[T5-P-6] (エントリー)銚子コアの酸素同位体層序に基づく下部更新統年代モデル
キーワード:更新世、年代モデル、酸素同位体比、底生有孔虫
千葉県銚子地域の沖合海域は,黒潮フロントと呼ばれる暖流の黒潮と寒流の親潮とが会合する海域に相当することから,かつてのフロントの南北振動が氷期・間氷期サイクルとどのような関係にあったのかを明らかにする上で非常に重要な地域である. とくに,銚子地域に分布する犬吠層群の堆積時期は,Early-Middle Pleistocene Transitions(EMPT)と呼ばれる氷期・間氷期サイクルが約4万年周期から約10万年周期へと変化した時期に相当することから,地球規模での気候変動システムの移り変わりの時期における北西太平洋海域の海洋表層環境の変化を知る上でも重要である.そのような研究を行うためには,氷期・間氷期サイクルよりも詳しい時間分解能での年代モデルを構築する必要がある.そこで本研究では,犬吠層群小浜層・横根層に相当するコア試料から産出した底生有孔虫化石の酸素同位体比を用いて正確な年代モデルを構築することを試みた.本論で取り扱った地層は,銚子地域分布する犬吠層群(Matoba, 1967)のうち,下位の地層群である小浜層および横根層である.検討した試料は,1998年に千葉県銚子市森戸町で東京大学海洋研究所によって掘削された全長250 mのボーリングコア銚子コアの深度250 m–150 mを検討対象とし,泥岩試料から取り出した底生有孔虫化石の酸素同位体比の測定を行った.なお,酸素同位体比の測定は,国立科学博物館筑波分館所有の炭酸塩分解装置(KIEL IV Carbonate Device)と質量分析計(MAT 253)を使用した.
銚子コアのうち深度250 m–180 mから産出した底生有孔虫化石における酸素同位体比の測定値によって作成した酸素同位体比曲線は2.90–4.32‰の間で推移し,4つの氷期・間氷期サイクルの変動が認定された. 得られた酸素同位体曲線について標準曲線 (LR04;Liscieki and Raymo, 2005)との対比を行ったところ検討層準はMIS18から26であることが明らかになった.これは,従来,浮遊性有孔虫化石の酸素同位体比による年代モデル(Kameo et al., 2006)と異なる. その要因として浮遊性有孔虫化石による酸素同位体比曲線は氷床量の変動に加えて,表層海洋の水温の変動を反映しているため振幅が大きくなり対比が困難であったことが考えられる. また,各層準に年代値を決定するべく,設定した対比面とテフラの厚さを除いた層厚を基に堆積速度を算出したところ堆積速度は際立って特徴的な変化は見られず氷期・間氷期サイクルによって堆積速度が変化しないような沖合の環境であったことが示唆された.
引用文献
Kameo, K., Okada, M., El-Masry, M., Hisamitsu, T., Saito, S., Nakazato, H., Ohkouchi, N., Ikehara, M., Yasuda, H., Kitazato, H., Taira, A., 2006, Age model, physical properties and paleoceanographic implications of the middle Pleistocene core sediments in the Choshi area, central Japan. Island Arc, 15, 366-377. Lisiecki, L. E., Raymo, M.E., 2005, A Pliocene-Pleistocene stack of 57 globally distributed benthic δ18O records. Paleoceanography 20, 1003. Matoba, Y., 1967, Younger Cenozoic foraminiferal assemblages from the Choshi district, Chiba Prefecture. Science Reports, Tohoku University, 2nd Series (Geology) 38, 221–63.
銚子コアのうち深度250 m–180 mから産出した底生有孔虫化石における酸素同位体比の測定値によって作成した酸素同位体比曲線は2.90–4.32‰の間で推移し,4つの氷期・間氷期サイクルの変動が認定された. 得られた酸素同位体曲線について標準曲線 (LR04;Liscieki and Raymo, 2005)との対比を行ったところ検討層準はMIS18から26であることが明らかになった.これは,従来,浮遊性有孔虫化石の酸素同位体比による年代モデル(Kameo et al., 2006)と異なる. その要因として浮遊性有孔虫化石による酸素同位体比曲線は氷床量の変動に加えて,表層海洋の水温の変動を反映しているため振幅が大きくなり対比が困難であったことが考えられる. また,各層準に年代値を決定するべく,設定した対比面とテフラの厚さを除いた層厚を基に堆積速度を算出したところ堆積速度は際立って特徴的な変化は見られず氷期・間氷期サイクルによって堆積速度が変化しないような沖合の環境であったことが示唆された.
引用文献
Kameo, K., Okada, M., El-Masry, M., Hisamitsu, T., Saito, S., Nakazato, H., Ohkouchi, N., Ikehara, M., Yasuda, H., Kitazato, H., Taira, A., 2006, Age model, physical properties and paleoceanographic implications of the middle Pleistocene core sediments in the Choshi area, central Japan. Island Arc, 15, 366-377. Lisiecki, L. E., Raymo, M.E., 2005, A Pliocene-Pleistocene stack of 57 globally distributed benthic δ18O records. Paleoceanography 20, 1003. Matoba, Y., 1967, Younger Cenozoic foraminiferal assemblages from the Choshi district, Chiba Prefecture. Science Reports, Tohoku University, 2nd Series (Geology) 38, 221–63.