日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T1.[トピック]変成岩とテクトニクス

[2oral314-28] T1.[トピック]変成岩とテクトニクス

2022年9月5日(月) 13:30 〜 17:30 口頭第3会場 (14号館102教室)

座長:中野 伸彦(九州大学大学院比較社会文化研究院)、足立 達朗(九州大学大学院比較社会文化研究院)、吉田 一貴(東北大学大学院 環境科学研究科)

14:00 〜 14:15

[T1-O-20] 東南極セール・ロンダーネ山地,ブラットニーパネに産する変成岩類のin-situ年代測定に基づくP-T-t履歴解析

*足立 達朗1、河上 哲生2、東野 文子2、宇野 正起3 (1. 九州大学大学院比較社会文化研究院、2. 京都大学大学院理学研究科、3. 東北大学大学院環境科学研究科)

キーワード:東南極、セール・ロンダーネ山地、クンガ造山帯、in-situ年代測定

東南極セール・ロンダーネ山地は,ゴンドワナ超大陸の形成に伴う造山運動によって形成された高度変成岩類や貫入岩から構成される(Shiraishi, 1997 Antarctic Geol. Map Ser.).これらの変成岩類は,変成履歴および砕屑性ジルコンの年代分布によって北東テレーンと南西テレーンに区分され,650-600Maに北東テレーンが南西テレーンに衝上することで形成されたと考えられている(Osanai et al., 2013 Precambrian Res.).両テレーンには,約600Maのグラニュライト相に達する変成条件の痕跡を残す岩石と,約550Maの角閃岩相以下のピーク変成条件を保持するが約600Maの年代を記録していない岩石が分布する.これまで後者は前述の衝上運動時に地殻浅部にあったためにグラニュライト相変成作用を免れたと考えられてきたが,最近前者が後者の構造的上位に分布する例が南西テレーンのブラットニーパネ・親指尾根で見いだされた(Adachi et al., 2021, JpGU).そこでは低角の延性剪断帯を境に構造的上位に泥質変成岩が,下位に珪長質変成岩が分布する.本発表は,Adachi et al. (2020, 2021, NIPR sympo.)で変成条件を検討したザクロ石-黒雲母-珪線石片麻岩(試料番号0703B)とザクロ石-単斜輝石片麻岩(0701B)についてin-situジルコン年代測定の分析結果を加えてより詳細にP-T-t履歴を制約することを目的とした.
 構造的上位に分布する0703Bはザクロ石,黒雲母,珪線石,斜長石,石英からなり,少量のチタン鉄鉱,ルチル,燐灰石,ジルコン,モナズ石を含む.また後退変成作用で形成されたと考えられる菫青石,緑泥石,白雲母,藍晶石,紅柱石が認められる.ザクロ石のリム部には針状の珪線石を含む.またザクロ石は割れ目に沿って菫青石+黒雲母+石英に置換されている.さらにこの菫青石と黒雲母は緑泥石+白雲母によって置換されており,藍晶石と紅柱石はこの緑泥石と白雲母に伴ってのみ産する.これらの組織から,ピーク変成作用のあとに等温減圧し,その後藍晶石/紅柱石の相転移条件付近で加水後退変成作用を受けたと考えられる.
 この岩石に含まれるジルコンは,オシラトリー累帯構造を示すコア部とそれを取り囲み暗いCLのリム部からなる.ザクロ石のリム部に含まれるジルコンのリム部からは,588-682Ma(n=4, Th/U=0.01-0.05, Gdcn/Ybcn=4.2-11.1)が得られた.これはザクロ石の成長が少なくとも590Maまで継続していたことを示す.マトリックスに含まれるジルコンのリム部からは,534-646Ma(n=14, Th/U=0.01-0.16, Gdcn/Ybcn=0.3-3.1)が得られた.菫青石と黒雲母に部分的に包有されるジルコンは,一点のみであるが538Ma(Th/U=0.16, Gdcn/Ybcn=0.5)を示し,マトリックスのジルコンの最も若い年代と一致する.このことはピーク変成作用後の等温減圧が約540Ma以降に起きたことを示唆する.  
 構造的下位に分布する0701Bは,ザクロ石,単斜輝石,斜長石,石英,チタン鉄鉱を含み,少量のホルンブレンド,燐灰石,ジルコンを含む.ザクロ石と単斜輝石は互いに包有し合っており,同時期に形成されたと考えられる.また後退変成作用を示す組織は認められない.  
 この岩石に含まれるジルコンは,オシラトリー累帯構造を示すコア部と,それを取り囲む明るいCLのマントル部および暗いCLのリム部からなる.ザクロ石に包有されるジルコンもリム部を持っている.変成作用で形成されたと考えられるマントル部とリム部はそれぞれ,約573Ma(n=9, Th/U=0.15-0.49, Gdcn/Ybcn=5.2-14.5),約557Ma(n=7, Th/U=0.08-0.20, Gdcn/Ybcn=1.5-6.6)を示す.リム部が示す1程度のGdcn/Ybcnはザクロ石と共存して成長したことを示唆するため,この岩石のピーク変成作用の時期と解釈できる.
 今回の結果に基づくと,構造的上位の泥質変成岩では少なくとも590Maまでザクロ石の成長が継続し,その後約540Maに等温減圧を経験したことが示唆される.この等温減圧のタイミングは,構造的下位の珪長質変成岩のピーク変成作用(約560Ma)と近い.このことは,約560Maに泥質変成岩のユニットが珪長質変成岩のユニットに衝上し,その後削剥されたことによって,泥質変成岩に等温減圧の温度圧力変化が記録されたことが想定される.これはGrantham et al. (2013 Precambrian Res.)で提案されたテクトニックモデルがセール・ロンダーネ山地中央部にも適応できる可能性を示唆する.