日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッションポスター発表

G1-1.ジェネラル サブセッション構造地質

[7poster19-28] G1-1.ジェネラル サブセッション構造地質

2022年9月10日(土) 10:30 〜 12:30 ポスター会場 (ポスター会場)

[G1-P-10] 南海トラフ沈み込みプレート境界のラフネス解析と応力分布との対比

*福別府 渉1 (1. 高知大学)


キーワード:デコルマ地形、地形の粗さ、スリップテンデンシー、ダイレーションテンデンシー、フーリエ変換

近年、沈み込みプレート境界面でプレート収束運動より速く、通常地震より著しく遅いすべりである「スロー地震」という現象が発見され、世界中で通常地震との関係性について追求されている(Obara and Kato., 2016)。このことから、沈み込みプレート境界面では、通常地震と「スロー地震」のように、すべり速度に多様性があることが明らかとなった。先行研究では、この多様性を生むモデルとして、物性や応力分布の空間スケールが階層的であることを原因とする提案が出されたが(Ide et al., 2014)、これはあくまで概念的であり、その不均質性そのものの要因については様々な議論がある。
 そこで、本研究では、東西約11㎞、南北約26㎞を範囲とした南海トラフ紀伊半島沖三次元地震波反射断面による実際の沈み込みプレート境界を対象とし、天然における地形という要素の不均質分布をラフネス解析で階層的に明らかにした上で、概念的モデルを検証しようとする。具体的には、天然のデコルマ地形のラフネス解析により得られた地形の振幅分布を図示し、セグメント長さの違いによる異なるスケールにおける高振幅領域の階層的な分布を検討した。最終的にこのラフネスの階層性が物性や応力の分布と対比し、地形の物性や応力への影響を明らかにする。
 本研究では、セグメント長さを変えながら地形波形のフーリエ変換で得た波長とPSD間の関係から、波長と振幅には冪乗の関係が成立していることが明らかとなった。小さいセグメント長さでは、振幅の変化を空間的に細かくとらえており、面積の小さいパッチ状のものが所々で確認できた。また、大きいセグメント長さでは、高い振幅の領域が比較的広範囲に分布する。  様々な検証によってこのセグメント長さに応じたパッチのサイズ変化は天然の特性であると考えられる。これは、セグメント長さが大きいことによって、振幅の数値を平均する範囲が広くなるため、波の中でも比較的大きな範囲で見た波長をとらえることができたと推定した。逆に、セグメント長さが小さくなるにしたがって、振幅の変化を細かくとらえていることが確認できたことも、振幅の数値を平均する範囲が狭いため、微小な波長や、細かい振幅の変化もとらえることができたと考えられる。以上のことから、セグメント長さの変化に応じて、地形の効果として高い振幅領域の階層的な分布が見られたと言える。  Hashimoto et al. (2022)では、本研究と同地域において、断層のすべりやすさを示すスリップテンデンシー(Ts)と、断層の開きやすさを示すダイレーションテンデンシー(Td)の分布をそれぞれ0.0~1.0の範囲に標準化したうえで、マップ化を行った。これらの分布と、本研究で作成した相対地形のマップやラフネスマップを対比した。
 Ts分布と相対地形のマップとの比較では、Ts分布の高い領域または低い領域は、相対地形の変曲点と位置がほぼ一致していた。これは、Tdの分布との比較でも同様なことが言える。  また、相対地形のマップとTs、Td分布のそれぞれの差をとることで、相対地形とこれら2つの要素の大小関係をマップ化することができた。反対に、和をとることで、例えば、相対地形の高い領域とTs、Td分布のそれぞれの高い領域が、より強調されて空間的に表現することができた。
 Ts分布とラフネスマップとの比較では、分布が似たような傾向であった。これは、Tdの分布との比較でも同様なことが言える。
 以上のことから、地形のラフネスとTs、Tdには密接な関係があると言える。ここで我々のいうラフネス(あるセグメント長さの地形の振幅)が幾何学で支配される応力の分布と同じ意味を持つことを示している。
 応力以外にも、流体圧や間隙率、弾性波物性などの要素が、地震の発生に強く関係している。よって今後は、これらの要素でも、本研究で作成した相対地形のマップやラフネスマップとの対比を行い、具体的には、地形が弾性波物性に対してどのような影響を与えているか、あるいは地形が間隙流体圧に対してどのような影響を与えているかなどを模索し、それぞれの相互関係について検討していきたい。

引用文献
Obara, K., Kato, A., 2016.Science 353, 253-257.
Ide, S., 2014. Proceedings of the Japan Academy, Series B 90, 259-277.
Hashimoto, Yoshitaka, et al. Scientific reports 12.1 (2022): 1-9.