16:30 〜 16:45
[T11-O-28] モンゴル西部地域に分布するBayan Gol層 (カンブリア系下部) から産出する微小ストロマトライトの形態と分布様式
キーワード:ストロマトライト、鉄バクテリア、隠棲環境、カンブリア紀、モンゴル
ストロマトライトは,ラミナ組織で特徴付けられる微生物岩である (Riding, 2000).その形成は,シアノバクテリアによる粒子の捕捉や結束,光合成活動によって誘導された炭酸カルシウムの沈殿作用が強調されている.しかし,光に乏しい隠棲環境でも,ストロマトライトは形成される.モンゴル西部地域に分布するカンブリア系下部のBayan Gol層のスロンボライト層に不随して,赤褐色を呈する微小ストロマトライトが特異的に産出する.本発表では,微小ストロマトライトの形態的な特徴や分布様式をもとに,その成因を検討する.
微小ストロマトライトは,Bayan Gol層下部の特定層準で観察される.スロンボライトは野外で,暗灰色を示し,石灰質微生物類 (Epiphyton, Renalcis) を豊富に含む小規模ドーム状構造 (直径数十 cmから約1 m) を形成する.スロンボライト間には,石灰質微生物類や微小骨格生物群の破片,緑泥石などからなる堆積物が堆積する.一方,微小ストロマトライトは,赤褐色を示し,スロンボライト内や間に二次的に形成された隠棲環境に発達する.光学顕微鏡下での成長形態や微細組織に基づいて,3タイプの微小ストロマトライトが識別される.タイプ 1: 最も豊富に認められ,暗褐色を示す層 (約0.2 mm) と赤褐色から白色を示す層 (約0.5 mm) が互層し,層状・ドーム状・層状−柱状形態を形成する.タイプ2: 暗褐色を示す樹状形態 (直径約0.05 mm,高さ最大1 cm) で特徴付けられ,層状・柱状の密集部を形成する.タイプ3: 内部に不明瞭なラミナが発達する暗褐色の柱状から樹状形態 (直径0.03−0.05 mm,高さ約1 mm) を示す.Maslov (1960) がFrutexitesと命名したものに相当する.タイプ 1から3のいずれからも微生物類の痕跡 (フィラメント等) は認められない.また,各タイプは,スロンボライト層内で以下の分布を示す.スロンボライト内に形成される数十cm規模の空隙では,タイプ 1や2の発達が特に顕著である.タイプ 1は空隙の底面から上方へ,または,空隙の側壁・天井を被覆して側方・下位方向へと発達する.タイプ 1からタイプ2へと上位方向に移行する場合がある.空隙の底部には,生砕物を含まない細粒の石灰泥が堆積する.一方,スロンボライト間ではタイプ 1や3の発達が認められる.しかし,特に,タイプ3は,スロンボライト間の数十cm規模の空隙だけでなく高さ数mmの極小規模の空隙の天井や側壁,凹凸のある底面も被覆し,上位・側方・下位方向に発達する場合が明瞭である.
ドーム状スロンボライトは,石灰質微生物類が開放的な空間で,上位・側方へと選択的に成長することで形成された.一方,微小ストロマトライトは,スロンボライト内だけでなく,堆積物が充填するスロンボライト間が部分的に侵食されたり,溶解することに起因する窪地・空隙・亀裂内の壁面を活用して,上位・側方・下位方向へと発達した.そのような空間は,光や堆積物の流入,酸素の供給が抑制された隠棲環境となり,鉄バクテリアの活動が促進され,特異的に赤褐色を示す鉄質ストロマトライトが形成された可能性が高い.各タイプの微小ストロマトライトが,具体的にどのような微生物類の代謝活動や成長によって形成されたのかは,電子顕微鏡観察や地球化学分析をもとに検討する必要がある.さらに,Bayan Gol層でスロンボライトは広く分布するものの,微小ストロマトライトの発達は特定層準に限定されている.微小ストロマトライトの発達が,どのような地域的・広域的なイベント (堆積場や海洋環境の変化等) を反映しているのかについても考察が必要である.
