[T5-P-2] Paleomagnetic research for Neogene sediments filled in the Tanakura Basin, Northeast Japan
Keywords:Cenozoic, Opening of the Sea of Japan, Tanakura Fault, Miocene, Daigo
棚倉断層帯の西側には,中新世の棚倉堆積盆が発達する.棚倉堆積盆は日本海拡大期のテクトニクスに関連し,棚倉断層の運動によって急速に発達した堆積盆として考えられており(天野ほか,2011; Hosoi et al., 2020),棚倉堆積盆の構造発達史は,日本海拡大のテクトニクスを検討する上で重要な情報はもたらす.堆積盆の昇降運動や古応力変遷,回転運動の有無などを検討するためには,棚倉堆積盆を埋積する新第三系の詳細な層序の構築が必要不可欠である.
棚倉堆積盆を埋積する新第三系は,陸成層と海成層からなる.陸成層はそもそも微化石層序学的な検討ができず,また海成層からは有孔虫や珪藻化石の年代指標データが得られているが(大槻,1975; Maruyama, 1984),産出状況は良いとは言えない.棚倉堆積盆において数万~数十万年スケールの時間解像度でテクトニクスの議論をするためには,放射年代測定や古地磁気データ等,他の様々な年代データと組み合わせ,高時間解像度の年代層序を構築する必要がある.
近年,棚倉堆積盆の新第三系からU–Pb・FT年代測定値が多く得られてきている.また,澤畑ほか(2016)は棚倉堆積盆の古地磁気学的研究を実施し,棚倉堆積盆を埋積する新第三系における古地磁気分析の有用性を示した.そこで本研究では澤畑ほか(2016)で不足する古地磁気データを収集し,棚倉堆積盆における高時間解像度の年代層序について検討した. 棚倉堆積盆を埋積する新第三系は主に下位から順に,北田気層,浅川層,男体山火山角礫岩,苗代田層,小生瀬層,内大野層である(天野ほか,2011).今回の古地磁気分析の結果,新たに北田気層と苗代田層,小生瀬層,内大野層から固有磁化成分が得られた.これらは褶曲テストまたは逆転テストに合格することから,地層形動前あるいは地層堆積時の磁化成分であると考えられる.本測定データと澤畑ほか(2016)の古地磁気測定データを層準毎にまとめると,以下の通りである.
○北田気層~男体山火山角礫岩:全サイトが逆帯磁を示す.
○苗代田層:逆帯磁層準に挟まれた正帯磁層準が2層準認められる.
○小生瀬層~内大野層:逆帯磁層準に挟まれた正帯磁層準が1層準認められる.
既存の放射年代測定値(Hosoi et al., 2020など)を考慮すると,北田気層~男体山火山角礫岩の逆帯磁はクロンC5Brに相当し,苗代田層~内大野層で認められる正帯磁層準は,それぞれクロンC5Cn.3n,C5Cn.2n,C5Cn.1nに相当すると考えられる.
従来,棚倉堆積盆の新第三系最上部層である内大野層からは年代指標となるデータが無かった.そのため,内大野層の年代は隣接する地層の化石データや関東周辺で認められる広域的な不整合(庭谷不整合)(大石・高橋, 1990; 高橋, 2006)を内大野層の堆積末期とみなし,その上限年代は15.3 Maと考えられた(Hosoi et al., 2020).その一方で最近,新たに内大野層上部に共在する火砕岩からは,16.4±0.3 MaのU–Pb年代値が得られた.この年代値は,小生瀬層~内大野層にクロンC5Cn.1n(~16.3–16.0 Ma; Kochhann et al., 2016)の正磁極期があるとする本結果と整合的である.
以上を踏まえると,棚倉堆積盆は17–16 Maという極めて短期間に発達した堆積盆であることが考えられた.本講演では棚倉堆積盆の年代層序を基にした構造発達史等についても少し触れる.
<文献>
天野ほか, 2011, 地質雑. 117補遺, 69–87.
Hosoi et al., 2020, J. Asian Earth Sci., 190, 104157.
Kochhann et al., 2016, Paleoceanography and Paleoclimatology, 31, 1176–1192.
