16:00 〜 16:15
[T8-O-8] 福岡城上之橋御門石垣石材の起源についての考察 〜苦鉄質深成岩石材の岩相と鉱物組成の特徴に注目して〜
キーワード:志賀島塩基性岩、角閃石、岩石組成
城郭建築物において資材の供給場所を判定することは、築城履歴の詳細のみならず当時の物流そして政治的背景を解明する基礎資料となる。福岡城石垣では、石材として博多湾周辺にて採取される火成岩や変成岩、堆積岩が多用されている。福岡城上之橋御門普請に際しては、石材の特徴から志賀島花崗閃緑岩が多用されており、それらが分布する糸島半島宮浦から博多湾口の志賀島を主な石材供給地とし、その周辺から石材が調達されたと推定された。特に、その構成鉱物の組成的特徴から志賀島西岸に産する志賀島花崗閃緑岩を起源とする可能性が高いと考えられる(宮本ほか, 2016)。しかし、志賀島周辺のみならずその周辺(玄界島・能古島・今山、および福岡城・名島城周辺の転石)から随時石材が調達された可能性も残る(例えば、唐木田, 1997)。
福岡城上之橋御門では、粗粒の苦鉄質深成岩が花崗閃緑岩に次いで使用されている。それらには数mm大の暗緑色の普通角閃石自形結晶が特徴的に肉眼で観察できる。角閃石は内側が褐色・外側が緑色〜淡緑色を示す累帯構造を伴うことがある。若干の組織的相違は有るものの、概ね普通角閃石の周囲を斜長石や石英、そして少量の微斜長石が隙間を埋めるように産する。その他、細粒の黒雲母やスフェーン、燐灰石を少量伴う。細粒粒状の単斜輝石を伴う試料も若干存在し、角閃石・黒雲母の末端が緑泥石に置換することも有る。そのような苦鉄質深成岩は志賀島花崗閃緑岩に隣接して産する志賀島塩基性岩(唐木田, 1967)に類似する。志賀島塩基性岩は規模の大小に差異があるが、志賀島では主に北東部の黒瀬、南東部の二見岩南部、北西部の大崎、南西部の南ノ浦岬に、糸島半島では東部の海岸に沿って分布する。粒径は様々だが、いずれの場所でも粗粒な塩基性岩では肉眼で数mm大の暗緑色の普通角閃石自形結晶が特徴的に観察できる。黒瀬に産する塩基性深成岩については柚原・宇藤(2007)やTiepolo et al. (2012)が詳細に記載しており、その成因について考察している。
それらの露岩の中から福岡城上之橋御門石垣に使用されていた苦鉄質深成岩類の産地をより詳細に推定するため、特徴的な構成鉱物の組成を求めた。その結果、斜長石は主に20〜36 %のAn成分を有する灰曹長石〜中性長石だが、曹灰長石(An = 62%)に達する部分を有する累帯構造を示す結晶も存在した。少量含まれる微斜長石はOr成分が9割を占め、An成分は微量だった。主要有色鉱物である角閃石は累帯構造を有することを反映して概ね#Mg (= Mg/(Mg+FeTotal))Hbl = 0.51〜0.83、TiO2 = 0.1〜3.2 wt.%の組成幅を有し、石材によってその組成幅に若干のずれが有ったものの、概ね中央部の褐色部分がより#Mg値は低くTi含有量は高かった。一方、黒雲母は概ね#MgBt = 0.55〜0.73、TiO2 = 1.3〜3.5 wt.%の組成を有した。これらの組成幅は、志賀島塩基性岩の中で、比較的粗粒な普通角閃石自形結晶を含む塩基性岩を構成するこれら鉱物の組成と共通する。苦鉄質深成岩の全岩化学組成もやはり志賀島塩基性岩に類似する(宮本ほか, 2016)。その上で,例えばFe/Mg比について,上之橋御門に使用されている苦鉄質岩の組成は,志賀島に産する主要な志賀島塩基性岩が示す組成とはわずかに外れ,糸島半島に産する志賀島塩基性岩の組成域にやや類似する傾向がある。また,糸島半島に産する志賀島塩基性岩にわずかに近い組成を示す微量元素もある。したがって,現存する矢穴跡の残る岩石や周辺の痕跡,組成的特徴を併せて考えると,福岡城上之橋御門にて使用されている苦鉄質深成岩石材の起源は,博多湾西部の糸島半島の唐泊崎や宮浦周辺の可能性が高い。
参考文献:唐木田芳文(1967):西南学院大学文理論集, 8(1), 27-74.唐木田芳文(1997):福岡市教育委員会, p10-14.宮本知治ほか(2016):号外地球, 66, 21-29.宮本知治ほか(2021):九大理研報, 24, 1-17.Tiepolo, M. et al. (2012): Journal of Petrology, 35, 6, 1255-1285. 柚原雅樹・宇藤千恵(2007):地質学雑誌, 113, 519-531.
