日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T1.[トピック]変成岩とテクトニクス

[2oral314-28] T1.[トピック]変成岩とテクトニクス

2022年9月5日(月) 13:30 〜 17:30 口頭第3会場 (14号館102教室)

座長:中野 伸彦(九州大学大学院比較社会文化研究院)、足立 達朗(九州大学大学院比較社会文化研究院)、吉田 一貴(東北大学大学院 環境科学研究科)

16:30 〜 16:45

[T1-O-29] 固体圧試験機による長崎蛇紋岩の高温高圧変形実験:断層変形による脱水反応促進

奥出 桜子1、*清水 以知子1、緒方 夢顕、道林 克禎2 (1. 京都大学、2. 名古屋大学)

キーワード:蛇紋岩、脱水反応、高温高圧変形実験、脆性-延性遷移、ラマン分光画像

沈み込み帯で起こる深発地震の発生メカニズムとして,相転移や脱水脆性化,熱的塑性不安定性が議論されてきた。特に深さ200 km までの中深発地震についてはスラブマントルの蛇紋岩の脱水脆性化が議論されてきたが、実験の温度圧力条件や、用いる蛇紋岩の構成鉱物や組織の多様性などにより異なる力学挙動が報告されている。本研究では、長崎変成帯のアンチゴライト蛇紋岩をもちいて、深さ60 km のやや深発地震の発生域を含む温度圧力条件下で、蛇紋岩の力学特性を調べるために変形実験をおこなった。試料は、直径 8 mm、高さ約14 mm の円柱に成形して用いた。実験は熊沢型固体圧式試験機を用いて封圧0.6–1.7 GPa の範囲でおこなった。蛇紋岩の脱水前と脱水後の挙動を比較するために, 温度は500℃ と700℃ でおこない、歪速度一定(3.3×10-5sec-1)で圧縮試験を行った。 500℃、1.2 GPa でおこなった実験では、試料は完全に降伏せず歪硬化が続いた。実験後の試料には脱水反応はみられず、試料を貫く共役断層による変形がみられた。700℃では脱水軟化(降伏後、定常クリープ)がみられたが、高圧(1.7 GPa)では降伏しないこともあった。降伏した実験試料は、準脆性変形を示し実験回収試料のSEM-EDS観察では実験中に生じた断層に沿ってMg やFe の濃集がみられた。同じ場所のラマン分光イメージではカンラン石(フォルステライト)が集中して生成していることが確認された(図)。700℃ ,1.7 GPa の実験回収試料には、断層剪断帯に輝石(エンスタタイト)や赤鉄鉱も生成していることも確認された。断層の形成や剪断変形が脱水反応を促進したと考えられる。しかし,同じ条件で行った検証実験では,試料は明瞭な降伏を示さず歪硬化がつづき,脱水反応もほとんど進行していなかった。沈み込むスラブの高圧条件での力学挙動は,蛇紋岩の初期不均質(微小クラックの存在)に大きく影響されると考えられる。 1.7 GPa の実験試料についてX線CT解析をおこない,σ1軸に対する断層の真の傾斜角を求めたところ,モール円は断層生成時の高い(>1 GPa)間隙圧を示唆する。スラブマントルのゆっくりした昇温過程でも、反応と変形の相互促進により蛇紋岩の脱水変形による大きな強度低下が起こり、周囲のカンラン岩の地震を誘発した可能性が示唆される。