16:30 〜 16:45
[G8-O-4] 三次元地質モデルの逐次更新システムの開発と山岳トンネル現場での適用
キーワード:山岳トンネル、三次元地質モデル、可視化、探査データ、逐次更新
■背景,目的
高速道路やバイパス,新幹線等に利用される山岳トンネルの建設工事では,対象となる地山地質を工事前に事前調査するために,一般的に,鉛直ボーリングや露頭調査,産業技術総合研究所による地質図等からの情報をとりまとめて,トンネルと平行に地質縦断図が描かれる.また地表からの反射法地震波探査による弾性波速度の分布図も重ねて描かれるケースも多い.それらの情報にもとづき,トンネルの支保構造等の設計が行われるが,実際に掘削が進むと,その地質縦断図と切羽(トンネルの掘削面)の地質変化が整合しない場合がある.その理由として,ボーリング調査は限られた本数であり,また露頭調査の範囲も限定されていること等があげられる.
この地質状況の変化,例えば,断層破砕帯の出現位置やその厚さ・走向傾斜を事前に予測することが,切羽での肌落ち(掘削面が崩れ落ちること)等の災害リスクを回避するために重要とされている.そのため,地山性状(地質だけでなく強度も含めた性質)や岩相変化の空間分布の把握を目的に,先進ボーリングや弾性波探査,削孔検層(削岩機による硬軟状況の探査)など,切羽前方数mから100m程度までを対象とした前方探査が行われている.しかし,探査結果から地山状況の変化を明確にイメージすることは専門技術者でないと難しく,施工中の探査データが即座に施工計画の改善・変更に反映されたり,現場職員の注意喚起をうながしているとは言えない状況である.例えば,弾性波探査による反射面の分布を三次元的な地質構造に照らし合わせるには専門的な知識,経験,ノウハウを必要とする.
そこで本開発では,探査データを比較的簡易に短時間で三次元的に可視化する方法を検討した.従来からその可視化については,三次元地質モデルが資源探鉱,都市地盤評価など様々な分野で用いられている.山岳トンネルや地下発電所といった地下構造物建設の際,詳細な設計の検討が求められる場合には三次元地質モデルが用いられてきた.しかし,前述したように施工中に探査データが得られるたびに逐次的に地質モデルを更新するには,地質専門技術者が常時対応にあたる必要があり時間もコストもかかっていた.よって専門技術者でなくても,時間をかけずに評価対象となる範囲を簡易にモデル更新することできるシステムを構築することにした1).
■開発システムの概要
本開発による地質モデルの逐次更新方法の骨子は,ソフト開発および,各種探査結果の入力・選択・使用方法等のルール化である.ルールを作ることにより,地質専門技術者でなくても比較的容易に地質モデルを逐次更新できるようにすることを目指している.初期モデルは,地質専門技術者により市販のソフトウェアを用いて施工前の事前調査による結果から作成する.その初期モデル(ソリッドモデル)から解析対象範囲,すなわち施工時の探査データを入力して逐次更新したい範囲を選択し,それをボクセルモデル化して,モデル更新部(開発中のソフト)に入力する.モデル更新部では,目的に応じてそのボクセルモデルを地質区分・硬軟区分などモードを切り替えることが可能である.そのため,初期モデル(ボクセルモデル)では,施工前の調査による弾性波速度分布,当初設計の支保パターンに相当する地山区分,ならびに岩相区分などを各ボクセルの属性値として使用する.ボクセルの属性値を逐次更新するための材料は,例えば,先進ボーリング(以下,Br)や発破弾性波探査による弾性波速度(Vp),Brによる岩相区分,Brの試験体を用いた強度試験結果による物性区分,また,油圧ブレーカによる切羽打撃を振動源とした弾性波探査2),3)による弾性波の反射面などを用いる.
■現場への適用と今後の展開
現在,当社施工の山岳トンネル現場において,システム機能の検証を進めている.まだ複数課題を残しているものの,データの入力からモデルの更新まで,最短で10分程度で更新可能である.また,三次元モデルから地山の切断面を抽出できるため,数10m先までの切羽の性状変化の把握が容易になり,施工リスクの検討や現場関係者への注意喚起をおよそタイムリーに実施できる.今後,このシステムで逐次更新した三次元地質モデルを山岳トンネルのデジタルツイン施工のプラットフォームとして活用し,掘削による岩盤力学的な挙動の予測や支保工に作用する応力の予測,トンネル坑内の湧水量予測の高精度化につなげて,山岳トンネル施工の合理化,安全性・生産性の向上につなげていく考えである.
参考文献
1 吉河ほか(2021):土木学会第76回年次学術講演会,VI-199.
2 西・若林(2016):応用地質, Vol.56, No.6, pp.343-349.
