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[T9-O-4] 本邦中新世~鮮新世火山岩油ガス貯留層におけるCO2鉱物固定ナチュラルアナログ
キーワード:CO2鉱物固定、中新世~鮮新世火山岩、ソレアイト質玄武岩、熱水変質、炭酸塩鉱物
本邦の油ガス田の多くは東北本州日本海沿岸域に集中し,その貯留層は,前~中期中新世及び後期中新世~鮮新世に海底に噴出・堆積した火山岩やその砕屑岩からなることが多い.これらの貯留層は,熱水活動や背弧セッティングにおける高い地温勾配下での続成作用によって,炭酸塩鉱物や粘土鉱物等を伴う変質作用を被っている.変質作用によって生じた多くの炭酸塩鉱物の生成に関与したCO2は,炭素酸素同位体比から火山ガス起源と推定されている(山田・内田, 1997).一般的に水蒸気を除く火山ガスの中で最も多く含まれる成分はCO2(残りの40~70%を占める)である.このことから,貯留層内で起きている変質は,天然でのCO2鉱物固定の結果と見なすことができる.今回,実際の貯留層における過去の鉱物晶出を例に,CO2注入に伴う貯留岩性状の変化を予察する.
CO2鉱物固定を考える上で,溶解過程と沈殿過程の2つのステップを考慮する必要がある.溶解過程では,炭酸・重炭酸イオンの相手として2価元素に富む点で珪長質岩よりも苦鉄質岩が適している.通常玄武岩は,流紋岩に比較して5~8倍の2価元素を含有する.中でもソレアイト質玄武岩は特に鉄やカルシウムに富んでいることから溶解対象として有利である.本邦のグリーンタフ期の玄武岩をはじめとする多くの玄武岩がこれに該当する.これらの玄武岩は海底噴出することによる水冷クラック形成によって反応比表面積が大きくなることからも溶解に適している.沈殿過程をみると,新潟県片貝ガス田では,炭酸塩鉱物として,高温から低温側へシデライト,アンケライト,カルサイトが,つまり溶解度の低い順にこれらが累帯構造を示して晶出する(八木ほか,2020).沈殿過程では炭酸塩鉱物として固定される以外に,珪酸(H4SiO4)の行方も重視する必要がある.片貝ガス田では,熱水上昇時にCO2脱ガスが生じ,溶液がやや酸性に傾くことによって珪酸塩鉱物としてイライトがbyproductとして晶出する.現状,炭酸塩鉱物やイライトは貯留岩性状に大きな影響を及ぼしていない.但し残存した珪酸は,より低温側(<70℃)では珪化帯を形成し,浸透性を阻害するケースも考えられる.秋田県由利原油ガス田の玄武岩貯留層では,9Maに熱水活動があり,火山性CO2を起源に,炭酸塩鉱物としてカルサイトが,珪酸塩鉱物としてアデュラリア(カリ長石)が出現する(Yagi, 1993).このことから,由利原では片貝に比べて,より高温でかつ中性の熱水の関与が示唆される.
アイスランドや米国において,フィールドでのCO2鉱物固定が既に実証されているが,それらのノウハウを適用して,本邦にCO2鉱物固定をビジネスとして成功させるにはまだ課題が多い.最大の課題として本邦の貯留層の規模や浸透性状が欧米に比較して小さいことがあげられる.海嶺玄武岩や洪水玄武岩に比して本邦の玄武岩は,規模や浸透率とも1/10~1/100程度である.また,本邦でCCSを行う場合,枯渇油ガス田を使用するケースが多いと考えられるが,貯留層内の岩石表面が”油濡れ“だと,水-岩石(鉱物)反応が起こり難くなり,溶解反応が遅延し,さらには鉱物固定にも影響が生じる可能性がある.また,仮にCO2鉱物固定が成功しても,炭酸塩鉱物や珪酸塩鉱物の沈殿に起因するCO2注入低下を考慮する必要もある.
現状,室内実験で解決できることは時間的制限も含め限られることから,直接フィールドにおいてCO2鉱物固定を試すことを余儀なくされるであろう.本邦の油ガス田では苦鉄質火山岩やその砕屑岩の割合が多いことから,CO2鉱物固定を積極的に行うか否かに係わらず,それは必ず考慮すべき対象となろう.鉱物固定によるCO2注入障害リスクを極力避けるためにも,まずは十分な孔隙率-浸透率を有する貯留層を対象とし,さらには貯留層の岩質や性状を熟知しておくことが重要であろう.
