日本地質学会第129年学術大会

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セッション口頭発表

T2.[トピック]新生界地質から読み解く西南日本弧の成立—付加体形成から背弧拡大まで

[3oral311-21] T2.[トピック]新生界地質から読み解く西南日本弧の成立—付加体形成から背弧拡大まで

2022年9月6日(火) 13:30 〜 16:30 口頭第3会場 (14号館102教室)

座長:羽地 俊樹(産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、新正 裕尚

15:45 〜 16:00

[T2-O-15] 放射年代と全岩化学組成に基づく九州西部天草地域の中新世貫入岩の起源の検討

*新正 裕尚1、赤坂 真奈2、折橋 裕二2、仁木 創太3、佐々木 実2、平田 岳史3 (1. 東京経済大学全学共通教育センター、2. 弘前大学理工学部地球環境防災学科、3. 東京大学理学系研究科地殻化学実験施設)

キーワード:中新世、火成岩、ウラン・鉛年代、西南日本、瀬戸内火山岩

日本海拡大とそれに伴う西南日本弧の時計回り回転に関連して多様な火成活動が見られた.九州の西北部には前期~中期中新世の火成岩が分布し,それらの火成活動の一部は日本海拡大に伴うリフティングと関連して発生したと考えられている.さらに九州の海溝寄り地域においては主に珪長質火成岩類からなる外帯花こう岩類,九州東部の大野火山岩類のような高Mg安山岩を伴う珪長質~苦鉄質の瀬戸内火山岩類が見られる.近年主にジルコンU-Pb年代により再検討されている形成年代は外帯花こう岩類は紀伊半島から九州西部までおよそ15.5–13.5 Maの範囲に(Shinjoe et al., 2021a),瀬戸内火山岩類は三河地域の設楽から九州東部の大野火山岩類にかけて15.5–13 Maの範囲(星ほか,2006;巽ほか,2010;新正・折橋,2017)に多くが入り,西南日本弧の回転直後の高温の四国海盆スラブが沈み込みによる比較的短期間の活動時期であるとされる.また,九州西部に分布する後期中新世の火山岩類は,9 Maごろから始まった北西九州のプレート内玄武岩を主とする火成活動(Uto et al., 2004)や琉球弧の背弧海盆である沖縄トラフの初期のリフティングに関連づけられている(濱崎,1997;Shinjoe et al., 2021b).九州西部の天草諸島は琉球弧の北端付近に位置し,多くは岩脈や岩株といった小規模なものであるが,中新世の活動とされる火成岩類が貫入している.既報の放射年代はおよそ19–13 Maにわたり,その活動の年代レンジの長さから対馬,五島などの背弧側に見られる日本海拡大に関連したリフティングに伴う火成活動との共通性が指摘されていた(濱崎,1997).
 今回,19.0 Maの黒雲母K-Ar年代(柴田・富樫, 1975)が報告されていた天草下島北西部の富岡半島の花こう閃緑岩に加え,富岡半島のひん岩岩脈,下島北部のデイサイト岩床,天草上島の倉岳石英斑岩についてジルコンU-Pb年代を東京大学地殻化学研究施設設置の機器を用いてレーザーアブレーションICP質量分析法によって求めた.4試料の年代は 先行研究と異なり14.8–14.5 Maの狭い範囲に分布した.これらの年代は下島の比較的規模の大きな陶石鉱床からえられたジルコンU-Pb年代(大平ほか, 2012)ともほぼ一致している.従来報告されていた広い年代範囲は,主にK-Ar法あるいはフィッション・トラック法によるものであった.今回報告したジルコンU-Pb年代は,精度が高く後期の変質などの影響を受けにくいため,より信頼度の高い火成年代を与えるものと考える.これらから天草地域の珪長質火成岩の活動は外帯花こう岩類・瀬戸内火山岩類と同時期のものであったと見られる.今回分析した試料の全岩化学組成はデイサイト質で,Eu負異常を欠き重希土にやや枯渇した希土類元素パターンを持つなど,瀬戸内火山岩類のデイサイトの微量元素組成と類似している.天草地域の中新世珪長質火成岩の岩脈・岩床の方位に基づく応力復元を行ったUshimaru and Yamaji (2022)は南北伸長場でこれらの岩脈群が形成されたことを示し,これらは瀬戸内地域と同様にフィリピン海プレートの沈み込み下でのマグマ活動であるとしている.また永尾ほか(1992)は天草下島の南部から見出した高Mg安山岩の岩脈について14.2 MaのK-Ar年代を報告し瀬戸内火山岩との類似性を指摘した.今回報告した珪長質火成岩の年代および全岩化学組成はこれらの先行研究の提案を支持するものであり,瀬戸内火山岩の活動の西縁は大分県の大野火山岩類ではなく,少なくとも天草地域におよんでいたものと考える.
文献 濱崎 (1997) 資源地質47, 121–129, 星ほか (2006) 地質雑112, 153–165, 永尾ほか (1992) 岩鉱87, 283–290, 大平ほか (2012) 日本地質学会第119 年学術大会講演要旨, 196, 柴田・富樫 (1975) 地調月報, 26, 187–191, 新正・折橋 (2017) 地質雑, 123, 423–431, Shinjoe et al. (2021a) Geol Mag, 158, 47, Shinjoe et al. (2021b) Isl Arc, 30, e12383, 巽ほか(2010) 地質雑, 116, 661–679, Ushimaru & Yamaji (2022) J.Struct Geol, 154, 104485, Uto et al. (2004) Tectonophys, 393, 281–299.