3 吉河ほか(2021):第15回岩の力学国内シンポジウム講演集, pp.115-120.
高速道路やバイパス,新幹線等に利用される山岳トンネルの建設工事では,対象となる地山地質を工事前に事前調査するために,一般的に,鉛直ボーリングや露頭調査,産業技術総合研究所による地質図等からの情報をとりまとめて,トンネルと平行に地質縦断図が描かれる.また地表からの反射法地震波探査による弾性波速度の分布図も重ねて描かれるケースも多い.それらの情報にもとづき,トンネルの支保構造等の設計が行われるが,実際に掘削が進むと,その地質縦断図と切羽(トンネルの掘削面)の地質変化が整合しない場合がある.その理由として,ボーリング調査は限られた本数であり,また露頭調査の範囲も限定されていること等があげられる.
この地質状況の変化,例えば,断層破砕帯の出現位置やその厚さ・走向傾斜を事前に予測することが,切羽での肌落ち(掘削面が崩れ落ちること)等の災害リスクを回避するために重要とされている.そのため,地山性状(地質だけでなく強度も含めた性質)や岩相変化の空間分布の把握を目的に,先進ボーリングや弾性波探査,削孔検層(削岩機による硬軟状況の探査)など,切羽前方数mから100m程度までを対象とした前方探査が行われている.しかし,探査結果から地山状況の変化を明確にイメージすることは専門技術者でないと難しく,施工中の探査データが即座に施工計画の改善・変更に反映されたり,現場職員の注意喚起をうながしているとは言えない状況である.例えば,弾性波探査による反射面の分布を三次元的な地質構造に照らし合わせるには専門的な知識,経験,ノウハウを必要とする.
そこで本開発では,探査データを比較的簡易に短時間で三次元的に可視化する方法を検討した.従来からその可視化については,三次元地質モデルが資源探鉱,都市地盤評価など様々な分野で用いられている.山岳トンネルや地下発電所といった地下構造物建設の際,詳細な設計の検討が求められる場合には三次元地質モデルが用いられてきた.しかし,前述したように施工中に探査データが得られるたびに逐次的に地質モデルを更新するには,地質専門技術者が常時対応にあたる必要があり時間もコストもかかっていた.よって専門技術者でなくても,時間をかけずに評価対象となる範囲を簡易にモデル更新することできるシステムを構築することにした1).
■開発システムの概要
本開発による地質モデルの逐次更新方法の骨子は,ソフト開発および,各種探査結果の入力・選択・使用方法等のルール化である.ルールを作ることにより,地質専門技術者でなくても比較的容易に地質モデルを逐次更新できるようにすることを目指している.初期モデルは,地質専門技術者により市販のソフトウェアを用いて施工前の事前調査による結果から作成する.その初期モデル(ソリッドモデル)から解析対象範囲,すなわち施工時の探査データを入力して逐次更新したい範囲を選択し,それをボクセルモデル化して,モデル更新部(開発中のソフト)に入力する.モデル更新部では,目的に応じてそのボクセルモデルを地質区分・硬軟区分などモードを切り替えることが可能である.そのため,初期モデル(ボクセルモデル)では,施工前の調査による弾性波速度分布,当初設計の支保パターンに相当する地山区分,ならびに岩相区分などを各ボクセルの属性値として使用する.ボクセルの属性値を逐次更新するための材料は,例えば,先進ボーリング(以下,Br)や発破弾性波探査による弾性波速度(Vp),Brによる岩相区分,Brの試験体を用いた強度試験結果による物性区分,また,油圧ブレーカによる切羽打撃を振動源とした弾性波探査2),3)による弾性波の反射面などを用いる.
■現場への適用と今後の展開
現在,当社施工の山岳トンネル現場において,システム機能の検証を進めている.まだ複数課題を残しているものの,データの入力からモデルの更新まで,最短で10分程度で更新可能である.また,三次元モデルから地山の切断面を抽出できるため,数10m先までの切羽の性状変化の把握が容易になり,施工リスクの検討や現場関係者への注意喚起をおよそタイムリーに実施できる.今後,このシステムで逐次更新した三次元地質モデルを山岳トンネルのデジタルツイン施工のプラットフォームとして活用し,掘削による岩盤力学的な挙動の予測や支保工に作用する応力の予測,トンネル坑内の湧水量予測の高精度化につなげて,山岳トンネル施工の合理化,安全性・生産性の向上につなげていく考えである.
参考文献
1 吉河ほか(2021):土木学会第76回年次学術講演会,VI-199.
2 西・若林(2016):応用地質, Vol.56, No.6, pp.343-349.
3 吉河ほか(2021):第15回岩の力学国内シンポジウム講演集, pp.115-120.