日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

G1-6.ジェネラル サブセッション岩石・鉱物・火山

[3oral301-04] G1-6.ジェネラル サブセッション岩石・鉱物・火山

2022年9月6日(火) 08:45 〜 09:45 口頭第3会場 (14号館102教室)

座長:遠藤 俊祐(島根大学)

09:15 〜 09:30

[G6-O-3] 酸化鉄バンドを伴う堆積岩中での無機的なプロセスによる白色スポットの形成

*河原 弘和1,2、吉田 英一3、西本 昌司4、纐纈 佑衣1、勝田 長貴5、梅村 綾子3 (1. 名古屋大学大学院、2. JOGMEC、3. 名古屋大学博物館、4. 愛知大学、5. 岐阜大学)

キーワード:白色スポット、ゼブラロック、黄鉄鉱、酸化鉄、pH変化

【背景】赤色砂岩などの酸化鉄を含んで赤色を呈する堆積岩において、酸化鉄が分解してできた数mm~数cm大の白色スポット(: Bleached spotあるいはReduction spot)が見られることがある。その局所的な白色化のプロセスについては様々な要因が考えられており、炭化水素を含む流体、先駆物質の有機物及び微生物活動によるものと説明されてきた。白色スポットの一部に、中心にウランやバナジウムといった重金属元素の濃集部を伴うタイプがある。近年、そのような重金属元素濃集を伴うスポットのウラン同位体比パターンにより、そのスポットが微生物活動によって形成したことが示された[1]。そのため、一部の先行研究では白色スポットをバイオマーカーとみなし、火星での生命探査に応用する提案がなされている[1][2]。しかし、ほとんどの白色スポットは上記のような重金属元素の濃集は伴わないため、白色スポットの存在だけで生命活動の痕跡として良いかは議論の余地があると考える。
【研究対象】本研究において、ゼブラロックと呼ばれる豪州北部に産する特徴的な酸化鉄からなるバンド模様を呈する堆積岩中に、中心に特徴的な多角形の結晶を伴う直径100 μmほどの微小な白色スポットを発見した。ゼブラロックの鉄バンド形成プロセスについては議論があるが、鉄を含む酸性流体と母岩との反応によって生じた可能性が提案されている[3][4]。スポットの産状から中心物質とスポット形成との関連が推測され、先駆物質の痕跡が残る白色化現象として注目した。
【結果】本研究では、偏光顕微鏡観察、XGT分析、ラマン分光分析、SEM-EDX分析及びEMPA分析の結果を基に、ゼブラロック中の白色スポットの形成プロセスについて検討を行った。中心結晶の形状及び元素マッピングの結果から、結晶は、自形で立方体及び八面体となる黄鉄鉱がディッカイト、ゲーサイト及びヘマタイトに置き換わったシュードモルフであると推測した。また、スポットは鉄バンドの縁あるいはバンドの外の鉄が薄く沈澱した箇所でのみ認められ、バンド内の鉄の濃度が大きい箇所では認められなかった。
【考察】スポットの分布から、鉄バンドの酸化鉄鉱物の沈澱とスポット形成が同じイベントで形成したと考えられる。従って、スポットの形成プロセスとして以下のステップが考えられる:(1) Fe2+を含む酸性流体が母岩中の炭酸塩鉱物や長石類によって緩衝され、Feがゲーサイト(FeOOH)として沈澱する(:鉄バンド形成)(2) 母岩中の初生黄鉄鉱が酸性流体によって分解し、周囲にH+イオンが拡散される。(3) H+イオンが拡散した範囲では、局所的にpHが低下してゲーサイトが分解する(4) 初生黄鉄鉱の分解した箇所にはディッカイトが充填し、分解せず残った箇所はゲーサイト及びヘマタイトに変化する(5) その後、全体が酸化してゲーサイトがヘマタイトとなる。ゲーサイトが分解した範囲は酸化鉄フリーの白色スポットとして残るスポットの有無は、初生黄鉄鉱の分解に伴う酸化鉄の分解反応と周囲の酸化鉄の沈澱反応のどちらが優勢であったかによる違いであると考えられる。なお、ゼブラロック中では初生黄鉄鉱が残っていないため、微生物による硫酸還元で生じたものか、続成作用で生じたものかは現時点では断定できない。
【結論】本研究によって白色スポットが必ずしも微生物活動などの有機的な反応だけでなく、硫化鉱物が酸化分解による局所的なpH変化という無機的な反応によっても生じうることがわかった。このことから、全ての白色スポットが必ずしもバイオマーカーとなりうるわけではなく、スポットの起源はその中心物質を精査した上で判断すべきであると考える。
【引用文献】[1] McMahon et al., 2018. Nature Comm. [2] Parnell et al., 2016. Origins of Life and Evolution of Biospheres. [3] Retallack, 2021. Aust. J. Earth Sci. [4] Kawahara et al., 2022. Chem. Geol.