[T11-P-6] (エントリー)水面および気泡を覆う炭酸カルシウム沈殿物の形成過程
トラバーチンは温泉成の炭酸塩沈殿物であり,温泉水からのCO2脱ガスに起因したCaCO3沈殿によって形成される.CaCO3の沈殿はしばしば水底などの固液界面で起きる一方で,水面や気泡などの気液界面がCaCO3で覆われることもあり,水面を覆う沈殿物はペーパーシンラフト,気泡を覆う沈殿物はコーティッドバブルと呼ばれる.これらは気液界面でのCO2脱ガスと,それに伴うCaCO3のその場沈殿によって形成されると考えられているが,その是非は不明であった.そこで本研究は大分県長湯温泉に見られるペーパーシンラフトとコーティッドバブルを対象とし,気液界面の微小領域観察によってそれらの成因を明らかにすることを目的とした. まず両試料を樹脂に包埋して薄片を作成し,偏光顕微鏡および共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて観察を行った.次に薄片の気液界面部分から集束イオンビーム加工によって薄膜試料を作成し,透過型電子顕微鏡と走査型透過X線顕微鏡を用いて観察を行った. 観察の結果,ペーパーシンラフトでは気液界面にあられ石の微粒結晶が密集していた.一方のコーティッドバブルでは,気液界面にあられ石の針状結晶が折り重なるように配列しており,空隙も多く見られた.これらの観察結果から,ペーパーシンラフトは微粒状あられ石のその場沈殿によって形成されている一方で,コーティッドバブルは他所で形成された針状あられ石が気泡表面に付着することで形成されていることが示唆された.気泡表面であられ石のその場沈殿が起きていない原因としては,体積の小さな気泡のCO2分圧が温泉水と速やかに平衡となり,CO2脱ガスが継続しないことが考えられる.