日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッションポスター発表

T1.[トピック]変成岩とテクトニクス

[8poster01-13] T1.[トピック]変成岩とテクトニクス

2022年9月11日(日) 11:00 〜 13:00 ポスター会場 (ポスター会場)

[T1-P-8] (エントリー)野母半島長崎変成岩類における蛇紋岩メランジュの構造岩石学的研究

★「日本地質学会優秀ポスター賞」9/11受賞 ★

*木村 太星1、平内 健一1 (1. 静岡大学)


キーワード:野母半島長崎変成岩類、蛇紋岩メランジュ、交代作用、block-in-matrix構造、曹長岩、アクチノ閃石、レオロジーの不均質化、変形の局在化

深部低周波微動と短期的スロースリップの同時発生現象であるepisodic tremor and slip (ETS)の一部は、巨大地震震源域の下限以深に沿って帯状に分布していることが明らかとなっている(Rogers and Dragert, 2003; Obara et al., 2004)。近年のETSの発生に関する構造地質学的研究では、レオロジーの不均質性に注目している。例えば、Tarling et al. (2019)では、スラブ・マントル境界域で形成された蛇紋岩メランジュ内での交代作用に着目し、粘性変形が卓越する蛇紋岩マトリックス内部にて、蛇紋岩やロジン岩などからなるブロックとの間で起きた交代作用によって水が放出され、間隙水圧の上昇が起こることで脆性破壊が誘発される可能性を指摘している。そこで、本研究では、蛇紋岩メランジュにおける交代作用がスラブ・マントル境界の力学・変形特性に与える影響について明らかにするために、野母半島の長崎変成岩類を研究対象として構造岩石学的解析を行った。
 野母半島長崎変成岩類には塩基性片岩と泥質片岩からなる結晶片岩類と蛇紋岩類、古期変成はんれい岩複合岩類が分布している。結晶片岩類は泥質片岩の鉱物組合せをもとに緑泥石帯、ザクロ石帯、黒雲母帯に分帯されており、そのうち黒雲母帯は緑簾石角閃岩相に相当することが知られている(宮崎・西山,1989)。本研究では、宮崎町川原木場において蛇紋岩体と黒雲母帯に属する結晶片岩類の境界部に露出した蛇紋岩メランジュ(西山ほか,1997)に着目した。蛇紋岩メランジュは主に変成塩基性岩と曹長岩から構成される。変成塩基性岩では大きさ数cm~数10 cmの曹長石からなるレンズ状のブロックとそれを囲むアクチノ閃石、緑泥石からなるマトリックスから構成されるblock-in-matrix構造が認められる。マトリックスでは、アクチノ閃石と緑泥石の形態定向配列により、片理が形成されている。また、マトリックス内にはクリノゾイサイトが濃集した部分や緑泥石からなる局所的な剪断帯がみられる。さらに、変成塩基性岩を切るように発達した幅数cm程の緑泥石-アクチノ閃石片岩が確認される。緑泥石-アクチノ閃石片岩は、周囲の変成塩基性岩に比べて片理が強く発達しており、剪断帯を形成している。
 上記の結果は、スラブ・マントル境界域において曹長岩が高間隙水圧下にて破砕され、ブロック化したことを示唆する。そして、マトリックスがアクチノ閃石や緑泥石、クリノゾイサイトから構成されていたことから、破砕によって形成された間隙にCaやAlに富んだ流体が浸透し、交代作用によって析出したと考えられる。このプロセスは間隙率を低下させることから、再び高間隙水圧条件を促し、曹長岩の破壊を引き起こすことが示唆される。また、マトリックスでのみ片理が認められたことは、ブロックとマトリックスの間で強度差が生じ、レオロジーの不均質化が生じたことを示唆する。さらに、緑泥石―アクチノ閃石片岩にて剪断帯が形成されていたことから、開口破壊域にアクチノ閃石や緑泥石がより多く析出した領域では変形の局在化が起こると考えられる。以上のように、間隙水圧の上昇による破砕作用とそれに伴う交代作用がスラブ・マントル境界域の力学・変形特性に重要な影響を与える可能性がある。

引用文献:宮崎・西山(1989),地質学論集,33,217-236.西山ほか(1997),日本地質学会104年学術大会見学旅行案内書,131-162.Obara et al. (2004), Geophysical Research Letters, 31, L23602. Rogers and Dragert (2003), Science, 300, 1942-1943. Tarling et al. (2019), Nature Geoscience, 12, 1034-1042.