日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

G1-7. ジェネラル サブセッション海洋地質

[3oral101-07] G1-7. ジェネラル サブセッション海洋地質

2022年9月6日(火) 10:00 〜 12:00 口頭第1会場 (14号館501教室)

座長:三澤 文慶(産業技術総合研究所)

11:30 〜 11:45

[G7-O-6] プチスポットパイプを活用してのモホール計画――海洋マントル掘削の新たな提案

*石井 輝秋1、金子 誠2、平野 直人3、町田 嗣樹4、秋澤 紀克5 (1. 静岡大学防災総合センター、2. 深田地質研究所、3. 東北大学、4. 千葉工業大学、5. 東京大学)

キーワード:モホール計画、プチスポットパイプ、海洋マントル掘削、マール、R/V「ちきゅう」

マントルに至る地球深部の物質科学的研究には,構成物質であるマントル橄欖岩をはじめとする岩石・鉱物の入手が不可欠である.陸上ではダイアトリュームを伴う火山の母岩及び捕獲岩・捕獲結晶が研究に供されてきた.たとえば,島弧地殻をもつ日本列島では,アルカリ玄武岩マグマ活動による火山岩中の捕獲岩が,大陸地殻を持つアフリカ大陸ではキンバーライトマグマ活動による火山岩中の捕獲岩が研究対象として活用されてきた. 海洋プレート域では,ホットスポットマグマ活動による火山岩中の,マントル橄欖岩捕獲岩が知られているが,其の成因を一義的に決めるのは困難であろう.しかし,近年海洋プレートアスノスフェア由来のマグマ活動による単成火山であるプチスポット火山が発見(Hirano et al., 2006)され,海洋プレート域の汚染の少ない地球深部物質の入手が可能となった.とは言え,これら東北沖プチスポット火山は水深5000m以深にあるため,陸上火山調査に比べ困難が伴う. その後,それらのプチスポット火山の中に爆裂火口(マール=maar)を有する火山が発見され(石井他, 2019)その火山体の基部にはプチスポットパイプと称すべき火山角礫岩からなるダイアトリュームの存在が予想できる.ここではR/V「ちきゅう」によるノンライザー深海掘削を提案する.プチスポット火山産角礫岩は見かけの比重が約1.4と小さいので,緻密な溶岩に比べ格段に容易に掘削可能と考えられる.そこでプチスポット火山火口内にリエントリーコーンを設置しての,R/V「ちきゅう」による,ノンライザー,ノーコアリングの深海掘削を提案したい.水深約5500 m-6000 mの海底に散在している火口から,どの深度まで多孔質玄武岩からなるプチスポットパイプが連続するかは不明であるが,「ちきゅう」の能力を最大限活用すれば,検証可能であろう.海底下数千メートル(条件が良ければ約3000 m-5000 m),否,マントルまでの掘削も夢ではないであろう.何故ならば,プチスポットパイプ及びその周囲はマグマの貫入や,焼き生しで安定している可能性もあり得るからです.ノンライザー深海掘削には不可欠だと思われる,上方掘削可能コアバレルの新規開発・運用をも提言する.ドリルストリングスが回転している限り,即ち上方掘削が可能な限りコアバレルを無事揚収できると考えられる(石井他,2021).更に,掘削孔壁を貫いての斜め掘装置を開発し,数百メートル毎に地質構成岩石採取が可能に成れば尚望ましい.これぞ“プチスポットパイプを活用してのモホール計画”と言っても過言ではない.
文献
Hirano, N., Takahashi, E., Yamamoto, J., Abe, N., Ingle, S. P., Kaneoka, I., Kimura, J.-I., Hirata, T., Ishii, T., Ogawa, Y., Machida, S. and Suyehiro, K. (2006): Science, 313, 1426-1428.
石井輝秋・金子誠・平野直人・町田嗣樹・秋澤紀克(2019):「新青丸」KS-18-9航海,プチスポット火山ドレッジ研究速報と展望:-歴史的大発見:東北沖太平洋超深海底の爆裂火口(マール)-.深田地質研究所年報, 20, 105-128.
石井輝秋・金子誠・平野直人・町田嗣樹・秋澤紀克(2021):プチスポット溶岩及びマントル捕獲岩・捕獲結晶の地質学的・岩石学的研究 —太平洋プレートのアセノスフェアに至る地質断面構築を目指して—. 深田地質研究所年報,22,99-118.