【参考文献】
Yagi, M. (1993): Regional metamorphism and hydrothermal alteration related to Miocene submarine volcanism ('green tuff') in the Yurihara oil and gas field, northeast Honshu island, Japan. Island Arc 2, 240-261.
八木ほか(2020): 火山岩油ガス貯留岩に出現する炭酸塩鉱物の特徴. 令和2年石油技講演要旨.
山田・内田(1997): 片貝地域のグリーンタフ火山岩貯留層に認められる熱水変質と二次孔隙の性質,石技誌,62, 311-320.
CO2鉱物固定を考える上で,溶解過程と沈殿過程の2つのステップを考慮する必要がある.溶解過程では,炭酸・重炭酸イオンの相手として2価元素に富む点で珪長質岩よりも苦鉄質岩が適している.通常玄武岩は,流紋岩に比較して5~8倍の2価元素を含有する.中でもソレアイト質玄武岩は特に鉄やカルシウムに富んでいることから溶解対象として有利である.本邦のグリーンタフ期の玄武岩をはじめとする多くの玄武岩がこれに該当する.これらの玄武岩は海底噴出することによる水冷クラック形成によって反応比表面積が大きくなることからも溶解に適している.沈殿過程をみると,新潟県片貝ガス田では,炭酸塩鉱物として,高温から低温側へシデライト,アンケライト,カルサイトが,つまり溶解度の低い順にこれらが累帯構造を示して晶出する(八木ほか,2020).沈殿過程では炭酸塩鉱物として固定される以外に,珪酸(H4SiO4)の行方も重視する必要がある.片貝ガス田では,熱水上昇時にCO2脱ガスが生じ,溶液がやや酸性に傾くことによって珪酸塩鉱物としてイライトがbyproductとして晶出する.現状,炭酸塩鉱物やイライトは貯留岩性状に大きな影響を及ぼしていない.但し残存した珪酸は,より低温側(<70℃)では珪化帯を形成し,浸透性を阻害するケースも考えられる.秋田県由利原油ガス田の玄武岩貯留層では,9Maに熱水活動があり,火山性CO2を起源に,炭酸塩鉱物としてカルサイトが,珪酸塩鉱物としてアデュラリア(カリ長石)が出現する(Yagi, 1993).このことから,由利原では片貝に比べて,より高温でかつ中性の熱水の関与が示唆される.
アイスランドや米国において,フィールドでのCO2鉱物固定が既に実証されているが,それらのノウハウを適用して,本邦にCO2鉱物固定をビジネスとして成功させるにはまだ課題が多い.最大の課題として本邦の貯留層の規模や浸透性状が欧米に比較して小さいことがあげられる.海嶺玄武岩や洪水玄武岩に比して本邦の玄武岩は,規模や浸透率とも1/10~1/100程度である.また,本邦でCCSを行う場合,枯渇油ガス田を使用するケースが多いと考えられるが,貯留層内の岩石表面が”油濡れ“だと,水-岩石(鉱物)反応が起こり難くなり,溶解反応が遅延し,さらには鉱物固定にも影響が生じる可能性がある.また,仮にCO2鉱物固定が成功しても,炭酸塩鉱物や珪酸塩鉱物の沈殿に起因するCO2注入低下を考慮する必要もある.
現状,室内実験で解決できることは時間的制限も含め限られることから,直接フィールドにおいてCO2鉱物固定を試すことを余儀なくされるであろう.本邦の油ガス田では苦鉄質火山岩やその砕屑岩の割合が多いことから,CO2鉱物固定を積極的に行うか否かに係わらず,それは必ず考慮すべき対象となろう.鉱物固定によるCO2注入障害リスクを極力避けるためにも,まずは十分な孔隙率-浸透率を有する貯留層を対象とし,さらには貯留層の岩質や性状を熟知しておくことが重要であろう.
【参考文献】
Yagi, M. (1993): Regional metamorphism and hydrothermal alteration related to Miocene submarine volcanism ('green tuff') in the Yurihara oil and gas field, northeast Honshu island, Japan. Island Arc 2, 240-261.
八木ほか(2020): 火山岩油ガス貯留岩に出現する炭酸塩鉱物の特徴. 令和2年石油技講演要旨.
山田・内田(1997): 片貝地域のグリーンタフ火山岩貯留層に認められる熱水変質と二次孔隙の性質,石技誌,62, 311-320.