日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T1.[トピック]変成岩とテクトニクス

[2oral314-28] T1.[トピック]変成岩とテクトニクス

2022年9月5日(月) 13:30 〜 17:30 口頭第3会場 (14号館102教室)

座長:中野 伸彦(九州大学大学院比較社会文化研究院)、足立 達朗(九州大学大学院比較社会文化研究院)、吉田 一貴(東北大学大学院 環境科学研究科)

13:45 〜 14:00

[T1-O-19] 南インドKulappara産のミグマタイトに認められる多相包有物の微細組織観察

*田口 知樹1、Madhusoodhan Satish-Kumar2、三宅 亮3 (1. 早稲田大学、2. 新潟大学、3. 京都大学)

キーワード:多相包有物、ザクロ石、ミグマタイト、炭酸塩鉱物

世界各地のグラニュライトやミグマタイトなどの高度変成岩類から、部分溶融に起源をもつ包有物(ナノ花崗岩、珪長岩包有物)が相次いで報告されている(e.g. Cesare et al., 2009 Geology; Hiroi et al., 2014 Gondwana Res.)。これら包有物は主にザクロ石やジルコン中に認められ、多様な鉱物組み合わせを有する。そのため、部分溶融メルトの生成時期や化学組成を決定する手掛かりとして注目を集めている(Nicoli & Ferrero 2021 Geosci. Front.)。さらに近年、ナノ花崗岩の起源メルトと同時期に捕獲されたC-O-H流体包有物、及びその析出結晶(多相包有物)が見出された(Carvalho et al., 2019 J. Metamorph. Geol.)。この流体包有物の存在は、部分溶融現象と流体挙動の関係究明の新たな手掛かりとなることが期待される。本研究では、南インドKerala Khondalite BeltのKulapparaに産出するミグマタイト質片麻岩から、C-O-H流体起源と推定される多相包有物をザクロ石中に発見したので、その微細組織観察の結果を報告する。
 Kulappara地域に産する高度変成岩類は、コンダライト(ザクロ石や珪線石に富む泥質片麻岩)やミグマタイト質片麻岩である。当該岩石のピーク変成条件は、熱力学的解析によりP/T = 0.60–0.90 GPa/830–925 ℃と見積もられている(Blereau et al., 2016 J. Metamorph. Geol.)。また先行研究では、ジルコン中にナノ花崗岩様包有物も記載されている(Harley & Nandakumar 2014 J. Petrol.)。
 多相包有物が今回見出されたザクロ石は、ミグマタイト質片麻岩の優白質部に存在する。以下の記載は、偏光顕微鏡での観察に加え、微小鉱物はSEM-EDS及びラマン分光分析により同定した。優白質部における主要鉱物組み合わせは、斜長石+カリ長石+石英+ザクロ石である。ザクロ石は粗粒(数cm程度)かつ他形の結晶をなし、アルマンディン成分に富む。さらに、粗粒な石墨(数mm〜cm程度)が優白質部内に存在する。副成分鉱物としては、イルメナイト+アパタイト+ジルコンに加え、微小スピネル(約100 µm)も稀に確認される。スピネルは光学顕微鏡下で暗緑色であり、石英と接して出現する。なお優白質部の縁では、粗粒な黒雲母も観察される。ザクロ石中の包有物としては、今回着目する多相包有物に加え、CO2に富む流体包有物やナノ花崗岩様包有物(斜長石+アパタイト+イルメナイト+白雲母)が存在する。多相包有物は100 µm以下の不定形を呈し、クラックを伴わない。その鉱物組み合わせは、主に炭酸塩鉱物(シデライト、アンケライト)、微細粘土鉱物、石英である。今回、シデライト+アンケライト+石英+微細粘土鉱物からなる多相包有物について、透過型電子顕微鏡による電子回折像の解析も行った。その結果、微細粘土鉱物はカオリナイトであることが判明した。多相包有物を構成する固相は、C-O-H流体がザクロ石へ包有された後、二次的に生成された可能性がある。近年、C-O-H流体存在下の部分溶融は大陸地殻で一般的に起こる可能性が提唱されているが(Ferrero et al., 2014 J. Metamorph. Geol.; Cesare et al., 2015 Lithos; Carvalho et al., 2019 J. Metamorph. Geol.)、本研究で見出された多相包有物はこの説を支持する証拠と考えられる。