[T3-P-2] 東南極ラングホブデ浅海域における現生貝形虫群集(予察)
【zoomによるフラッシュトーク有り】9/10(土)9:35-9:40
キーワード:南極、現生貝形虫、環境要因
最終氷期最盛期以降,南極氷床は融解を始め,現在の急速な融解は大きな地球環境問題となっている(e.g., DeConto and Pollard, 2016).東南極の氷床量は西南極より約10倍(Paolo et al., 2015),東南極における古環境変動に関する研究は西南極に比べ少なく(e.g., 菅沼ほか,2020),南極氷床融解史を構築する上での不確実性に繋がっている.南極氷床の融解量や空間分布の定量的な評価には、海水準変動をはじめとする古環境変動を地質試料から復元することが重要である. “示相化石”を用いた古生物学的研究が古環境変動研究では有用な手法である.甲殻類に属す貝形虫は,堆積物中に長期間保存される1 mm前後の2枚の石灰質殻をもち,他の微化石と比べ,各々の水環境に対して種ごとに細かく棲み分けており,進化速度が遅く現生と化石間で分類群の共通性が高いことから,新第三紀や第四紀のような新しい時代の地層における有力な示相化石として古環境を復元する上で重要な分類群である(e.g., Horne et al., 2002).しかし,貝形虫の現生種分類や分布に関する研究は西南極を中心に行われ,東南極における研究は少ない(Yasuhara et al., 2007).また,種構成と生息場所の底質,水深,水温などの環境条件との関連性は十分には明らかになっていない(e.g., Sasaki et al., in press). そこで本研究では,第61次日本南極地域観測隊地形調査において、東南極ラングホブデ地域の浅海域で採取された堆積物中の現生貝形虫種の分布と水塊や底質の環境因子との関係を解明することを目的とした.5つの表層試料と4つのドレッジ試料の合計9試料から,少なくとも20属32種の貝形虫が産出し、貝形虫の個体数は全体的に少なく,4試料に関しては試料1 gあたりの個体数が1個体未満の試料であった.また,30個体以上貝形虫が産出した5試料に関して,Q-modeクラスター分析を行った結果2つのクラスターに識別された. 生物相Ⅰは,水深60–100 mから採取された3試料で構成され,主に冷たい浅海域で生息する種が優占し,南極の下部浅海帯から上部漸深海帯の冷水塊に適応した群集によって特徴づけられた.生物相Ⅱは,水深30m以浅で採取された2試料で構成され,海藻や海草が繁茂する“藻場”の葉上種や浅海種が優占することを示した. 以上のことより,南極における浅海域の貝形虫群集は,水深や水質によって大きく異なり,過去の水塊の変化や海水準を復元する指標として優れていること示した.
引用文献
DeConto, R.M. and Pollard, D., 2016: Contribution of Antarctica to past and future sea-level rise. Nature, vol. 531, p. 591–597.
Horne et al., 2002: Taxonomy, morphology and biology of Quaternary and living Ostracoda. In, Holmes, J. A. and Chivas, A. R., eds., The Ostracoda -Application in Quaternary Research, p. 5–36. American Geophysical Union (Geophysical Monograph 131), Washington, D. C.
Paolo et al., 2015: Volume loss from Antarctic ice shelves is accelerating. Science, vol. 348, p. 327–331.
Sasaki et al., in press : Relationship between modern deep-sea ostracods and water mass structure in East Antarctica. Paleontological Research.
菅沼ほか, 2020: 東南極における海域-陸域シームレス堆積物掘削研究の展望. 地学雑誌, vol. 129, p. 591–610.
Yasuhara et al., 2007: Modern benthic ostracodes from Lützow-Holm Bay, East Antarctica: paleoceanographic, paleobiogeographic, and evolutionary significance. Micropaleontology, vol. 53, p. 469–496.
引用文献
DeConto, R.M. and Pollard, D., 2016: Contribution of Antarctica to past and future sea-level rise. Nature, vol. 531, p. 591–597.
Horne et al., 2002: Taxonomy, morphology and biology of Quaternary and living Ostracoda. In, Holmes, J. A. and Chivas, A. R., eds., The Ostracoda -Application in Quaternary Research, p. 5–36. American Geophysical Union (Geophysical Monograph 131), Washington, D. C.
Paolo et al., 2015: Volume loss from Antarctic ice shelves is accelerating. Science, vol. 348, p. 327–331.
Sasaki et al., in press : Relationship between modern deep-sea ostracods and water mass structure in East Antarctica. Paleontological Research.
菅沼ほか, 2020: 東南極における海域-陸域シームレス堆積物掘削研究の展望. 地学雑誌, vol. 129, p. 591–610.
Yasuhara et al., 2007: Modern benthic ostracodes from Lützow-Holm Bay, East Antarctica: paleoceanographic, paleobiogeographic, and evolutionary significance. Micropaleontology, vol. 53, p. 469–496.