08:45 〜 09:00
[T11-O-8] 駿河湾総合観測 ー堆積物移動メカニズムの解明を目指してー
キーワード:駿河湾、堆積物移動、混濁流、河川洪水
堆積物を浅海から深海底に運搬するメカニズムの一つとして,混濁流の存在が知られている.混濁流を発生させるトリガーとしては,地震性の海底斜面の崩壊,前進するデルタの斜面崩壊,および河口へ流出する洪水によるものなどが知られているが,発生予測が難しいことに加え,海底への安定した機器設置が難しいことから実海域観測によって確認した報告は少ない.
駿河湾は,湾奥・西部から4つの一級河川(狩野川,富士川,安部川,大井川)が流入し,大雨や台風時に,それぞれの河口から砕屑物を含む濁水が流入する様子が,衛星・航空写真から観察されている.実際に,駿河湾奥部富士川沖では,台風前後に採取されたコア試料を比較した結果,特徴の異なる堆積物が確認され,この変化は台風による洪水流の影響によると推定された(西田・池原,2016).2018年台風24号通過時には,駿河湾奥部を東西に横断するように設置した海底地震計が複数台急浮上,および海底面上を約0.8 km移動したことが報告され,台風による富士川洪水起源の混濁流の影響を受けたものと推察された(馬塲ほか,2021).このように駿河湾では,大雨・台風に伴う洪水による混濁流の発生,それに伴う堆積物移動が多く起きている可能性が考えられ,洪水性混濁流の実観測・メカニズム解明に適した海域であるといえる.そこで,駿河湾において,洪水起源混濁流の実観測と発生・堆積物運搬機構の解明を目的とし,総合的な観測を開始した.本発表では,富士川沖を中心に駿河トラフに沿って行った,海洋地質学的調査(海底地形,底質分布,海底観察映像など)の結果と,今後の総合観測の展望を報告する.
海底地形および後方散乱強度から,富士川沖は粗粒堆積物の分布を示す強反射面が南北方向に発達する様子が明瞭に確認され,水深約1400 mまで認められた.これらの反射面分布を基に,富士川河口を始点とし駿河トラフ沿いを南北方向に,表層堆積物(水深約110~2500 m,河口から約1~60 km)を採取した.海底観察映像および採取された試料から,ほぼすべての観測点で極表層は泥質堆積物からなる.その下位層は河口から約10 km(水深約1300 m)までは,主に中粒砂の砂質堆積物からなり,水深約1200 m以深ではサブコア(長さ平均約10 cm)の軟X線写真からラミナが認められる.その沖合(河口から約13 km,水深約1400 m)では,泥質堆積物からなるが砂質泥層を狭在し,軟X線写真からラミナの発達が確認される.岩相,粒度変化と合わせ,泥層・砂礫層の互層となっていることが認められ,これらはイベント性堆積物と通常時堆積物の違いを示しているものと推察された.また,河口から約7 km(水深約1000 m)までは,約数~数10 cmの円摩度の高い礫が確認される.これらの礫は,その礫種から主に富士川流域に分布する礫と推察される.さらに,2021年台風16号の通過後の調査では,河口から約7 km(水深約1075m)の海底で,河口域に分布するミズクサの一種が新鮮な状態で確認され,台風時の洪水によって運搬された可能性が考えられた.したがって,少なくとも富士川沖の約13 kmまでは,洪水などのイベントによって,堆積物を含む様々な物質が運搬されることが明らかになった.
さらに沖合の湾口部(水深約2500 m,河口から60 km)では,表層堆積物および海底観察映像から,表層は含水率の高い泥質堆積物からなり,その下位に砂礫質堆積物が分布している.この含水率の高い表層の泥質堆積物から,運搬されてから時間が経過していない,または常に流動している場所であることが推察された.これらの堆積物は,海洋性プランクトンを多く含み,富士川沖堆積物(淡水プランクトン,砕屑物)とは明らかに組成が異なる.これらは,富士川河口を始点とした洪水性混濁流が,湾口方向へ流下するにしたがって,海域堆積物を取り込んで運搬した結果,または駿河湾内の別地点より運搬された可能性も推察されるが,現時点では不明である.
今後,河口を出発した洪水起源混濁流がどのように堆積物を運搬し,堆積させるのか,そのメカニズムを明らかにすべく,台風前後の堆積物特徴・分布把握と共に,係留システム(流速計・セディメントトラップ・濁度計・カメラなど)を富士川沖から湾口へ向かう各水深に設置し,混濁流の実観測に取り組む.また,モーションセンサー内蔵の自己浮上式海底設置型混濁流観測装置の開発も進めている(中尾ほか,2022).今後、海洋地質学,物理学,化学,生物学などを総合的した混濁流観測と堆積物の分析に取り組む予定である.