[引用文献]
・ Maslov, V.P., 1960. Stromatolites. Trudy Instituta geologicheskikh nauk Akademiya nauk SSR 41, 188p.
・ Riding, R., 2000. Microbial carbonates: the geological record of calcified bacterial-algal mats and biofilms. Sedimentology 47, 179–214.
微小ストロマトライトは,Bayan Gol層下部の特定層準で観察される.スロンボライトは野外で,暗灰色を示し,石灰質微生物類 (Epiphyton, Renalcis) を豊富に含む小規模ドーム状構造 (直径数十 cmから約1 m) を形成する.スロンボライト間には,石灰質微生物類や微小骨格生物群の破片,緑泥石などからなる堆積物が堆積する.一方,微小ストロマトライトは,赤褐色を示し,スロンボライト内や間に二次的に形成された隠棲環境に発達する.光学顕微鏡下での成長形態や微細組織に基づいて,3タイプの微小ストロマトライトが識別される.タイプ 1: 最も豊富に認められ,暗褐色を示す層 (約0.2 mm) と赤褐色から白色を示す層 (約0.5 mm) が互層し,層状・ドーム状・層状−柱状形態を形成する.タイプ2: 暗褐色を示す樹状形態 (直径約0.05 mm,高さ最大1 cm) で特徴付けられ,層状・柱状の密集部を形成する.タイプ3: 内部に不明瞭なラミナが発達する暗褐色の柱状から樹状形態 (直径0.03−0.05 mm,高さ約1 mm) を示す.Maslov (1960) がFrutexitesと命名したものに相当する.タイプ 1から3のいずれからも微生物類の痕跡 (フィラメント等) は認められない.また,各タイプは,スロンボライト層内で以下の分布を示す.スロンボライト内に形成される数十cm規模の空隙では,タイプ 1や2の発達が特に顕著である.タイプ 1は空隙の底面から上方へ,または,空隙の側壁・天井を被覆して側方・下位方向へと発達する.タイプ 1からタイプ2へと上位方向に移行する場合がある.空隙の底部には,生砕物を含まない細粒の石灰泥が堆積する.一方,スロンボライト間ではタイプ 1や3の発達が認められる.しかし,特に,タイプ3は,スロンボライト間の数十cm規模の空隙だけでなく高さ数mmの極小規模の空隙の天井や側壁,凹凸のある底面も被覆し,上位・側方・下位方向に発達する場合が明瞭である.
ドーム状スロンボライトは,石灰質微生物類が開放的な空間で,上位・側方へと選択的に成長することで形成された.一方,微小ストロマトライトは,スロンボライト内だけでなく,堆積物が充填するスロンボライト間が部分的に侵食されたり,溶解することに起因する窪地・空隙・亀裂内の壁面を活用して,上位・側方・下位方向へと発達した.そのような空間は,光や堆積物の流入,酸素の供給が抑制された隠棲環境となり,鉄バクテリアの活動が促進され,特異的に赤褐色を示す鉄質ストロマトライトが形成された可能性が高い.各タイプの微小ストロマトライトが,具体的にどのような微生物類の代謝活動や成長によって形成されたのかは,電子顕微鏡観察や地球化学分析をもとに検討する必要がある.さらに,Bayan Gol層でスロンボライトは広く分布するものの,微小ストロマトライトの発達は特定層準に限定されている.微小ストロマトライトの発達が,どのような地域的・広域的なイベント (堆積場や海洋環境の変化等) を反映しているのかについても考察が必要である.
[引用文献]
・ Maslov, V.P., 1960. Stromatolites. Trudy Instituta geologicheskikh nauk Akademiya nauk SSR 41, 188p.
・ Riding, R., 2000. Microbial carbonates: the geological record of calcified bacterial-algal mats and biofilms. Sedimentology 47, 179–214.