Maruyama, 1984, Sci. Rep. Tohoku Univ., second Ser. Geol., 55, 77–140.
大石・高橋, 1990, 東北大地質古生物研邦報, no. 92, 1–17.
大槻, 1975, 東北大地質古生物研邦報, no. 76, 1–71.
澤畑ほか, 2016, JpGU2016大会講演要旨, SGL36-P01.
高橋, 2006, 地質雑, 110, 290–308.
棚倉堆積盆を埋積する新第三系は,陸成層と海成層からなる.陸成層はそもそも微化石層序学的な検討ができず,また海成層からは有孔虫や珪藻化石の年代指標データが得られているが(大槻,1975; Maruyama, 1984),産出状況は良いとは言えない.棚倉堆積盆において数万~数十万年スケールの時間解像度でテクトニクスの議論をするためには,放射年代測定や古地磁気データ等,他の様々な年代データと組み合わせ,高時間解像度の年代層序を構築する必要がある.
近年,棚倉堆積盆の新第三系からU–Pb・FT年代測定値が多く得られてきている.また,澤畑ほか(2016)は棚倉堆積盆の古地磁気学的研究を実施し,棚倉堆積盆を埋積する新第三系における古地磁気分析の有用性を示した.そこで本研究では澤畑ほか(2016)で不足する古地磁気データを収集し,棚倉堆積盆における高時間解像度の年代層序について検討した. 棚倉堆積盆を埋積する新第三系は主に下位から順に,北田気層,浅川層,男体山火山角礫岩,苗代田層,小生瀬層,内大野層である(天野ほか,2011).今回の古地磁気分析の結果,新たに北田気層と苗代田層,小生瀬層,内大野層から固有磁化成分が得られた.これらは褶曲テストまたは逆転テストに合格することから,地層形動前あるいは地層堆積時の磁化成分であると考えられる.本測定データと澤畑ほか(2016)の古地磁気測定データを層準毎にまとめると,以下の通りである.
○北田気層~男体山火山角礫岩:全サイトが逆帯磁を示す.
○苗代田層:逆帯磁層準に挟まれた正帯磁層準が2層準認められる.
○小生瀬層~内大野層:逆帯磁層準に挟まれた正帯磁層準が1層準認められる.
既存の放射年代測定値(Hosoi et al., 2020など)を考慮すると,北田気層~男体山火山角礫岩の逆帯磁はクロンC5Brに相当し,苗代田層~内大野層で認められる正帯磁層準は,それぞれクロンC5Cn.3n,C5Cn.2n,C5Cn.1nに相当すると考えられる.
従来,棚倉堆積盆の新第三系最上部層である内大野層からは年代指標となるデータが無かった.そのため,内大野層の年代は隣接する地層の化石データや関東周辺で認められる広域的な不整合(庭谷不整合)(大石・高橋, 1990; 高橋, 2006)を内大野層の堆積末期とみなし,その上限年代は15.3 Maと考えられた(Hosoi et al., 2020).その一方で最近,新たに内大野層上部に共在する火砕岩からは,16.4±0.3 MaのU–Pb年代値が得られた.この年代値は,小生瀬層~内大野層にクロンC5Cn.1n(~16.3–16.0 Ma; Kochhann et al., 2016)の正磁極期があるとする本結果と整合的である.
以上を踏まえると,棚倉堆積盆は17–16 Maという極めて短期間に発達した堆積盆であることが考えられた.本講演では棚倉堆積盆の年代層序を基にした構造発達史等についても少し触れる.
<文献>
天野ほか, 2011, 地質雑. 117補遺, 69–87.
Hosoi et al., 2020, J. Asian Earth Sci., 190, 104157.
Kochhann et al., 2016, Paleoceanography and Paleoclimatology, 31, 1176–1192.
Maruyama, 1984, Sci. Rep. Tohoku Univ., second Ser. Geol., 55, 77–140.
大石・高橋, 1990, 東北大地質古生物研邦報, no. 92, 1–17.
大槻, 1975, 東北大地質古生物研邦報, no. 76, 1–71.
澤畑ほか, 2016, JpGU2016大会講演要旨, SGL36-P01.
高橋, 2006, 地質雑, 110, 290–308.