日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T11.[トピック]堆積地質学の最新研究

[2oral401-11] T11.[トピック]堆積地質学の最新研究

2022年9月5日(月) 08:45 〜 12:00 口頭第4会場 (14号館401教室)

座長:松本 弾(産総研)、横山 由香(東海大学海洋学部)、山口 悠哉(石油資源開発株式会社)

09:00 〜 09:15

[T11-O-9] 諏訪盆地における上部更新統~完新統の堆積相・古土壌相と化学組成

*葉田野 希1、川野 律歩2、吉田 孝紀2、福地 亮介3、朝日 啓泰3、沢田 健3,4 (1. 長野県環境保全研究所 自然環境部、2. 信州大学 理学部、3. 北海道大学 理学院、4. 北海道大学大学院 理学研究院 地球惑星科学部門)

キーワード:沖積堆積物、内陸盆地、古土壌、汀線の移動、堆積物コア

はじめに:諏訪盆地は,中部日本の山間に位置する構造性盆地である.この盆地を埋積する上部更新統は,約1.5~3.0 m/千年と早い堆積速度を示すことから[1, 2],短い時間スケールでの環境変動の記録媒体として期待できる.また,諏訪盆地は,冬に寒冷・乾燥化し,年間日照時間が長く,年較差と日較差の大きい内陸性気候に特徴づけられる.これより,諏訪盆地の堆積物は,気候変動,特に日射量の変動や乾燥・寒冷化に対して鋭敏に反応したことが期待できる.今回,諏訪盆地で得られた沖積堆積物コアを対象に,堆積学・古土壌学的記載を行うとともに,湖成泥質堆積物の主要元素組成を検討した.特に本発表では,最終氷期末~完新世の珪藻質泥・古土壌シーケンスに記録された数百年~数千年スケールでの湖水位の変動を報告する.
コアの概要:本研究では,諏訪湖の南岸で得られた堆積物コア2本(ST2020コア,最深部の較正年代:約26.7 cal kyr BP;SK2021コア,最深部の較正年代:約20.2 cal kyr BP)を対象とする.両コアともに,掘削長30.0 mであり,礫,砂,泥,珪藻質泥,火山灰,泥炭から構成される.コアの年代―深度モデルは,植物片の放射性炭素年代(AMS14C)を用いて構築した.
堆積システムと古土壌:粒度,堆積構造などの堆積学的特徴と根化石,集積粘土,粘土被膜などの古土壌学的特徴,TOC, TNをもとに,堆積ユニットを区分し,堆積システムを解釈した.掘削地点によって堆積システムの移行期に1~2 kyrの時差があるものの,両コアともに下位より,蛇行河川システム,沼沢地・湖システム,デルタシステムへと堆積システムが変化したことを示す.特に,両コアともに,約12.5 cal kyr BPから完新世にかけて,湖システムが卓越したことを示す.蛇行河川システムでは,砂礫層と砂層が優勢であり,B層の発達を証拠づける褐色系土色・集積粘土を伴う古土壌を複数挟在する.沼沢地・湖システムでは,珪藻質泥,泥炭層,泥層が卓越し,細根化石と粘土被膜を伴う古土壌を複数挟む.本システムの堆積ユニット上部(約7.0~5.7 cal kyr BP)は,珪藻質泥が卓越し,C/N 比が全層準の中で最も低く,古土壌を挟まないことから,最も深い湖の層相を表す.デルタシステムでは,礫層,砂層,泥炭層からなる上方粗粒化・厚層化・黒色化サクセッションに特徴づけられ,古土壌が発達する上部においては離水したことを示す.
全岩化学組成:沼沢地・湖システムとデルタシステムの泥層から,10~15 cm間隔で泥質試料を採取し,全岩での主要元素組成分析を行った.SiO2濃度は,約13.9~2.2 cal kyr BPにおいて数百~千年スケールで増減し,古土壌で低く珪藻質泥で高い.珪藻質泥におけるSiO2濃度は,現世の諏訪湖流入河川の懸濁泥[3]と比べても高い値であり,珪藻由来であることを示す.
議論:湖システムの泥質堆積物に挟まれる古土壌は,陸上での風化曝露を示し,短期間での湖水位の低下イベントを意味すると考えられる.高SiO2濃度を示す珪藻質泥と古土壌の互層は,約12.5 cal kyr BP以降において,湖水面が短い時間スケールで上下変動していたことを示す.特に,湖水面が低下したと考えられる約9.8 cal kyr BP,約8.5~8.0 cal kyr BP,約7.8 cal kyr BPは,諏訪盆地北西縁をはしる岡谷断層の活動時期[4, 5]やボンド・イベント[6]と一致する.一方,深い湖の層相を示す約7.0~5.7 cal kyr BPは,完新世中期の最温暖期[7, 8]に相当する.諏訪盆地埋積物における珪藻質泥・古土壌シーケンスが示す湖水面の変動は,北半球規模の広域的な気候変動や断層活動に伴う局地的な地形変動によって引き起こされた可能性がある.

引用文献:[1]山崎ほか, 1988, 科学技術庁研究開発局, pp. 129–137. [2]安間ほか, 1990, 地質学論集 36, 179–194. [3]葉田野, 印刷中, 長野県環境保全研究所報告 18. [4]東郷ほか, 1988, 活断層研究 5, 3–10. [5]山崎ほか, 1991, 科学技術庁研究開発局, pp. 69–79. [6]Bond et al., 1993, Nature 365, 143–147. [7]Xiao et al., 2004, Quaternary Science Reviews 23, 1669–1679. [8]Park et al., 2019, Scientific Reports 9, 10806.