日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T13.[トピック]都市地質学:自然と社会の融合領域

[3oral401-12] T13.[トピック]都市地質学:自然と社会の融合領域

2022年9月6日(火) 08:45 〜 11:45 口頭第4会場 (14号館401教室)

座長:中澤 努(産業技術総合研究所)、小松原 純子(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、小荒井 衛(茨城大学理学部)

09:15 〜 09:30

[T13-O-3] 小規模な開析谷内の沖積層に記録された海進と海退:埼玉県芝川低地の例

*小松原 純子1 (1. 産業技術総合研究所地質調査総合センター)

キーワード:芝川低地、枝谷、開析谷、完新世、海進

東京都東部から埼玉県東部にかけての低地下には,最終氷期以降に堆積した沖積層が分布する.東京都東部の東京低地,荒川沿いの荒川低地,中川沿いの中川低地については多数の層序ボーリングが掘削され,更新世末期から現在にかけての地史や物理特性等が明らかになってきた(Tanabe et al., 2015; Komatsubara et al., 2017; 小松原ほか, 2022).これらの主要な埋没谷はかつての利根川や荒川が下刻した大規模な谷である.
主要な埋没谷については理解が進む一方,比較的小規模な開析谷(枝谷)の沖積層に関する研究例は少ない.枝谷内の堆積相や物性は主要な埋没谷とはかなり異なることが知られている(遠藤ほか,1989;中澤ほか,2022など).これは,枝谷が集水域が台地内にとどまるような小さい河川によって形成されたために掃流力がなく,更新統の礫層に阻まれて下刻が進行しなかったり(久保,1988),完新世の高海水準期に大規模河川の堆積物で谷口を塞がれて沼沢化したりという事情による.しかしこのような枝谷は河川や潮汐流の影響を受けにくいために地層の欠損が比較的少なく,完新世の海進海退など環境の記録がより完全な形で残っている可能性が高い.
このような枝谷の沖積層について堆積相および物性を調べることを目的に,埼玉県の大宮台地を開析する主要な谷の1つである芝川沿いの低地(芝川低地もしくは見沼低地)で2022年3月に2本のオールコアボーリングを実施した.
2022年の3月に埼玉県さいたま市の浦和くらしの博物館民家園敷地内(GS-SMS-1)と三崎公園(GS-SUM-1)でそれぞれ30 m,20 mのオールコアボーリングを行った.ボーリング孔でPS検層,温度検層を行い,コア試料については堆積相の記載,粒度分析を行った.またコア試料から得られた貝殻片と植物片について放射性炭素年代測定を依頼中である.層相の概要は下記の通りである.
GS-SMS-1:深度20 m(標高-16.63 m)以深は更新統(固結した泥層)である.沖積層は基底に中粒〜極粗粒砂と泥炭を伴う以外はほとんど泥からなり,極細粒砂の薄層を希に挟む.標高-8.43〜-3.73 mに貝化石を産し,標高-0.98 m以浅には根痕が顕著となる.表層の2.8 mは盛土からなる.
GS-SUM-1:深度9.05(標高-5.52)以深は更新統(固結した泥層)である.沖積層の基底から約2 mは中粒砂〜granuleからなり,斜交層理や木片を伴う.その上位は泥が主体で一部細粒〜粗粒砂の薄層を挟む.標高-3.47〜-1.57 mにはパイプ状の生痕が見られる.標高-1.57から上位には根痕が顕著となる.地表の1.0 mは盛土である.
芝川低地では遺跡発掘調査に伴って地質調査が行われ,調査地点の上流側と下流側で海成層の上限下限および年代が得られている(堀口ほか,1982;安藤,1982;埼玉県埋蔵文化財調査事業団, 1992).また,低地の出口付近にあたる埼玉県川口市でも産総研によるオールコアボーリングが行われている(小松原ほか,2010).これらのデータも踏まえ芝川低地の堆積環境変遷と物性との関連および完新世の海面変動について議論する.

安藤, 1982, 寿能泥炭層遺跡発掘調査報告書 自然遺物編. 153-238.
遠藤ほか, 1989, 第四紀研究, 28, 61-77.
堀口ほか, 1982, 寿能泥炭層遺跡発掘調査報告書自然遺物編. 59-136.
Komatsubara et al., 2017, Quaternary International, 455, 56-69.
小松原ほか, 2010, 堆積学研究, 69, 73-84.
小松原ほか, 2022,地質学雑誌, 128, 29-42.
久保, 1988, 地理学評論, 61, 25-48.
中澤ほか, 2022,日本地質学会大129年学術大会講演要旨.
埼玉県埋蔵文化財調査事業団, 1992, 浦和市四本竹遺跡芝川見沼第1調整池関係埋蔵文化財発掘調査報告.
Tanabe et al., 2015, Sedimentology, 62, 1837-1872.