福岡城上之橋御門では、粗粒の苦鉄質深成岩が花崗閃緑岩に次いで使用されている。それらには数mm大の暗緑色の普通角閃石自形結晶が特徴的に肉眼で観察できる。角閃石は内側が褐色・外側が緑色〜淡緑色を示す累帯構造を伴うことがある。若干の組織的相違は有るものの、概ね普通角閃石の周囲を斜長石や石英、そして少量の微斜長石が隙間を埋めるように産する。その他、細粒の黒雲母やスフェーン、燐灰石を少量伴う。細粒粒状の単斜輝石を伴う試料も若干存在し、角閃石・黒雲母の末端が緑泥石に置換することも有る。そのような苦鉄質深成岩は志賀島花崗閃緑岩に隣接して産する志賀島塩基性岩(唐木田, 1967)に類似する。志賀島塩基性岩は規模の大小に差異があるが、志賀島では主に北東部の黒瀬、南東部の二見岩南部、北西部の大崎、南西部の南ノ浦岬に、糸島半島では東部の海岸に沿って分布する。粒径は様々だが、いずれの場所でも粗粒な塩基性岩では肉眼で数mm大の暗緑色の普通角閃石自形結晶が特徴的に観察できる。黒瀬に産する塩基性深成岩については柚原・宇藤(2007)やTiepolo et al. (2012)が詳細に記載しており、その成因について考察している。
それらの露岩の中から福岡城上之橋御門石垣に使用されていた苦鉄質深成岩類の産地をより詳細に推定するため、特徴的な構成鉱物の組成を求めた。その結果、斜長石は主に20〜36 %のAn成分を有する灰曹長石〜中性長石だが、曹灰長石(An = 62%)に達する部分を有する累帯構造を示す結晶も存在した。少量含まれる微斜長石はOr成分が9割を占め、An成分は微量だった。主要有色鉱物である角閃石は累帯構造を有することを反映して概ね#Mg (= Mg/(Mg+FeTotal))Hbl = 0.51〜0.83、TiO2 = 0.1〜3.2 wt.%の組成幅を有し、石材によってその組成幅に若干のずれが有ったものの、概ね中央部の褐色部分がより#Mg値は低くTi含有量は高かった。一方、黒雲母は概ね#MgBt = 0.55〜0.73、TiO2 = 1.3〜3.5 wt.%の組成を有した。これらの組成幅は、志賀島塩基性岩の中で、比較的粗粒な普通角閃石自形結晶を含む塩基性岩を構成するこれら鉱物の組成と共通する。苦鉄質深成岩の全岩化学組成もやはり志賀島塩基性岩に類似する(宮本ほか, 2016)。その上で,例えばFe/Mg比について,上之橋御門に使用されている苦鉄質岩の組成は,志賀島に産する主要な志賀島塩基性岩が示す組成とはわずかに外れ,糸島半島に産する志賀島塩基性岩の組成域にやや類似する傾向がある。また,糸島半島に産する志賀島塩基性岩にわずかに近い組成を示す微量元素もある。したがって,現存する矢穴跡の残る岩石や周辺の痕跡,組成的特徴を併せて考えると,福岡城上之橋御門にて使用されている苦鉄質深成岩石材の起源は,博多湾西部の糸島半島の唐泊崎や宮浦周辺の可能性が高い。
参考文献:唐木田芳文(1967):西南学院大学文理論集, 8(1), 27-74.唐木田芳文(1997):福岡市教育委員会, p10-14.宮本知治ほか(2016):号外地球, 66, 21-29.宮本知治ほか(2021):九大理研報, 24, 1-17.Tiepolo, M. et al. (2012): Journal of Petrology, 35, 6, 1255-1285. 柚原雅樹・宇藤千恵(2007):地質学雑誌, 113, 519-531.