[T1-P-9] (エントリー)TG-DTAを用いた蛇紋岩中の含水鉱物量の定量化の試み
キーワード:蛇紋岩、熱重量・示差熱重量分析、オフィオライト、空知-エゾ帯、マントルウェッジ
1.はじめに
沈み込み帯における蛇紋岩化作用は、マントルウェッジを構成するかんらん岩に沈み込むプレートから供給された流体が付加し、かんらん石・輝石が蛇紋石化する変成反応である。形成される蛇紋岩類は、温度圧力条件や関与した流体の組成と、蛇紋岩化の度合いに応じて様々な蛇紋岩化の組織と反応鉱物が形成され、多様な強度、密度や磁性を示す。従って、マントルウェッジにおける蛇紋岩化プロセス、岩石物性、化学組成の多様性を系統的に理解するためには、定性的な岩相・組織の記載に留まらず、蛇紋岩中の構成鉱物量比の定量化が必要であると考えられる。しかしながら、肉眼・偏光顕微鏡観察により蛇紋石種を精細に判別することは難しく、蛇紋岩類の組織や構成鉱物の多様性を定量的かつ簡便に評価する手法は確立されていない。
2.手法
熱重量・示差熱重量(TG-DTA)分析は、試料の加熱に伴う重量変化と基準物質との温度差(示差熱)を測定する手法であり、含水鉱物種の判別や含有量の推定に用いられる。また、TG測定結果を温度微分したDTG曲線より、リザーダイト、クリソタイル、アンチゴライトのピークを分離することで、蛇紋石鉱物の識別と含有量を推定する手法が提案されている(Viti et al. 2011)。先行研究では、ピーク形状が左右対称のVoigt関数を用いており、TG-DTAでは反応速度の温度依存性から一般にピーク形状が左右非対称となるため、解析結果に誤差を生じる可能性が示唆される。そこで本研究では、DTG曲線のピークフィット解析に、非対称形の関数である指数関数的に改変したガウス関数(EMG関数)を適用することで、蛇紋岩中の含水鉱物種の識別と含有量の定量化、そして総蛇紋石量に占めるアンチゴライト量比の推定を行った。また、XRD分析による鉱物含有量の分析、岩石薄片を用いた高温・低温蛇紋岩化組織の面積測定結果との対比を行った。
3.試料と地質背景
測定試料は、北海道の神居古潭帯に分布する鷹泊蛇紋岩岩体の縁辺部を掘削したトンネル建設において採取された水平ボーリング試料であり、蛇紋岩化度が95-100%の非変質な塊状蛇紋岩類を採取し分析した。蛇紋岩類は、リザーダイト+クリソタイル+ブルーサイト+磁鉄鉱のメッシュ状組織からなる低温型蛇紋岩と、一部に、アンチゴライト+クリソタイル+磁鉄鉱+ブルーサイトによる綾織状組織を示す高温型(アンチゴライト)蛇紋岩、および両組織が混在する岩相が確認された。また、かんらん石が残存する高温型蛇紋岩試料では、一部に変成かんらん石を伴うものがある。高温型蛇紋岩化作用に伴い、クロムスピネルの縁辺部が磁鉄鉱により交代される。また、蛇紋岩類の源岩はハルツバージャイトが主体であり、一部にダナイトを伴う。
鷹泊蛇紋岩岩体は、空知—エゾ帯の幌加内(空知)オフィオライト下のマントルセクションに相当すると考えられており、白亜紀前弧海盆堆積物の蝦夷層群とその下位の空知層群の玄武岩類に覆われ、構造的下位で沈み込みスラブを起源とする角閃岩および青色片岩を含む神居古潭変成岩類(幌加内ユニット)と接する(竹下ほか, 2018)。試料採取地点を含む岩体縁辺部においてアンチゴライト蛇紋岩および混在型蛇紋岩が出現することから(Igarashi et al., 1985)、鷹泊岩体の縁辺部はウェッジマントルにおける蛇紋岩化の反応前線を記録している可能性がある。
4.測定結果
TG-DTAによる含水鉱物の定量結果として、蛇紋岩10 mgを用いたTGの繰り返し分析から、含有量5 wt%以上では誤差2-5%、含有量2-5 wt%では10-20%の精度で蛇紋岩中の含水鉱物(ブルーサイトおよび総蛇紋石量)を定量可能であった。また、アンチゴライト+ブルーサイト+磁鉄鉱からなる高温組織の面積率が61%となる蛇紋岩試料を対象に、EMG関数を用いたDTG曲線のピークフィット解析を行ったところ、アンチゴライト含有量は68%と推定され、XRDによる解析結果とも整合的であった。このように、TG分析により測定される総蛇紋石量に占めるアンチゴライト量比をDTG曲線のピークフィット解析により比較的精度良く推定することが可能であることがわかった。
【引用文献】
竹下ほか (2018), 地質学雑誌, 第124巻, 第7号, 491–515.
Igarashi et al. (1985), Jour. of the Faculty of Sci. Hokkaido Univ., Series 4, 21(3), 305-319.
