条件(> 3.0GPa)を示すものがある(例えば、Medaris et al., 2005)。しかし、その母岩となる珪長質グラニュライトが経験した最高圧力条件は2.0 GPa程度であるとされている(例えば、Carswell & O’Brien, 1993)。こうした広域的に産出する珪長質変成岩とそれに含まれる超苦鉄質-苦鉄質変成岩の間に見られる推定圧力ギャップの問題は大陸衝突型造山帯で古くから議論されている。比較的新しい研究では、珪長質変成岩からも超高圧条件を示すコース石やダイヤモンドの存在が確認されており(例えば、Perraki & Faryad, 2014)、上述の推定圧力ギャップが本当に存在するか疑問が残るところである。
  本研究では、チェコ共和国南部に位置するGföhlユニットに属すBlanský les岩体の南東部のPlešovice採石場(以降PVと略す)と中央部のZrcadlová Hut’採石場(以降ZHと略す)に産する珪長質グラニュライトの最高変成圧力条件の考察を行った。
 珪長質グラニュライトの主な構成鉱物はザクロ石、石英、斜長石、カリ長石、黒雲母、藍晶石、ジルコンである。PVの珪長質グラニュライト中のザクロ石は直径1mm未満の細粒なものが多い。一方、ZHの珪長質グラニュライトは直径5mm程の粗粒なザクロ石斑状変晶を多く含み、マトリクスには藍晶石の仮像と考えられるスピネル+斜長石のシンプレクタイト(Baldwin et al., 2015)も含む。
 ザクロ石の化学組成はPV中の珪長質グラニュライトのものはコアからリムにかけてFeが増加し、Mgが減少する後退型累帯構造をもっているが、ZHのザクロ石で粗粒なザクロ石はコアからリムにかけてFeが減少し、Mgが増加する昇温型累帯構造を示した。また、ZHのザクロ石はグロシュラー含有量が高く(Xgrs > 0.16)、PVのものは低い(Xgrs < 0.16)傾向がある。
 PVのマトリクス中の黒雲母のMg#は40-50付近であり、ザクロ石中の包有物は20-70と大きくばらつく。ZHのマトリクス中の黒雲母は60-70で、包有物の黒雲母は40-70にばらつく。どちらの黒雲母もフッ素と塩素を含む。PVでは、ザクロ石中の黒雲母のF量は0.2-1.2 apfu(総陽イオン価数=44において)であり、マトリクス中の黒雲母のF量は0.2-1.3 apfuである。Cl量はマトリクス中の粒子と包有物の両方とも0.03 apfu以下である。ZHでは、F量はマトリクス中の粒子と包有物の両方で0.1-0.8 apfuの範囲にわたり、Cl量はマトリクス中の黒雲母において0.02 apfu程度と少ないが、ザクロ石中の黒雲母では0.2-0.3 apfuと比較的多い。
 地質温度圧力推定には、Grt-Bt温度計とGrt-Ky-Qz-Pl圧力計を使用した。PVではザクロ石のコアとマトリクスの黒雲母、包有物の斜長石を用いると、約2.2-2.5GPa、1000-1200℃といった推定値が得られた。ZHでは粗粒な昇温型累帯構造を持つザクロ石のリム、マトリクスの黒雲母、包有物の斜長石の組成を使用して求めると、約2.3GPa、1050℃の推定温度圧力が得られた。
 PVでは昇温型累帯構造を持つザクロ石はなく、推定温度も1200℃近い高温が得られていることを考えると、PVの方がZHより高温にあった可能性がある。モデル系では黒雲母が不安定となる1000℃以上の温度が算出されているのは、FやClといった陰イオンが少なからず含まれていることで黒雲母が超高温でも安定となったためかもしれない。一方、算出された圧力は2.5GPa以下で超高圧条件には達しない値である。本研究地域の珪長質グラニュライトは超高圧条件まで達しないものの、それに近い高圧の変成作用を経験しているのだろう。

引用文献
Baldwin et al. (2015) J. Metamorphic Geol., 33, 311-330.
Carswell & O’Brien (1993) J. Petrol., 34, 427-459.  
Medaris et al. (2005) Lithos, 82, 1-23.  
Perraki & Faryad (2014) Lithos, 202-203, 157-166.