日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T9.[トピック]カーボンゼロエミッションに貢献する石油天然ガス石炭地質学・有機地球化学

[3oral501-08] T9.[トピック]カーボンゼロエミッションに貢献する石油天然ガス石炭地質学・有機地球化学

2022年9月6日(火) 09:15 〜 12:00 口頭第5会場 (14号館402教室)

座長:三瓶 良和(島根大学大学院自然科学研究科)、千代延 俊(秋田大学国際資源学研究科)、山口 悠哉(石油資源開発株式会社)

11:00 〜 11:15

[T9-O-5] 長岡CCS実証サイトのCO2砂岩貯留岩と不均質性

*千代延 俊1 (1. 秋田大学国際資源学研究科)

キーワード:CCS、砂岩貯留岩、地質モデル、不均質性

【はじめに】
 実現性および即効性の高い地球温暖化ガス削減対策のひとつとして二酸化炭素回収地下貯蔵(CCS)技術がある.我が国では,2004年に地球環境産業技術研究所(RITE)が中心となり,新潟県長岡市の岩野原サイトにおいてCCS実証試験が初めて実施された.この実証試験では圧入井1本と観測井3本の坑井が掘削され,約10,000トンのCO2を地下1100 mの帯水層へ圧入し,4D地震探査,弾性波トモグラフィー,各種検層を用いて,地下へ圧入されたCO2の挙動をモニタリングしている.本講演では,長岡CCS実証サイトの砂岩貯留岩の岩相や不均質性の検討結果を紹介するとともに,その不均質性が地下でのCO2の挙動へ与える影響について発表する.
【地質概説】
 長岡サイトの圧入対象となった帯水層は,層厚が約60 mの更新統砂岩シルト岩互層で地表に分布する灰爪層から西山層に相当する.地震探査断面の解析から,地層は南北方向の軸をもつ背斜構造の翼部に位置し,サイト内では東方向へ傾斜する.地層は整合に累重し,層厚の側方変化が顕著である(Chiyonobu et al., 2013).そのうち,実際にCO2が圧入された層準は層厚12 mで,孔隙率は23%,浸透率は平均7 mDである(伊藤ほか, 2016).
【貯留岩の地質学的特徴】
 CO2が圧入された深度は,観測井の位置で1108〜1120 mである(Mito et al., 2010).その圧入区間の岩石コア観察から,全体を通じて砂岩優勢砂岩シルト岩互層で,しばしば小礫〜中礫の亜円礫を含む.また,一部では礫岩層も認められた.堆積構造は,希に平行および斜交葉理を伴うものの,全体を通じて塊状で上方細粒化が認められる.CT画像を用いて堆積物の詳細を観察すると,塊状の砂岩では多数の生痕が観察できる.また,粒度分析からは総じて淘汰が不十分な層準が多く,希に淘汰度が良好な砂岩の存在が指摘できた.検層データを用いた浸透率および孔隙率からは,孔隙率の高い層準で浸透率が高くなるのは当然であるが,もっとも浸透率が高いのは密度が比較的高く,岩相としては淘汰度の良好な砂岩であった(Chiyonobu et al., 2013).
【CO2の挙動と貯留層の不均質性について】
 CO2圧入層準では,圧入時のスピナー検層の結果から,顕著にCO2が圧入された深度が認められている(君島ほか, 2008).さらに,圧入後のCO2挙動を比抵抗検層によりモニタリングしており,CO2が多く圧入された深度では,圧入停止後もCO2が遊離ガスとして存在している(Mito et al., 2010).この層準は,深度1113〜1117 mに位置し,上述の高浸透率かつ淘汰度が極めて良好な塊状細粒砂岩に対比される.また,この淘汰度良好な塊状砂岩の下位と上位には,粘土粒子を多く含む砂質シルト岩が存在しており,遊離ガスの移動を遮蔽する役割を果たしている.これは,粘土粒子を含む淘汰が不十分な層準が,淘汰度良好な地層と比較して低浸透率となり,遮蔽層をなすことを示す.これらの結果から,地下環境においては,CO2が圧入され移動する経路としては,淘汰度が良好な砂岩層のみを選択していることが指摘できる.また,CO2の挙動をシミュレーションする上で,この砂岩の淘汰が良好/不十分な層準を的確に反映したモデルを用いると,気・流体の挙動予測の正確性が格段に向上することも明らかとなった.
【我が国の貯留対象砂岩層とCCS】
 我が国においてCCSの対象となる砂岩層としては,地質学的には新しい新第三系から第四系が多いことは既知であるが,その砂岩層は堆積盆の形成過程を踏まえると不均質性が高いことが想定される.今後のCCSの発展に対しては,不均質性など地質学的妥当性を踏まえた精度の高いCO2挙動予測を通じた信頼性の向上が重要となる.
【引用文献】
 Chiyonobu et al., 2013, EGYPRO., 37, 3546-3553., 伊藤ほか, 2016, 地質雑., 121, 311-323., 君島ほか, 2008, JMMIJ., 124, 61-67., Mito et al., 2010, IJGGC., 2, 309-318.