Viti, C. et al. (2011), American Mineralogist, Vol. 96, 1003-1011.
沈み込み帯における蛇紋岩化作用は、マントルウェッジを構成するかんらん岩に沈み込むプレートから供給された流体が付加し、かんらん石・輝石が蛇紋石化する変成反応である。形成される蛇紋岩類は、温度圧力条件や関与した流体の組成と、蛇紋岩化の度合いに応じて様々な蛇紋岩化の組織と反応鉱物が形成され、多様な強度、密度や磁性を示す。従って、マントルウェッジにおける蛇紋岩化プロセス、岩石物性、化学組成の多様性を系統的に理解するためには、定性的な岩相・組織の記載に留まらず、蛇紋岩中の構成鉱物量比の定量化が必要であると考えられる。しかしながら、肉眼・偏光顕微鏡観察により蛇紋石種を精細に判別することは難しく、蛇紋岩類の組織や構成鉱物の多様性を定量的かつ簡便に評価する手法は確立されていない。
2.手法
熱重量・示差熱重量(TG-DTA)分析は、試料の加熱に伴う重量変化と基準物質との温度差(示差熱)を測定する手法であり、含水鉱物種の判別や含有量の推定に用いられる。また、TG測定結果を温度微分したDTG曲線より、リザーダイト、クリソタイル、アンチゴライトのピークを分離することで、蛇紋石鉱物の識別と含有量を推定する手法が提案されている(Viti et al. 2011)。先行研究では、ピーク形状が左右対称のVoigt関数を用いており、TG-DTAでは反応速度の温度依存性から一般にピーク形状が左右非対称となるため、解析結果に誤差を生じる可能性が示唆される。そこで本研究では、DTG曲線のピークフィット解析に、非対称形の関数である指数関数的に改変したガウス関数(EMG関数)を適用することで、蛇紋岩中の含水鉱物種の識別と含有量の定量化、そして総蛇紋石量に占めるアンチゴライト量比の推定を行った。また、XRD分析による鉱物含有量の分析、岩石薄片を用いた高温・低温蛇紋岩化組織の面積測定結果との対比を行った。
3.試料と地質背景
測定試料は、北海道の神居古潭帯に分布する鷹泊蛇紋岩岩体の縁辺部を掘削したトンネル建設において採取された水平ボーリング試料であり、蛇紋岩化度が95-100%の非変質な塊状蛇紋岩類を採取し分析した。蛇紋岩類は、リザーダイト+クリソタイル+ブルーサイト+磁鉄鉱のメッシュ状組織からなる低温型蛇紋岩と、一部に、アンチゴライト+クリソタイル+磁鉄鉱+ブルーサイトによる綾織状組織を示す高温型(アンチゴライト)蛇紋岩、および両組織が混在する岩相が確認された。また、かんらん石が残存する高温型蛇紋岩試料では、一部に変成かんらん石を伴うものがある。高温型蛇紋岩化作用に伴い、クロムスピネルの縁辺部が磁鉄鉱により交代される。また、蛇紋岩類の源岩はハルツバージャイトが主体であり、一部にダナイトを伴う。
鷹泊蛇紋岩岩体は、空知—エゾ帯の幌加内(空知)オフィオライト下のマントルセクションに相当すると考えられており、白亜紀前弧海盆堆積物の蝦夷層群とその下位の空知層群の玄武岩類に覆われ、構造的下位で沈み込みスラブを起源とする角閃岩および青色片岩を含む神居古潭変成岩類(幌加内ユニット)と接する(竹下ほか, 2018)。試料採取地点を含む岩体縁辺部においてアンチゴライト蛇紋岩および混在型蛇紋岩が出現することから(Igarashi et al., 1985)、鷹泊岩体の縁辺部はウェッジマントルにおける蛇紋岩化の反応前線を記録している可能性がある。
4.測定結果
TG-DTAによる含水鉱物の定量結果として、蛇紋岩10 mgを用いたTGの繰り返し分析から、含有量5 wt%以上では誤差2-5%、含有量2-5 wt%では10-20%の精度で蛇紋岩中の含水鉱物(ブルーサイトおよび総蛇紋石量)を定量可能であった。また、アンチゴライト+ブルーサイト+磁鉄鉱からなる高温組織の面積率が61%となる蛇紋岩試料を対象に、EMG関数を用いたDTG曲線のピークフィット解析を行ったところ、アンチゴライト含有量は68%と推定され、XRDによる解析結果とも整合的であった。このように、TG分析により測定される総蛇紋石量に占めるアンチゴライト量比をDTG曲線のピークフィット解析により比較的精度良く推定することが可能であることがわかった。
【引用文献】
竹下ほか (2018), 地質学雑誌, 第124巻, 第7号, 491–515.
Igarashi et al. (1985), Jour. of the Faculty of Sci. Hokkaido Univ., Series 4, 21(3), 305-319.
Viti, C. et al. (2011), American Mineralogist, Vol. 96, 1003-1011.