[引用文献]西田・池原(2016)海陸シームレス地質情報集,S-5. 馬塲ほか(2021)地震,73, 197-207. 中尾ほか(2022)JPGU2022,MIS16-P05.
駿河湾は,湾奥・西部から4つの一級河川(狩野川,富士川,安部川,大井川)が流入し,大雨や台風時に,それぞれの河口から砕屑物を含む濁水が流入する様子が,衛星・航空写真から観察されている.実際に,駿河湾奥部富士川沖では,台風前後に採取されたコア試料を比較した結果,特徴の異なる堆積物が確認され,この変化は台風による洪水流の影響によると推定された(西田・池原,2016).2018年台風24号通過時には,駿河湾奥部を東西に横断するように設置した海底地震計が複数台急浮上,および海底面上を約0.8 km移動したことが報告され,台風による富士川洪水起源の混濁流の影響を受けたものと推察された(馬塲ほか,2021).このように駿河湾では,大雨・台風に伴う洪水による混濁流の発生,それに伴う堆積物移動が多く起きている可能性が考えられ,洪水性混濁流の実観測・メカニズム解明に適した海域であるといえる.そこで,駿河湾において,洪水起源混濁流の実観測と発生・堆積物運搬機構の解明を目的とし,総合的な観測を開始した.本発表では,富士川沖を中心に駿河トラフに沿って行った,海洋地質学的調査(海底地形,底質分布,海底観察映像など)の結果と,今後の総合観測の展望を報告する.
海底地形および後方散乱強度から,富士川沖は粗粒堆積物の分布を示す強反射面が南北方向に発達する様子が明瞭に確認され,水深約1400 mまで認められた.これらの反射面分布を基に,富士川河口を始点とし駿河トラフ沿いを南北方向に,表層堆積物(水深約110~2500 m,河口から約1~60 km)を採取した.海底観察映像および採取された試料から,ほぼすべての観測点で極表層は泥質堆積物からなる.その下位層は河口から約10 km(水深約1300 m)までは,主に中粒砂の砂質堆積物からなり,水深約1200 m以深ではサブコア(長さ平均約10 cm)の軟X線写真からラミナが認められる.その沖合(河口から約13 km,水深約1400 m)では,泥質堆積物からなるが砂質泥層を狭在し,軟X線写真からラミナの発達が確認される.岩相,粒度変化と合わせ,泥層・砂礫層の互層となっていることが認められ,これらはイベント性堆積物と通常時堆積物の違いを示しているものと推察された.また,河口から約7 km(水深約1000 m)までは,約数~数10 cmの円摩度の高い礫が確認される.これらの礫は,その礫種から主に富士川流域に分布する礫と推察される.さらに,2021年台風16号の通過後の調査では,河口から約7 km(水深約1075m)の海底で,河口域に分布するミズクサの一種が新鮮な状態で確認され,台風時の洪水によって運搬された可能性が考えられた.したがって,少なくとも富士川沖の約13 kmまでは,洪水などのイベントによって,堆積物を含む様々な物質が運搬されることが明らかになった.
さらに沖合の湾口部(水深約2500 m,河口から60 km)では,表層堆積物および海底観察映像から,表層は含水率の高い泥質堆積物からなり,その下位に砂礫質堆積物が分布している.この含水率の高い表層の泥質堆積物から,運搬されてから時間が経過していない,または常に流動している場所であることが推察された.これらの堆積物は,海洋性プランクトンを多く含み,富士川沖堆積物(淡水プランクトン,砕屑物)とは明らかに組成が異なる.これらは,富士川河口を始点とした洪水性混濁流が,湾口方向へ流下するにしたがって,海域堆積物を取り込んで運搬した結果,または駿河湾内の別地点より運搬された可能性も推察されるが,現時点では不明である.
今後,河口を出発した洪水起源混濁流がどのように堆積物を運搬し,堆積させるのか,そのメカニズムを明らかにすべく,台風前後の堆積物特徴・分布把握と共に,係留システム(流速計・セディメントトラップ・濁度計・カメラなど)を富士川沖から湾口へ向かう各水深に設置し,混濁流の実観測に取り組む.また,モーションセンサー内蔵の自己浮上式海底設置型混濁流観測装置の開発も進めている(中尾ほか,2022).今後、海洋地質学,物理学,化学,生物学などを総合的した混濁流観測と堆積物の分析に取り組む予定である.
[引用文献]西田・池原(2016)海陸シームレス地質情報集,S-5. 馬塲ほか(2021)地震,73, 197-207. 中尾ほか(2022)JPGU2022,MIS16-P05.