[G1-P-2] 地震時の摩擦発熱に伴う化学反応による剪断集中帯の移動に関する力学モデルの解の不安定化について
キーワード:剪断集中帯、力学モデル、摩擦発熱、化学反応、不安定化
地震時の断層帯では、摩擦発熱によって鉱物の化学反応が進行する場合がある。Platt et al. (2015)は、高速滑り時の断層帯の一次元力学モデルを考えて、thermal pressurizationおよび鉱物の熱分解反応によって、断層中心にピークを持つ剪断集中帯の厚みが数十マイクロメートルとなることを報告した。Platt et al. (2014)およびRice et al. (2015)は、同じ力学モデルを用いた数値計算をより長い時間スケールで行い、剪断集中帯のピーク位置が断層中心から移動することを報告した。この挙動は流体の拡散と未反応の鉱物の枯渇によって引き起こされたとされているが、その詳細な原理については不明な点が多い。
Platt et al. (2015)のモデルで考慮されている主な機構は、慣性と体積力を無視した連続体の運動方程式(力学平衡)、速度依存摩擦構成則、流体の質量保存則、エネルギー保存則、反応速度論に従う鉱物の熱分解である。ここではPlatt et al. (2015)に倣い、代表的な反応として方解石の熱分解反応に着目した。本研究では、時間について一次の前進差分、空間について二次の中心差分をとった数値積分を、上述の機構を表現した偏微分方程式について実行することで、Platt et al. (2015)の計算結果を再現するコードを自作した。再開発したコードを用いた数値実験の結果、Platt et al. (2014)およびRice et al. (2015)によって報告された剪断集中帯の移動が再確認された。また、剪断集中帯が移動する方向は常に一定ではなく、採用するグリッドサイズやステップ数によって左右どちらにもなりうることがわかった。この事は、左右対称な解がある時点で不安定化し、数値計算の丸め誤差の増大が数値解を選択している事を示唆する。すなわち、剪断集中帯の移動が観測されたこれらの数値解は、今回のモデルの解析解に対する適切な近似解として扱うことができないと言える。「初期反応率が一様」といった単純な条件の問題設定では、滑り速度履歴や応力履歴を与えても、地震性滑り後の反応帯の幅は一意には定まらない可能性がある。
この問題を解決する手段の一つは、予め対称性を崩してやることである。そこで、初期反応率を空間不均質とした場合の解について調べた。初期反応率が空間座標の線形関数であるとした場合、時間ステップの増加に伴って剪断集中帯のピークが初期反応率が低い側へと移動する挙動が確認された。これは、断層中心の両隣のグリッドで初期反応率が異なる場合、より反応率が低いグリッドにおいて反応が進行しやすいため、断層強度がより弱化することで剪断集中のピークがそちらに移動するためであると解釈できる。移動が発生した解の収束性テストを実施した結果、空間グリッドのサイズについて二次のオーダーで数値誤差が小さくなることが確認された。これは、二次の中心差分を取ったことによって生じる数値誤差の理論値と調和的である。これらの結果から、初期設定で対称性を崩してやることにより、解の一意性が担保された問題設定となり、数値解は解析解の近似として扱う事ができる様になると言える。
本講演では上述の内容に加えて、初期反応率の空間不均質性を導入したモデルを用いて予察的に実施した数値実験の結果についても発表する予定である。
参考文献
Platt et al. (2014) AGU Fall Meeting 2014 Abstract
Platt et al. (2015) Journal of Geophysical Research
Rice et al. (2015) EGU General Assembly 2015 Abstract
Platt et al. (2015)のモデルで考慮されている主な機構は、慣性と体積力を無視した連続体の運動方程式(力学平衡)、速度依存摩擦構成則、流体の質量保存則、エネルギー保存則、反応速度論に従う鉱物の熱分解である。ここではPlatt et al. (2015)に倣い、代表的な反応として方解石の熱分解反応に着目した。本研究では、時間について一次の前進差分、空間について二次の中心差分をとった数値積分を、上述の機構を表現した偏微分方程式について実行することで、Platt et al. (2015)の計算結果を再現するコードを自作した。再開発したコードを用いた数値実験の結果、Platt et al. (2014)およびRice et al. (2015)によって報告された剪断集中帯の移動が再確認された。また、剪断集中帯が移動する方向は常に一定ではなく、採用するグリッドサイズやステップ数によって左右どちらにもなりうることがわかった。この事は、左右対称な解がある時点で不安定化し、数値計算の丸め誤差の増大が数値解を選択している事を示唆する。すなわち、剪断集中帯の移動が観測されたこれらの数値解は、今回のモデルの解析解に対する適切な近似解として扱うことができないと言える。「初期反応率が一様」といった単純な条件の問題設定では、滑り速度履歴や応力履歴を与えても、地震性滑り後の反応帯の幅は一意には定まらない可能性がある。
この問題を解決する手段の一つは、予め対称性を崩してやることである。そこで、初期反応率を空間不均質とした場合の解について調べた。初期反応率が空間座標の線形関数であるとした場合、時間ステップの増加に伴って剪断集中帯のピークが初期反応率が低い側へと移動する挙動が確認された。これは、断層中心の両隣のグリッドで初期反応率が異なる場合、より反応率が低いグリッドにおいて反応が進行しやすいため、断層強度がより弱化することで剪断集中のピークがそちらに移動するためであると解釈できる。移動が発生した解の収束性テストを実施した結果、空間グリッドのサイズについて二次のオーダーで数値誤差が小さくなることが確認された。これは、二次の中心差分を取ったことによって生じる数値誤差の理論値と調和的である。これらの結果から、初期設定で対称性を崩してやることにより、解の一意性が担保された問題設定となり、数値解は解析解の近似として扱う事ができる様になると言える。
本講演では上述の内容に加えて、初期反応率の空間不均質性を導入したモデルを用いて予察的に実施した数値実験の結果についても発表する予定である。
参考文献
Platt et al. (2014) AGU Fall Meeting 2014 Abstract
Platt et al. (2015) Journal of Geophysical Research
Rice et al. (2015) EGU General Assembly 2015 Abstract