129th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Oral

T8. [Topic Session] Culture geology

[2oral520-25] T8. [Topic Session] Culture geology

Mon. Sep 5, 2022 4:00 PM - 5:30 PM oral room 5 (Build. 14, 402)

Chiar:Masami INOMATA, Yoshihiro Morino

4:30 PM - 4:45 PM

[T8-O-10] Cultural Geology and Geoscience Education

*Ken-ichiro Hisada1 (1. Bunkyo University)

Keywords:Earth science around us, Away from science, Comfortable education, Course of Study, Cultural Geology

文化地質学とは人々の営みの結果である文化や文明が,地質とどのように関わってきたかを研究するきわめて人間的な学問分野である(鈴木,2016)とされてきた.すなわち,文化地質学は,人々が生み出してきた文化や文明に対して地質がどのような影響を与えてきたのかということを解明する研究分野と見なせる.筆者もそのような立場で,20~10万年前に東アフリカで誕生したホモ・サピエンスが世界拡散する過程で,ユーラシア大陸に初めて立ち入った際に,イラン・ザグロス山脈の地質から古代人がどのような恩恵を受けたのかを論じた(久田編,2018;Hisada, 2017).その結果,人類が地球上に誕生して以来,自然の一部である地質と強い関わりを持ち,その中に文化や文明が生まれるのは至極当然の事であると結論付けた. それでは,そのような文化地質学は学校教育現場ではどのように扱われているのだろうか.筆者は,戦後誕生した理科の科目「地学」を高等学校学習指導要領の特徴と変遷の観点で調査を行った.「地学」に合わせて科目「総合的な理科」(昭和45年度学習指導要領で発足)も対象とし,後者の変遷については久田ほか(2019)によって論じた.ここでは「地学」についてのみ扱う.「地学」は,昭和23年の高等学校学習指導要綱(試案)の刊行以来,大きく改訂されたのはS31(昭和31年度改訂を意味する;以降同様),S35,S45,S53,H01,H11,H21,H30の8回である.これらの改訂の経緯・趣旨や要点などについてそれぞれの学習指導要領を調べ,文化地質学的な内容の抽出を試みた.併せて入手および閲覧可能な高等学校教科書についても概査した.その結果,H01の学習指導要領に基づく「地学ⅠA」に最も強く文化地質学的な内容が含まれていることが分かった. 久田ほか(2019)では,S45以降における高等学校学習指導要領解説における「総合的な理科」の変遷について議論した際に,6 回の改訂で「総合的な理科」は,「寄せ集め段階(S45,S53)」,「多様段階(H01,H11)」,「収束段階(H21,H30)」といえる区分が可能であることを指摘した.「寄せ集め段階」とは,物化生地からそれぞれの基本的事項を集めたに過ぎない.ほとんど脈絡なく基礎事項が抽出された.「多様段階」では,生徒個性重視が謳われ,選択的志向が重視された.「収束段階」では,日進月歩の科学技術と人間生活の関わりの理解が必須であるとされ,従来の考え方から一変し,「科学と人間生活」という新科目に収束された. ここでとくに注目されるのは「多様段階」になるH01では,久田ほか(2019)は,学習指導要領における改訂の要件として, ①選択科目を一層増やすものとすること ②理科は日常生活から遊離したものという印象を与え,理科離れという問題から,日用生活とのかかわりや科学技術の応用にかかわる側面の重視 ③探究活動の重視にまとめた.この改訂の要件に対応して,東京書籍の教科書「地学の世界ⅠA」(海野ほか,1998)が出版された.その目次は以下のようになっている.「宇宙の中の人間」,「身の回りの地学」,「資源と人間生活」,「地球の活動」,「地球と人間」となっており,「身の回りの地学」は自然の風景・建造物と岩石・身近な鉱物の3章立てとなっている.「身の回りの地学」が文化地質学の理念に近いといえる.しかしながら,「身の回りの地学」はその次のH11の改訂で,残念ながら,ゆとりのある教育活動が謳われた結果削除された. また,すべての生徒が履修すべき科目「総合的な理科」は,S45 以降,「人間と自然のかかわり」が重要視されてきたが,改訂を重ねるごとに探究学習の場となり,さらには近年猛威をふるう自然災害に関する学習を扱う内容となった.このように文化地質学の萌芽的学習スタイルである「身の回りの地学」は,理科離れの対応策として生まれたものの,ゆとりある教育活動からの転換,探究学習や防災教育の必要性などを理由に,その比率は減少してきたといえる.
【文献】 Hisada, K., (2017) Geology Based Culture? In Tsuneki, A. et al. eds Ancient West Asian Civilization. 15-38 Springer. 久田健一郎編(2018)アフリカを脱出した人類最初の奇跡 愛智出版 159pp. 久田健一郎ほか(2019)日本地学教育学会第73回全国大会秋田大会講演予稿集 108-109. 鈴木寿志(2016)文化地質学 号外地球12-20.  海野和三郎ほか(1998)地学の世界[ⅠA]東京書籍167pp.