[G9-P-6] 千葉県市原市南部における上総層群柿木台層および長南層の貝形虫化石群集に基づいた古環境復元
キーワード:上総層群、貝形虫、千葉県、第四紀
〔はじめに〕千葉県の房総半島には新第三紀鮮新世から第四紀更新世にかけて堆積した海成堆積物である上総層群が広く分布する.房総半島中部に位置する養老川流域において上総層群は黒滝層から金剛地層の9層に区分される.この中で,前期・中期更新世境界の模式地がある国本層を中心に同位体比ステージの認定や詳しい古環境変化が解析されつつある.特に,貝形虫化石群集は,国本層に加え,長南層の下位の地層である柿ノ木台層から産出が報告されている(入月ほか,2017).しかし,長南層は貝形虫化石を用いた研究は成されていない事に加え,岩相の側方変化も激しく,その古環境変遷は不明な点が多い.本研究では長南層から産出する貝形虫化石と堆積相に基づいて古環境を復元することを目的とする.また,本研究により,国本層(MIS 20ごろ)~長南層(MIS 16)の古環境変遷を連続的に解明でき,各MISの特徴を明確にすることが期待される.
〔地質概説〕本研究地域は千葉県市原市南部に位置する.そこには下位より上総層群の柿ノ木台層,長南層,笠森層がそれぞれ調査範囲の南部,中部,北部に帯状に分布している.柿木台層は主に貝化石が散在する弱い層理が発達する砂質泥岩または泥質砂から構成される.長南層は塊状泥岩主体の下部,泥優勢砂岩泥岩互層の中部,砂優勢砂岩泥岩互層の上部に区分される.本層中の砂岩泥岩互層の砂岩の多くは正級化のみを示していたが,部分的に炭質物に富む葉理や逆級化と正級化を示すハイパーピクナル流によると考えられる堆積物が見られる.笠森層は長南層との境界直上は貝化石が散在する砂質シルト岩から構成されるが,大部分は生物擾乱が発達する単層厚5~20 cm程度の砂岩泥岩互層からなる.また,調査地域では柿ノ木台層中にKa1,長南層中にCh3およびCh2(河井,1952)のテフラが連続的に追跡可能である.
〔貝形虫化石群集〕調査地域を流れる7本の河川から合計85試料を採取し,53試料から39属82種が産出した.全体を通し, Acanthocythereis dunelmensis などの上部漸深海帯種が多産した一方で,調査地域西部の柿ノ木台層の試料を中心にAmphileberis nipponica,Schizocythere kishinouyei などの浅海種を30~70%程度含んでいた.
各試料の上部漸深海帯種の寒流系種(A. dunelmensisなど)および暖流系種(Falsobuntonia taiwanica など)の割合を検討すると,調査地域西部の柿ノ木台層や東部地域の長南層の一部層準を除き,寒流系種が卓越する結果となった.
〔考察〕産出した貝形虫化石に基づくと,柿ノ木台層および長南層の堆積環境は上部漸深海帯であり,一部調査地域の西側は浅海域と判断される地域も見られた.すなわち,調査地域の西部に陸地が存在したと考えられる.また,上部漸深海帯のタクサに占める寒流・暖流系種の割合については,柿ノ木台層では暖流系種が優勢な試料が多かったのに対し,上位の長南層は暖流系種と寒流系種の両方が産出し寒流系種が優勢だったことから,上部漸深海帯に広がる水塊が変化したと推察される.
〔引用文献〕入月俊明・柴谷 築・林 広樹(2017)日本古生物学会2017年年会,北九州,2017年6月. 河井興三(1952)石油技術協会誌,17,1–21.
〔地質概説〕本研究地域は千葉県市原市南部に位置する.そこには下位より上総層群の柿ノ木台層,長南層,笠森層がそれぞれ調査範囲の南部,中部,北部に帯状に分布している.柿木台層は主に貝化石が散在する弱い層理が発達する砂質泥岩または泥質砂から構成される.長南層は塊状泥岩主体の下部,泥優勢砂岩泥岩互層の中部,砂優勢砂岩泥岩互層の上部に区分される.本層中の砂岩泥岩互層の砂岩の多くは正級化のみを示していたが,部分的に炭質物に富む葉理や逆級化と正級化を示すハイパーピクナル流によると考えられる堆積物が見られる.笠森層は長南層との境界直上は貝化石が散在する砂質シルト岩から構成されるが,大部分は生物擾乱が発達する単層厚5~20 cm程度の砂岩泥岩互層からなる.また,調査地域では柿ノ木台層中にKa1,長南層中にCh3およびCh2(河井,1952)のテフラが連続的に追跡可能である.
〔貝形虫化石群集〕調査地域を流れる7本の河川から合計85試料を採取し,53試料から39属82種が産出した.全体を通し, Acanthocythereis dunelmensis などの上部漸深海帯種が多産した一方で,調査地域西部の柿ノ木台層の試料を中心にAmphileberis nipponica,Schizocythere kishinouyei などの浅海種を30~70%程度含んでいた.
各試料の上部漸深海帯種の寒流系種(A. dunelmensisなど)および暖流系種(Falsobuntonia taiwanica など)の割合を検討すると,調査地域西部の柿ノ木台層や東部地域の長南層の一部層準を除き,寒流系種が卓越する結果となった.
〔考察〕産出した貝形虫化石に基づくと,柿ノ木台層および長南層の堆積環境は上部漸深海帯であり,一部調査地域の西側は浅海域と判断される地域も見られた.すなわち,調査地域の西部に陸地が存在したと考えられる.また,上部漸深海帯のタクサに占める寒流・暖流系種の割合については,柿ノ木台層では暖流系種が優勢な試料が多かったのに対し,上位の長南層は暖流系種と寒流系種の両方が産出し寒流系種が優勢だったことから,上部漸深海帯に広がる水塊が変化したと推察される.
〔引用文献〕入月俊明・柴谷 築・林 広樹(2017)日本古生物学会2017年年会,北九州,2017年6月. 河井興三(1952)石油技術協会誌,17,1–21.